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昼に寝て夜働いてお金と時間を捨てる

だいぶ端折ることになりますが、予備校はろくに通ってなかったので、大学受験は見事に失敗に散ります。というか、勉強してないので本来入試を受ける資格もないのですが。

もっと詳しく話すと、大学なんてどこでもいいし、親の期待に応えるためだけに、名前を書けば受かるようなとこを適当に受けとくか(どうせ小説家になるし)、とか思っていたのですが、なまじ某有名大学の附属高校に通っていたせいで、親からその大学以上の大学しか受験させないと言われ、何も勉強しないまま有名私立(慶応や早稲田)のみ受験させられ、なんのこっちゃわからないまま全滅というオチでした。

わざわざ待つ必要のない結果を待ち、最後の不合格通知を見た足で町の床屋に行き、人生初の丸坊主にしました。正座で父の帰りを待ち、帰宅直後の父に丸めた頭で謝罪。父は無言で書斎に向かい、封筒をぼくに手渡すと「これやるから1週間以内にこの家から出て行け。」と言いました。
封筒の中身は現金30万円でした。

次の日からぼくは血眼で物件を探し、本当に1週間で家を出て、19歳から一人暮らしがスタートします。

全財産30万は物件の初期費用で一瞬でなくなり、今度は血眼でアルバイトを探しました。とにかく時給の高いところ、と思ってたまたま目についた有名居酒屋チェーンに電話し、面接に受かってすぐにそこで働き始めます。

本当に偶然なのですが、番長も同じ状況で家を追い出され、彼はなぜかぼくの家に居候することになり、ぼくの家で植物みたいにじっとしながらずっと煙草を吸ってました。

ぼくは夕方17時から居酒屋のバイトで、翌朝5時まで働き、始発で家に帰る毎日で、6時過ぎに家に着くと、番長がコタツで1人麻雀をしながら咥え煙草で「おかえり」と言ってくれます。
ぼくは帰りしなコンビニで買ったサンドイッチやおにぎりを机においてシャワーを浴び、それを食べてる番長を横目にベッドで眠ります。

15時頃、目を覚ますと番長が1人麻雀をしながら咥え煙草で「おはよう」と言い、ぼくもおはようと言ってバイトの準備をして家を出ます。
本当にこんな毎日を過ごしていました。

この時期の記憶がないから想像も混ざりますが、たぶんこの頃も小説家になれるつもりでいたんだと思います。いや、どうだろう。もしかしたらそんなことも忘れてただ生きてるだけだったかもしれません。

ある日、バイトも休みでやることもなく、番長と卒業した高校に遊びに行こうということになりました。学校につき、とりあえず担任の先生に挨拶して回ることにして、まず番長の担任の先生に挨拶にいきました。

「元気にしてんのか」とか「まだ若いからなんでもできるぞ」とか、定型分みたいな会話をして、今度はぼくの担任の先生に挨拶にいきました。

「いまどうしてるんだ」
「アルバイトをしながら一人暮らしをしてます」
「そうか、番長もか」
「番長はぼくの家に居候して煙草を吸ってます」
「そうか、一人暮らしして何か学べたか」
「そうですね、お金は使ったら無くなるということと、時間がずっと流れてることを学びました」
「ふむ、それはすごくいい気付きだ、すごく重要なことだから、忘れずに覚えておけ」
「はい、そうします」
「そういうことってな、当たり前過ぎて気付けないんだよ。みんなそれを知ってるつもりで意外と知らないんだ」
「はい、そうかもしれません」
「まあ、頑張れよ」

そんな会話をしました。
ぼくは通っていた頃から割とこの先生が好きで、立派な大人になったらまた挨拶に来よう、と思いながら番長と学校を出て、ヤニの匂いと麻雀牌しかない家に帰っていきました。

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