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平日20分のモーニング

 街に働きにでるようになってから、少し早めに家を出て会社に行く前に喫茶店でモーニングをすることが多くなった。地元じゃそもそも朝から優雅にモーニングできる店なんてないからせいぜいコンビニでコーヒーを買って車の中で飲むくらいだ。しかしさすが都会。朝7時くらいから営業しているお店が結構ある。駅の中のパン屋や喫茶店だったり、ドトールやスターバックスなどのチェーン店であったり。

 起きる時間より少し早めに目覚ましがなる。眠い目をこすりながら身支度を整え急ぎ足で駅に向かいなんとか1本早い電車に乗り込む。電車に乗ってしまえば一安心だ。電車にゆられながら今日の朝は何を食べようかしらとワクワク。今日は駅の中の喫茶店にしよう。

喫茶店に入るとまずメニューを注文する。ホットコーヒー、ゆでたまご、それから熱々のホットドッグのセットで500円。注文を終えたら席につく。明度の高い木造りの店内に白い光が朝日のように降りそそぐ。全体的にスッキリしているけれど暖かみも感じられる和モダンな内装が心地よい空間を創り出す。四人掛け席にゆったりと腰をかけると、間もなく出来たてほやほやのモーニングが運ばれてくる。まず挽きたてのコーヒーの香りを深く吸い込みながら一口、煙草の煙を吐き出すようにゆっくり口から息を吐く。優雅なブレックファーストの始まりだ。それから熱々のホットドッグを頬張る。焼きたてのパンとソーセージが身体の中で燃えている。炭水化物がエネルギーに変わっていく。それからゆでたまごを割ってむしゃむしゃする。たんぱく質まるまる一個、実に健康的だ。

 

 周りを見渡すとカッチリした服に身を包んだ人か、大きなスーツケースを抱えた人の二種類に大体分かれる。スーツケースを持っている人達は旅行者で、観光地が賑わい出す前に喫茶店で待機しながら、今日の旅行ではずせないスポットや名物グルメについておしゃべりに華を咲かせている。普通にうらやましい。それを横目にスーツやオフィスカジュアルな服にぎゅうぎゅうに詰め込まれた私たちはスケジュール帳とにらめっこし、PCのキーボードをリズミカルに叩いている。

 

 1日の始まりにゆっくりした時間を過ごせるとどんなに忙しくても不思議と少し心にゆとりができるし、自分のモチベーションにもなる。行きたくもない会社に行き、楽しくもないのに愛想を振りまき、締切と怖い先輩に怯ええて働き、月に一度雀の涙のようなお駄賃をもらうだけの人生の絶望感を和らげてくれる。そんな時間がひとりひとりに必要で、わたしにとってそれがこの20分のモーニングだ。だからこの時間がなにより愛おしいしこれからも大切にしたい。

 

 さぁ、明日もモーニングを味わうために仕事もちょこっと頑張りましょうかね。


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