海外動向 8/7〜8/13
当研究所では、ケーブル業界の独自の視点で放送・通信・メディア等に関する海外動向の調査・分析を行っております。このノートでは、おもに海外で一般に公開されたニュースや企業からの発信情報をもとに興味深いものをご紹介します。
◆ 今週の重要トピック
メディア業界にとってこれまで重荷と言われてきた配信サービスですが、各社の第2四半期の決算発表では黒字化、もしくは赤字の縮小が進み明るい兆しが見え始めています。その一方、既存の放送事業は巨額の減損処理を余儀なくされています。新興の配信サービス専業が勝つのか、既存の総合メディア企業が生き残るのか。各社の経営手腕が問われているようです。
◆ メディア
Disney、4月から6月までの四半期で配信サービスが初めて黒字に
配信サービスDisney+、Hulu、ESPN+の「営業利益」合計は、前年同期が5億1200万ドルの赤字だったのに対し、今期は4700万ドルの黒字となりました。放送、映画、テーマパークなど事業全体では売上は231億6000万ドル、利益は前年同期比19%増の42億2500万ドルで、アナリストの予想を上回っています。配信サービスの黒字化については、収益の計上セグメントを変更したことが影響している可能性があります。今期からESPN+はスポーツ部門に、Disney+とHuluはエンターテイメント部門となっています。5月に「Disney+とHuluだと黒字だが、これにESPN+を合わせると赤字になる」、つまりESPN+の損失が大きいとコメントしていましたが、今期は真逆でESPN+が外れたエンターテイメント部門の配信サービス収益では1900万ドルの損失となっています。
米国では10月17日にDisney+、Hulu、ESPN+を値上げ
Disney+は月額2ドルの値上げで広告ありプランが9.99ドル、広告なしが15.99ドルとなります。1年前にも値上げを行なっています。なお日本での価格改定については発表されていません。
ワーナーが第2四半期の決算を発表、純損失が100億ドルに
純損失には放送ネットワーク部門の現金支出を伴わない、のれん代の減損費用91億ドルが含まれます。売上は前年同期比5%減の97億ドルでした。第2四半期に債務を18億ドル返済し総負債は414億ドル、手元現金は36億ドルとなっています。Maxなど配信サービスの加入者は全世界で360万契約の増加、合計1億330万です。
Paramoutの第2四半期決算、放送資産60億ドルの減損を計上、配信サービスは黒字化に成功
放送関連の資産評価額を現状に沿ったものにするための減損措置です。Paramount+は韓国の事業者がバンドルを解除したことに伴い加入者数は減少したもののARPUは前年比26%増となり、営業利益は4億5000万ドル増加し2600万ドルの黒字となっています。
スタジオで相次ぐ放送資産の減損措置、その背景にあるのは?
ワーナーが91億ドル、Paramountが60億ドルもの巨額な減損措置を第2四半期決算に盛り込みましたが、その背景を分析しています。これらの措置は第2四半期に損失を被ったというわけではなく、過去数年間続いてきたケーブル事業者のテレビ加入者の減少傾向により、結果としてチャンネルの収益が悪化。これは加入者数に応じて料金が支払われるためですが、それが今後、改善される見込みは小さく、現状に合わせた利益水準で放送資産を再評価した結果だというものです。
アニメを中心としたソニーの配信サービスCrunchyrollが有料会員数1500万を突破
ソニーの第2四半期決算で公表されました。現在、5万エピソード、2万5000時間に及ぶ世界最大のアニメ専門ライブラリーを持っています。また、昨年、ソニー・ミュージックエンタテインメントと提携しアニメ関連のミュージックビデオやコンサートを配信しています。
メガスポーツアライアンスVenuは9年間限定!?
