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世界最高水準のカジノ規制はまやかし 米カジノ企業の要求で規制緩和【塩川鉄也の国会質問ピックアップ】

世界最高水準のカジノ規制とはー。

「世界最高水準のカジノ規制を的確に実施する」(安倍総理:2018年5月22日本会議にて)
政府は、依存症や多重債務、犯罪組織の関与など、カジノの負の影響への対策として、こう説明してきました。

しかし、実際には、カジノ面積の上限規制の緩和、カジノ事業者による客への金の貸付けの容認、カジノ管理委員会事務局にカジノ事業者が入ることもありうるなど、世界最高水準からはほど遠いものとなっていることが、論戦で明らかになりました。
その経緯をたどると、米カジノ企業の姿が見えてきます。

1.カジノ面積の上限規制(1万5000㎡)を撤廃

カジノの面積が大きくなれば、依存症など負の影響も大きくなります。
この対策として、法案の準備段階では、カジノ面積の上限は「絶対値」で規制すべきだと議論がなされました。シンガポールでは1万5000㎡を上限規制としている例を参考にしたものです。
ところが、法案では、絶対値の規制は取り払われ、IR施設面積に対する「相対値」による規制のみとなりました。これにより、IR施設全体を大きくすれば、いくらでも大きなカジノが作れる仕組みとなりました。

一体、何故。誰の要求なのかー。

<衆院内閣委員会2018年6月1日から抜粋>
【塩川議員】
アメリカのカジノ資本からいろいろな要望が出てきております。

昨年の9月の1日に、米カジノ大手のラスベガス・サンズのシェルドン・アデルソン会長が大阪府庁を訪れて、府知事、大阪市長と会談をしました。アデルソン氏は、IR整備推進会議取りまとめを批判して、上限設定があると、カジノの収益で採算性の低い国際会議場や娯楽施設の運営が賄えず、我々が望んでいたようなIRを実現できないと述べていたということであります。
絶対値規制を取り払ったというのは、こういったカジノ事業者の要求を優先したからじゃないですか

米カジノ大手のラスベガス・サンズのアデルソン会長がカジノ面積の規制緩和を要求したことが報道されています。
カジノ企業のトップが堂々と規制緩和を要求するというのも凄いというかなんというか…。彼らにとっては当然の要求ということなのでしょう。

【中川政府参考人】
政府といたしましては、この推進会議の取りまとめについて、さまざまな方から、内外の方を含めて、意見をいただくためのパブリックコメントも実施いたしましたし、また日本の各地に出かけて説明・公聴会をいたしました。
そういうパブリックコメントなどを踏まえて、寄せられた意見も踏まえて、政府の方で検討を進めた結果を先ほど来御答弁申し上げている次第でございます。

【塩川議員】
肝心の政策変更の過程というのがわからない
んですよ。だから、政策立案過程をきちっと記録をして、それを保存し、そしてその後、公開をするという公文書管理法の基準から照らしても、こういう説明は納得いかない。

カジノ事業者の要求を優先したからではないかー。
政府が「はい。その通りです」と答えるはずもありませんが、しかし、明確に否定もしませんでした。さすがにそこまでは言えなかったのかもしれません。

2.カジノ事業者が客へ金を貸し付けてもOK

公営ギャンブルやパチンコでは、事業者が客へ金を貸し付けることは認められていません。しかし、カジノ企業には客への金の貸し付けを認めています
さらに、貸金業法では、貸付限度額は年収の3分の1と決まっている(いわゆる総量規制)のに、カジノの貸し付けには適用されません。
総量規制は、多重債務問題が深刻化したことを受けて、過剰貸し付けを防止することを目的として導入されたもので、政府も一定の成果があったと認めています。
それなのに、そのルールの適用外とすることは、依存症や多重債務者の拡大につながるのではないかー。

◆カジノ事業者による貸付けは総量規制の枠外
<衆院内閣委員会2018年6月1日から抜粋>
【塩川議員】
カジノ事業者の顧客への貸付けというのは貸金業法の総量規制の枠内になるのか枠外になるのか。


【中川政府参考人】
この整備法案の中で提案しております特定金融業務につきましては、貸付業務につきましては、貸金業法の総量規制こそ採用しておりませんけれども、顧客一人一人の貸付限度額の設定を事業者に義務づけております。

【塩川議員】
過剰貸し付け抑制のための総量規制をかけない、それはなぜですか

【中川政府参考人】
カジノ事業者が行う特定金融業務につきましては、日本人の中では一定以上の金額をカジノ事業者にあらかじめ預託できる資力を持っている者に限定しているわけでございます。

