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読まない将棋の局面理解 #1

 突然ですが、前々からやりたかった将棋講座的な連載を始めてみます。
 ちゃんと書けるかわかりませんが、月1くらいの頻度で続けられたらいいなぁと思っています。

 この連載では、毎回1つの局面図をテーマ図として取り上げ、ざっくりした状況分析と形勢判断を行います。
 特定の戦法や定跡を解説するつもりはありません。具体的な手順を符号で並べることもしません。現局面だけを見て「局面の急所はどこか」を考えていきます。目標は「読まなくても急所に手が行く」ことです。
 記事を読んでやりたいことを感じていただけると嬉しいです。

テーマ図

テーマ図

 第1回のテーマ図は、雁木の急戦形の局面になります。私の実戦譜から取り上げています。
 先手が3筋に銀を進出し、▲3四歩と抑えて後手が△2二角と引いた局面です。
 まだ激しい戦いにはなっていませんが、歩交換もあり緊張感が増してきたところです。この局面を考えていきましょう。

1)互いに安定した陣形

図1

 まだ駒台には歩しかないので、盤上の陣形(駒組み)をざっくりと見ていきましょう。

 ぱっと見で、先手後手ともに金銀がそれなりにしっかり組まれていることがわかると思います。金銀の連結が良いのは雁木の特徴でもあります。
 ただ先手は右銀を前線に繰り出しているので中央が手薄です。5七の地点には駒の利きがないため、後の展開しだいで駒の打ち込みなど隙になる可能性があります。この隙間をカバーする手は価値が高そうなので、今後の先手の候補手には入ってくるでしょう。

 また玉の位置を見て、互いに居玉であることに着目しておきます。居玉で戦いになると角のラインに注意が必要ですが、今回の場合は1筋の突き合いが入っているため、あまり弱点にはなりにくそうです。
 むしろ玉が左辺に寄っていないため、相手の攻めから少し遠くなっている意味があります。状況しだいでは右玉への変化もあり、特に後手陣は6筋7筋方面も安定しているので現実的な選択肢と考えられます。

  • 陣形は互いに安定している

  • 先手は中央が手薄なのでカバーしたい

  • 後手には右玉の可能性もある

2)先手の攻め形

図2

 先手は右銀が前線に出ているのが特徴です。さらに手番も握っているため、攻めるチャンスと捉えることができます。

 具体的な攻めの手順が成立するかどうかというのは、読みが必要な話になるため、この連載の趣旨からは外れます。ただ、繰り返し似たような将棋を指している方であれば経験知としてわかる部分も大きいかもしれません。
 今回の図については先手の攻め駒も飛銀歩だけなので、なかなか一気に突破するのは難しそうというのが私の感覚です。

 銀を3五に進出して3四を歩で抑えた形は、すでに1つ軽いジャブを入れたくらいの認識をしても良いと思います。仮に左辺で大きい戦いになったとしても、3四の歩があることで先手から3三に駒を放り込んで攻める可能性があったり、終盤で後手玉の逃げ道がなくなっていたりといった効果が期待されます。
 つまり、敢えて攻めを急がなくてもすでに一定の戦果は出ていると捉えることができます。

 もっと戦果を得たいと思うなら、さらなるジャブを繰り出すこともできそうです。突破するには少し足りないかもしれないけど、飛銀歩の縦の並びは典型的な良い攻めの形ではあるので、動くなら動けそうという感覚です。
 「2五の歩を交換して持ち駒にする」とか「さらに形を乱す」とかいった戦果が期待できそうです。

 軽い攻めを重ねるのではなく、突破を目指してしっかり駒組みを進めるのもありそうです。角や桂の活用を目指したり、角頭の弱点である2三に攻め駒を集中させたりといった指し方です。

  • 先手は既に小さな戦果を挙げている

  • さらにジャブを繰り出すことも可能

  • 突破を目指した駒組みを進める方針もある

3)後手の攻め形

図3

 一方で、後手の攻めはまだ形が整っていない印象です。
 盤上左辺はまだ駒がぶつかっていないため、先手陣は嫌味が無い状態です。8筋は飛車が睨んでいますが、飛車しか攻め駒がありません。

 後手が攻めの形を作るには、銀や桂を前線に送り出す必要がありそうです。参加させようと思うと、もう少し手をかける必要がありそうです。
 仮にカウンター狙いだったとしても、この態勢ではなかなか素早いカウンターができませんので、攻めの形を作ることは現局面での後手の課題と言えるでしょう。

  • 後手は攻めの形が整っていない

4)主導権

図4

 上記のような互いの攻めの形の違いから、局面は先手が主導権を握っていると言えそうです。攻める手もあり、自陣を整える手もあり、先手が方針を選択する局面かもしれません。棋風が出るところという言い方もできます。
 もう少し攻めをつついて戦果を挙げてから、しかし踏み込みすぎずに右銀をうまく引き上げて自陣を引き締め、本格的な戦いに備えるような方針もありそうです。

 後手としては、自陣は相手の攻めに対応する必要があり、その合間を見て攻めの形を作っていかなければいけないというところです。実戦的には少しやりにくい印象があるかもしれません。
 ただ、主導権がないからと言って形勢不利とまではいかないでしょう。先手の攻めも軽いので、それなりの対処をすれば後手が攻めるチャンスも回ってくるように思います。

先手は攻めも守りもある → 棋風に沿って方針を選択する
後手は攻めが遅れている → 相手に対応しながら攻めの形を作る

まとめ

 今回は雁木で先手が先に攻めの形を作った局面を見てきました。形勢はまだまだこれからの局面ですが、主導権は先手にありそうという話でした。

 この連載では局面の理解を深めることを目標としているため、良し悪しや次の一手といった結論的なものはありません。これで終わるの?と気持ち悪いかもしれませんが、実戦では結論が見えないのが通常なので、敢えて放置してみたいと思います。
 こんな中途半端な感じでよければ、次回以降も読んでいただければと思います。次回は対抗形の棋譜から取り上げる予定です。

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