Disney、ワーナー、Foxが共同で設立するジョイント・ベンチャー「Venu」の契約書に、なぜか9年という有効期限が設定されているというものです。裁判所に提出された書類により明らかになりました。なぜ、こういったあまり一般的でない有効期限が設定されているかについて、この記事では2つの推測をしています。一つは裁判への対策。スポーツ中継を売りにしているFuboはVenuを反トラスト法違反で訴えていますが、これに対し「存続期間が有限な会社が市場を支配し続けることはない」といったニュアンスを与え、裁判で有利に運ぶためだというもの。もう一つはNFLとの契約。Disney、Foxは他4社と組んで2033年まで総額1000億ドルの放映権契約を結んでいます。この契約段階ではVenuはなく、もしVenuがあったらさらに高い金額をNFLが提示していたのではないかと推測。つまり2033年というのはVenuの有効期限の終わりの年であり、ちょうどNFLと次の契約交渉を行う年でもあり、それを有利に進めるためではないかというものです。
米国のローカル広告、2025年には既存メディアをデジタルメディアが上回る
BIA Advisory Servicesによる予測です。大統領選などで用いられる政治的な広告を除いたもので、ケーブルテレビや地上波、新聞、雑誌といった既存メディアの広告は全体の48%、820億ドルなのに対し、配信サービスやWeb広告などのデジタルメディアは52%、890億ドルと予測しています。
現役世代はおそらく知らない日本の古典SF映画「ガス人間第一号」をNetflixがリメイク
1960年に東宝が製作したものです。今回、Netflixと東宝が初めてタッグを組みオリジナルストーリーの作品を製作、Netflixで独占配信されます。
◆ 業界再編(M&A)
オーストラリアのFoxtelが売却される見込み、買い手候補にはComcastの名前も
Foxtelはオーストラリア全土で多チャンネルやモバイルサービスを提供する大手事業者です。News Corpが65%、Telstraが35%の株式を保有しており、NewsのCEOが「資産を見直しているタイミングでFoxtelの潜在的な買い手が現れた」とコメントしています。CEOは具体的な売却先を明らかにしていませんが、OptusやComcastが噂されています。
英国BTの株式24.5%をAlticeがインドの複合企業Bharti Enterprisesに売却
英国の最大手テレコムBTの株式の24.5%をAlticeが保有していますが、まず9.99%をBhartiが購入。これはアナリストによると9億8000万ポンドの価値があると言います。続いて規制当局の許可が下り次第、残りの14.51%を購入する予定です。Alticeを保有するPatrick Drahi氏は事業拡大などによる600億ドルもの負債が重荷となり事業整理を図っています。Bharti Enterprisesは、Sunil Bharti Mittal氏が保有する企業で、Mittal氏は資産230億ドルと推定されています。
ソニー、Paramountの買収はないとコメント
CFOによるものです。ソニーは以前、Apolloと合同でのParamount買収を検討していると言われていました。その後、Skydanceによる買収が決まり、現在、Go Shopと呼ばれるSkydance以外の買収提案を待つ期間に入っています。
◆ 業界動向
CommScopeがFDXとESDの両方をサポートしたDOCSIS 4.0機器を開発
CEOが第2四半期の決算発表の場でコメントしています。上り下り10GbpsをサポートするDOCSIS 4.0にはFDX(Full Duplex DOCSIS)とESD(Extended Spectrum DOCSIS)の2方式がありますが、両方に対応したモデム、アンプ、ノードを9月下旬までに開発できる可能性があるということです。
◆ インフラ
世界の固定ネット契約世帯が15億に迫る
Point Topicsによる2024年第1四半期の調査レポートによるものです。前期から1.22%増の14億5000万世帯となっています。地域ごとの契約数だと、もっとも多いのは中国が含まれる東アジアでほぼ半数となる50.2%を占めます。固定ネットのタイプ別シェアでは光ファイバーが圧倒的でFTTH/FTTBが70.24%。このシェアは年々増加しています。逆に減らしているのはケーブルモデム(DOCSIS)とDSLです。記事中で「Wireless」と書かれているタイプはFWAが中心ですが、これはシェアが1.89%で前期比0.03%増となっています。
◆ その他
米国ではテレビの使い方に大きな変化が起きている
テレビの電源を入れて多チャンネル放送を見るというスタイルは昔話になりつつあるようです。調査会社Hub Researchが2024年5月に16歳から74歳までの2517人にインタビューし、テレビの使い方を分析しています。ここでいうテレビとはインターネットに接続されたスマートテレビを指します。
テレビの電源を入れたときに最初に見る画面。日本ではラストチャンネル(電源を切る前に視聴していたチャンネル)を表示するのが一般的ですが、米国では38%がスマートテレビのホーム画面に表示されるアプリの一覧画面と答えています。続くのが27%でRokuやApple TVといった配信サービスを利用するためのSTB の画面。ケーブルなど有料多チャンネルサービスの視聴に使うSTBは3番目で19%。アンテナ経由で受信した放送チャンネルと答えた人は10%しかいませんでした。
視聴する番組を探す方法は50%がNetflixやDisney+などのアプリを使用、26%がスマートテレビのホーム画面に表示されたお勧め番組、残りの24%がテレビの番組検索機能を使っています。そのアプリですが、テレビを最初にセットアップしたときに、スマートテレビのOSがお勧めしたアプリをインストールした人が51%と高い割合を示し、また半数近くの47%がセットアップ後、ほとんどアプリを追加しないと答えています。最後にテレビを買い替える際に考慮することとして、79%が既存のテレビと同じOSの製品を選ぶと答えており、テレビのOSとアプリが番組視聴において重要な意味合いを持つことがわかる結果となっています。
米国では掘削事故により6分間に1回ファイバーが切断!? VerizonがAIを用いて解消を試みる
Verizonによると、工事業者が掘削の際に誤って埋設された光ファイバーを切断してしまい、結果としてこのファイバーを使用している顧客が数時間から数日、ネットワークにつならなくなる事故が6分に1回程度の頻度で発生しているということ。掘削情報をAIで分析することでリスクの高い掘削現場を特定し、工事を行う掘削業者に対してVerizonが追加のコミュニケーションを取り、事故を未然に防止するというものです。
英国のISPがわずか29分で新規顧客宅にFTTHを設置と発表
これにどんな意味があるのかわかりませんが、英国のISP、Grainが発表しています。これまでの最短は36分だったということです。この時間には顧客からの電話での申し込み、作業員が顧客宅へ移動、回線を引き込みONUやルーターを設置、動作確認、撤収までの時間が含まれているということ。どうやったんでしょうね。
監修者・執筆者:J:COM あしたへつなぐ研究所 編集部メンバー
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