【塩川議員】
もともと総量規制の年収の三分の一の枠内におさめるように制度設計すれば過剰貸付けの心配はないでしょうということについては、全くお答えにならない。
参考人質疑におきまして、多重債務問題にも取り組んでこられた新里宏二弁護士は、これまで、日本の公営ギャンブル、パチンコで事業者が現場で貸付けをすることはないし、あってはならないことと考えられてきた、ギャンブル依存症に直結するからにほかならないと述べていたわけです。
総量規制の枠外にするという扱いという点でいえば、カジノ事業者を特別扱いするものだ。

カジノの貸付けは、一定以上の資力のある人だけを対象にするので、総量規制の対象としないという答弁。
しかし、「一定の資力」の範囲は曖昧です。また、お金持ちであっても、大王製紙の元会長のようにギャンブルに熱中して、100億円を超える会社の金を横領する背任事件を引き起こすなど影響は深刻です。
なぜ、カジノ事業者だけは特別扱いをするのか。
在日米国商工会議所から意見書が出されています。

【塩川議員】
在日米国商工会議所の意見書では、IRにおける顧客への金融サービスの提供を認めること、これは日本でカジノビジネスが成功する上で不可欠であると要求をしています。
まさにカジノ事業者の要望に応えるというものをこの制度設計で盛り込まれたということですね。


【石井大臣】
先ほど政府参考人が述べましたが、IR整備法案においては、カジノ事業者による日本人等に対する貸付けにつきましては、対象者を一定の資力を有する者に限定をいたします。

石井大臣は「一定の資力以上の人に限定する」とさきほどの政府答弁を繰り返しました。しかし、明確に否定もしませんでした。

3.カジノ管理委員会がカジノ推進機関に…

カジノ・IRを規制するために設置されるカジノ管理委員会は、カジノ規制の中枢を担う規制機関として高い独立性や公平性が求められます。このことは政府も認めています。
しかしその実態はー。
・カジノ管理委員会の経費を負担するのは、規制されるはずのカジノ企業。
・カジノを推進する立場の行政機関(国交省や経産省など)との人事交流も禁止されていない。
・カジノ管理委員会事務局にカジノ事業者が入ることもありうる。

これでどうして独立性・公平性が確保できるのか。

◆カジノ・IRを推進する行政機関との人事交流OK
<衆院内閣委員会2018年6月8日から抜粋>
【塩川議員】
カジノ管理委員会の事務局が組織として独立性を担保するために、カジノ管理委員会事務局とIR推進の行政機関との人事交流を規制するという規定は、法文のどこにありますか。


石井大臣】
カジノ管理委員会の事務局につきましては、他省庁との間で行われる人事交流について制限を設けることは考えておりません。


塩川議員】
IRを推進する部局と、まさにカジノを規制する、カジノを管理する部局と、これは人的にも分けるのは当たり前じゃないですか

【石井大臣】
IR主務大臣とカジノ管理委員会、二つの組織が新たに設けられるわけでありますが、これら二つの行政目的は、互いに相反するものではありません。

【塩川議員】
(IRの)もうけは八割がカジノから来ているんですから、IR推進、どんどん広げようと思えば、カジノをどんどん広げるということにならざるを得ないじゃないですか。それはもう、カジノ管理委員会の目的、きちんとした規制をするというところと相反する方向なんですよ。だからこそ、組織としての独立性を担保するということを、事務局の議論でも有識者の議論でも行ってきたんじゃないですか。

推進機関と規制機関を分離することの重要性は、福島第一原発事故が示しています。
当時、原発を推進する資源エネルギー庁と、規制する原子力安全・保安院が同じ経済産業省内にあり、人事交流が行われていました。これにより規制機関が推進機関に取り込まれる「規制のとりこ」が起き、監視機能が果たせていなかったことが事故の要因の一つになったとの指摘があります。
こうした反省から、原子力規制委員会の設置法では、原子力規制庁の職員については、原子力利用の推進に係る事務を所掌する行政組織への配置転換を認めないという、いわゆるノーリターンルールが規定をされています。

しかし、カジノ管理委員会事務局では推進機関との人事交流が認められているだけでなく、さらに驚くべきことにー。

◆カジノ管理委員会事務局にカジノ事業者が入ってもOK
【塩川議員】
もう一つ指摘をしたいのが、このカジノ管理委員会が組織として独立性を有するために、カジノ管理委員会事務局にカジノ事業者を入れるということはないですね。

【石井大臣】
カジノを管理するためには、カジノの実態を知っている人を任用するということも一つあり得るかもしれません。

この答弁には委員会室中にどよめきが広がりました。
石井大臣は、カジノ管理委員会事務局にカジノ事業者が入ることもありうると。
カジノ管理委員会事務局は、カジノ規制の中核です。そこにカジノ事業者が入るとは…。規制される側が規制する側に入ってOKとは驚きです。

