【自粛をチャンスに】0から始める「メンタルトレーニング」⑤
前回のnoteでは、「あがり」に対処するメンタルトレーニング「リラクセーション技法」と「サイキングアップ」を紹介し、それに併せて「逆U字仮説」についても簡単に触れた。
↓前回の記事↓
今回は、より踏み込んだ心理状態とパフォーマンスの関係性について考える。
メンタルトレーニングの実施に際した心理状態の基本的な概要については、前回紹介した「逆U字仮説」の知識で十分とも考えられるため、より深い包括的なメンタルトレーニングについての知見を持ちたい場合に、本noteを読むと良い。
アスリートのパフォーマンスは、生理的覚醒が高まることで、一般的には向上していくが、過度な生理的覚醒はかえってパフォーマンスを低下させる。このことは、前回紹介した「逆U字仮説」の曲線によってあらわされている。「適当な」覚醒(緊張)の状態が、パフォーマンスの発揮に望ましいことが見て取れる。
参考文献
『スポーツメンタルトレーニング教本 三訂版 』 日本スポーツ心理学会編 pp.109-113 大修館書店(2016)
また、上記したような「競技不安と競技パフォーマンスの関係性」は、より専門的な用語で「多次元不安理論」により説明されてきた。
この理論では,競技不安はうまく遂行できるかどうかの心配に関わる「認知的不安」と,心理的ストレスによる生理的反応の知覚を反映する「身体的不安」の独立した2つに分けられる(Burton, 1988 ; Martens et al., 1990 ; Morris, Davis, & Hutchings, 1981)
(前回も補足したが、これらの競技不安は、前者を「感情」後者を「情動」と区別して考えることができる。)
メンタルトレーニングをより実践的な手段にするためには、これらの「認知的不安」と「身体的不安」の双方を意識的に区別し、適切な方法を選択することが重要だ。そのためには、どのような局面、状況においてそれぞれの不安が表象するかを、ある程度想定し、その局面で用いるべき適切なメンタルトレーニングを準備しておく(トレーニングしておく)必要がある。
例えば、認知的不安は「試合の前日」に表象しやすい。このような不安は、ミスへの強迫観念などが源泉となりやすいが、これに適切なメンタルトレーニングとは何だろうか。不安と逆U字仮説を短絡的に結び付けて、「サイキングアップ」を実施することが有効になり得るだろうか。
逆U字仮説は、緊張(つまり、身体的不安、生理的覚醒)とパフォーマンスの関係を包括的に表してはいるが、前述した多次元不安理論の「認知的不安」と身体的不安の相互作用の問題を説明できない。また、逆U字仮説自体、特定の状況を想定したものではない(時間的概念が含まれていない)ことから、スポーツによくみられる「試合の流れ」に付随した不安とパフォーマンスの関係を実証することが出来ない。
そこで、「認知的不安」を「逆U字仮説」に盛り込んで三次元的に表したものを「カタストロフィ・グラフ」という。X軸は生理的覚醒、Y軸はパフォーマンス(行動)、Z軸は認知的不安とする。
カタストロフィ・モデルにおいて,生理的覚醒は1つの独立変数で,環境刺激に対する生体の段階的に作用する身体的反応として概念づけられ(Pribram&McGuinness,1975),このような身体的反応は不安の文脈において,脅威的刺激に対する闘争/逃避反応であると考えられる(Cannon,1953)。
また、カタストロフィ・モデルで示した認知的不安と生理的覚醒(身体的不安)とパフォーマンスの関係から、ヒステリシス現象を紹介する。
ヒステリシスとは,「認知的不安」が高くなるにつれ,生理的覚醒の比較的高いレベルで,パフォーマンスが急激に落ち込むところがあり,さらに一度パフォーマンスが低下すると,生理的覚醒を多少下げても,パフォーマンスが元のレベルには戻りにくいことを意味する(佐久間,1997)。
カタストロフィ・モデルからもわかるように、身体的不安と認知的不安が高い状態で、ヒステリシスが起こる。例えば、身体的不安や認知的不安が蓄積している(高い状態にある)試合の終盤に、ヒステリシスは発生しやすい。
ヒステリシス現象の予防に取り組むうえで、不安についてのより深い理解は有意義である。
特に、逆U字仮説では説明できない認知的不安を考慮することで、より適切なメンタルトレーニングを選択・実施することが出来る。
具体的なメンタルトレーニングの例は、次回のnoteから紹介していく。
まとめ
逆U字仮説は、パフォーマンスと緊張(身体的不安)の関係性を明示的にするが、認知的不安が考慮されない点で、カタストロフィ・モデルを紹介した。また、それに併せてヒステリシス現象についても学んだ。「不安」という語彙も多義的で、その分選択されるメンタルトレーニングも増える。
次回は、具体的な「リラクセーション技法」の内容を紹介する。
参考書籍
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