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ある組織におけるIT投資全体の妥当性を評価する難しさ

IT投資、特にソフトウェア開発に投資する金額が妥当かどうか図ることは難しいと思う。つまり、その投資額が高すぎるのか低すぎるのか、という事をIT部門以外の部署が客観的に判断するのは難しい。市場に流通しているパッケージ商品がある場合はもちろん第三者価格が把握できるので評価は可能だ。また、一般的にはROI(Return on investment)やNPV(Net present value)で投資効率、投資成否を判断する。ただ、社内で複数の事業を抱え、また複数の事業で活用できる共通プラットフォームを持ち、なおかつエンジニアは様々なプロジェクトにアサインされて複数事業に関与している場合、正確に開発コストを按分し、各プロジェクトの収益性、利益を把握することが非常に困難だ。

まず、適切に開発費を各プロジェクトに配分するための基準の設定が難しい。そもそも特定の作業にどのくらいの工数がかかるのか、どの程度のスキルセットを持った人材が投入されるべきなのかといった標準を作ることが合理的であるが、そうは言っても新しい事を開発するために標準をどのように設定したら良いか決めるのはなかなか難しい。
また、うまく標準を設定出来たとしても、運用面できちんと工数管理をする必要がある。工数管理を適切に行う事は煩雑であり、出来ればやりたくないだろう。そういった意味で、エンジニアに対して管理のためのインセンティブを提示する必要がある。

次に、上述のROIやNPVを測定する観点からも課題がある。数少ない大きなプロジェクトに対してはROIやNPVは実務的にも有効かもしれない。しかし、規模がそれほど大きくないプロジェクトが多数ある場合には、実際問題管理しきれないだろう。ROIやNPVの優れた計算方法そのものが管理の複雑性を高めてしまう。つまり、ROIやNPVはキャッシュ・フローをベースにした計算を行うが、種々の小さなプロジェクトごとにキャッシュ・フローベースで管理していくのは非常に手間がかかる。そして、キャッシュ・フローベースでの管理をより難しくするのは、開発費の資産化の基準だ。会計上、開発費は資産化されるものと即時費用化されるものに分かれる。つまり、開発関連でキャッシュ・アウトが100あったとすると、例えば30は当期の費用として、70資産化されるとする。その70のうち10は当期の償却費、残りの60は翌期以降の償却費となる、というように当期におけるキャッシュ・アウトと会計上の費用の金額が異なることが通常だ。
会社では現金主義ではなく発生主義で記帳される。つまり、キャッシュ・ベースではなく先ず第一に利益ベースの計算が行われるのである。なぜなら、当然ながら会社(経営者)は株主や債権者に対して説明責任を負っており、その責任を果たすために会計報告を行う必要があるからだ。そのため、キャッシュ・ベースでの管理は、上場企業として法的に求められるケースか、自主的に内部管理しているケースになる。つまり、利益管理に加えてキャッシュ・ベースでの管理を行わないとROIやNPVの計算が出来ず、これらの計算を数多い小さなプロジェクトの採算管理として用いることが費用対効果の観点からやるべきかどうかは、判断が難しいところだ。金額や数次第だろうが、多くの場合はそういった煩雑な管理はしないだろう(もちろん、世の中にはやっている会社もあるはずだ)。

このように見ていくと、ある程度大きなIT部門、あるいはその部署を構成するチームごとに、あるいはある程度大きな事業単位ごとに、「売上高対IT投資比率」のようなものを用いて、ざっくりとした数値を用いて同業他社と比較したり、期間比較したりする方法が現実的かもしれない。もちろん、金額の大きな投資は都度NPVやROIを事前に計算して投資対効果を確認したうえで投資をする必要があるだろう。

誰か良い方法教えてください!!

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