【塩川議員】
中立公正性に疑念が持たれないように、カジノ事業者は事務局に入れないと規定すればいいじゃないですか

そもそも、カジノ管理委員会の経費は誰が負担するのか。規制対象のカジノ事業者が負担するんですよ、納付金から出るんですから
カジノ管理委員会は、カジノ規制のノウハウについてもカジノ事業者に劣後をし、カジノ事業者との人的結合、官民癒着の疑念は排除をされず、財政的にもカジノ事業者に依存する。金も人もノウハウもカジノ事業者に依存する。カジノ管理委員会は、カジノ規制機関ではなく、カジノ推進機関になりかねないじゃありませんか。
規制機関が規制される事業者に取り込まれる、規制のとりこが大問題となった、あの原発事故の過ちを繰り返してはならない。

4.安倍総理が米大手カジノ企業TOPと朝食会

カジノ実施やカジノ規制の緩和は、米カジノ企業からの要求が背景にあるのではないかー。
安倍総理が、トランプ大統領との初めての首脳会談を行った日の朝食会には、米カジノ大手企業のトップ3人が出席していました。問題の核心へ、安倍総理に直接迫りました。

安倍総理朝食会2

<衆院内閣委員会2018年6月1日から抜粋>
【塩川議員】
日本経済新聞の2017年6月10日付で、昨年の2月の日米首脳会談について報じた記事がありました。
『晋三、こういった企業を知っているか』アメリカで開いた2月10日の日米首脳会談、トランプ大統領は安倍晋三首相にほほ笑みかけた、日本が取り組むIRの整備推進方針を歓迎した上で、米ラスベガス・サンズ、米MGMリゾーツなどの娯楽企業を列挙した、政府関係者によると首相は聞きおく姿勢だったが、隣の側近にすかさず企業名のメモをとらせたとあります。これは事実でしょうか。

【安倍内閣総理大臣(当時)】
まるでその場にいたかのごとくの記事でございますが、そんな事実は、これは全く、一切なかったということをはっきりと申し上げておきたいと思います。

【塩川議員】
にわかに、そういった話がないと言えるのかということで、その日は、朝、首脳会談に先立って、総理出席の、全米商工会議所、米日経済協議会の共催の朝食会が開かれていたわけであります。
アメリカ側からは、ビジネスリーダーが十四名参加をしている。そのアメリカ側のビジネスリーダーの十四名の中には、ラスベガス・サンズの会長、MGMリゾーツの会長、シーザーズ・エンターテインメントのCEOなど、カジノ企業のトップが出席をしているわけです。
その場に総理が出席をして、意見も聞いている。
直接、日本のIRカジノについて、米国の企業から要望をお聞きになったんじゃありませんか。

【安倍総理】
それは、朝食会では、超党派の連邦議員や米国企業CEO等、日米関係のさらなる強化に向けて意見交換を行ったところであります。
私からは、二〇一六年十二月にIR推進法が国会を通過し、公布、施行されたこと等を紹介したところ
でございます。
参加者の中にはカジノ経営者が含まれておりましたが、統合型リゾート施設は観光立国を目指す日本にとって有益である点、また、IRに対する社会的懸念等の課題の解決に貢献していきたい等の発言があったところでございます。

20190601安倍総理2

【塩川議員】
その具体的な要望の中身をぜひ明らかにしていただきたいと思っています。トランプ大統領の最大の支援者がこのラスベガス・サンズのアデルソン会長だと言われているわけで、そういう点でも、実態はどうかということをぜひ明らかにしていただきたい。

【安倍総理】
急な御下問でございますが、今事務方に確認をいたしましたら、要望等は一切なかったということでございます。

【塩川委員】
今回のカジノ実施法案の内容において、当初、依存症対策のためにも一万五千平米というカジノ施設面積の上限規制があったのに、それを外してしまうという経緯があるということは、きょうの委員会でもただしたところであります。
ラスベガス・サンズのアデルソン会長や、あるいはMGMの日本法人のエド・バワーズCEOなどが、こういった上限設定を外してくれとか、最低3万平米は欲しい、こういう要望を上げていたわけであります。
絶対値の規制をIR施設面積に占める割合に変えたというのは、依存症対策よりも、このようなカジノ事業者の要求を優先したと言わざるを得ないのではないのか。
カジノで金もうけなど、国民の理解は得られません。カジノ企業の要求ではなく国民の声こそ聞け、カジノ実施法案は撤回せよ、このことを申し上げて、終わります。

まとめ

朝食会に出席したラスベガス・サンズの会長はトランプ大統領の最大の支援者とも言われた人です。
安倍総理はその場でカジノ推進の取組について自ら紹介したと言います。朝食会の場ではカジノ企業側から要求はなかったとの答弁でしたが、その後、「カジノに貸付けは不可欠だ」「カジノ面積をもっと広げろ」と要求してきたのは、米国カジノ企業でした。
そして、その通りの内容がカジノ実施法に盛り込まれました。

誰のためのカジノなのか―。
<スタッフ>

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