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海外動向 6/5〜6/11

当研究所では、ケーブル業界の独自の視点で放送・通信・メディア等に関する海外動向の調査・分析を行っております。このノートでは、おもに海外で一般に公開されたニュースや企業からの発信情報をもとに興味深いものをご紹介します。


◆ 今週の重要トピック

米国では、モバイルとケーブル事業者が真っ向からぶつかっています。モバイル側はVerizonを筆頭にFWAで固定ネットのシェアを奪い、ケーブルはComcastとCharterがモバイルサービスの加入者を大量に獲得。モバイルだけ、固定だけでは生き残れないという予測をするレポートまで登場しました。

◆ 業界動向

米国の第1四半期、モバイル純増の75%をケーブル事業者が獲得

Verizon、AT&T、T-Mobileといったモバイル事業者とComcast、Charterなどのケーブル事業者が提供するモバイルサービスを合算したマーケットシェアです。ComcastやChaterは、自社の固定ネットユーザーのみにモバイルを販売しており、固定とモバイルのバンドル販売(ディスカウント)が強力な武器になっているようです。対するモバイル事業者は、固定ネットのカバー地域が限定的。最も大きい(広い)AT&Tでも全米の12%、続くVerizonは9%にとどまり、同様のバンドルを積極的に展開しにくい状況です。

第1四半期末の時点でのモバイル加入者はComcastが690万、Charterが830万です。

Comcastがモバイル料金を値下げ、Charterとの比較(3/26)
Comcastがモバイルの値下げを行ない、Charterの価格水準に近づいてきました。Charterの価格はかなり思い切ったもので、加えて世帯あたりの加入数に関係なく同じ価格(低価格)。対してComcastは、加入数に応じて割引率が高まる仕組み。参考までにVerizonの廉価契約「Unlimited Welcome」だと1回線だと65ドル(Comcast $40, Charter $30)、4回線30ドル($25, $30)です。

Charter、モバイルの他社からの乗り換えユーザーに最大2500ドルの補助(5/21)
Charterが他社モバイルからの乗り換えに対し最大で2500ドルの補助を出すと発表しています。日本円だと40万円弱という驚きの金額。スマホの分割購入の残債などが対象のようです。ただしこの金額の補助を受けるには3回線以上の契約といった制限が付いています。

米国の2024年第1四半期モバイルマーケットの状況(5/11)
モバイル事業者にとってもFWAが主要な増収(成長)要因になっているというもの。2024年第1四半期でFWAの契約者は880万まで増加。第2四半期以降は意見が分かれており、この傾向が続くという予測もあれば、その逆、そろそろ止まるというものもあります。

米国、ComcastとCharterによるモバイルサービスの強みはWi-Fiオフロード

モバイル事業者と戦っていくには、ケーブル事業者も強いモバイルサービスを持たないと厳しいというもの。ComcastとCharterは、いずれもVerizonのネットワークを使用したモバイルサービス(MVNO)を展開し、価格などを武器にシェアを獲得しています。このようなモバイルサービスは大手でないと難しく、結果、小規模なケーブル事業者はFWAの脅威を受けやすいというものです。

ただ、トラフィックをそのままVerizon(MNO)に流していてはコストが膨らみ、思い切った価格体系は打ち出せません。そこで、ComcastとCharterは都市部に強固なWi-Fiカバレッジを構築。これによりモバイルトラフィックのCharter 88%、Comcast 90%をWi-Fiにオフロードすることで、顧客には低価格で、利益のあがるモバイルサービスを実現しているということです。

加えて、ComcastとCharterは、自社が保有していたモバイルサービスで使用する周波数帯の免許をVerizonに提供することで、有利な卸売契約を結べていることも強みだと言われています。

Comcast、Wi-Fiオフロードを1Gbpsに増速、設置数は全米2300万か所(4/23)
Comcastがモバイル「Xfinity Mobile」でWi-Fiオフロードのために設置したWi-Fiホットスポット(公衆Wi-Fi)を1Gbpsに増速したというもの。全米2,300万か所という膨大な数を設置しています。これによりXfinity Mobileのトラフィックの90%をWi-Fi経由で処理しています。

ASEAN地域のテレコムとデータセンター事業者が提携しAseanConnect.Oneを結成

日本ではあまり馴染みがない会社ですのでここでは書きませんが、この地域の7社が提携しています。国境を跨いだ配信サービスの効率的な運営などがメリットとして挙げられています。

◆ 規制・政策

英国、固定ネット事業者の切り替えを容易にするOTS

Ofcom(イギリスの情報通信庁、Office of Communications)では、事業者の切り替えを容易にするためにOTS(One Touch Switch)プロセスを導入しようとしています。この記事では、これを最短1日でできる仕組みを考案したとあります。通常は1週間くらいを前提としていました。ただ、1日にしてしまうと切り替え前後のISPから顧客への確認や、もし間違っていた場合は顧客からの中止要求などをやりとりする時間が確保できません。そうなると、悪意を持った事業者が勝手に切り替えるリスクが生じ、これを「スラム化(SLAMMING)」と呼び、何らかの対処が求められていました。

日本で馴染みの少ないOTSですが、固定ネット事業者の切り替え負担を小さくすることで、流動性を向上させ、結果として事業者間の競争が活発化、より良い固定ネットサービスへと発展させていくことを目的とした制度かと思われます。Ofcomの調査によると、固定ネットの切り替えを断念した人の41%は乗り換え前後のISPに連絡する手間が面倒なためということ。これをOTSルールにより低減します。このルールは2021年9月に打ち出され、2023年4月から稼働させる予定でしたが大幅に遅れており、現在は2024年9月12日からとなっています。

FCCが一部顧客に対して優先的な通信環境の提供を禁止

米国で4月に成立したネット中立性ルールを明確化する過程でのもの。一部の顧客に対し意図的に低速にすることは禁止していましたが、その逆もダメだというものです。ただ、これがAT&TのTurbo(優先的に高速通信ができるモバイルネットサービス)にも該当するのかどうかは不明です。

スポーツメガバンドルVenuに対する規制当局の動き

Venuの今秋サービス開始に向けて様々な動きがあります。Venuを保有するDisney、ワーナー、Foxと議員による協議が行われているほか、司法省も独占禁止法上の審査を行うようです。また、スポーツに強い配信サービスFuboは反トラスト法違反で訴えを起こしていましたが、この審理が設定されました。このほか、Fubo, Dish Networkなど数社が共同で議会に対して公聴会の開催を要請したということです。

VenuはDisney、ワーナー、Foxが株式の1/3ずつを持ち合うジョイントベンチャーです。各社がそれぞれ持っていたスポーツ系の配信チャンネルを統合して提供するもの。数多くのスポーツがカバーされることからケーブル事業者やスポーツ系配信事業者との関係が危惧されています。気になる提供料金は、FoxのCEOによる発言では「世間で言われているより高い価格(Venuの月額料金)」と示唆されているものの、YouTube TVの月額72.99ドル以下、35〜50ドルと予想されています。

米国Gigapower のCEOがオープンアクセスモデルをアピール

AT&TとBlackRockの合弁会社GigapowerのCEOによる発言です。米国にはBEAD(Broadband Equity, Access, and Deployment)」というブロードバンドのインフラ構築を助成する制度がありますが、この制度を利用するにあたり判断する州側はオープンアクセスモデルを「好んでいる」というもの。インフラ構築・運用と、それを顧客に販売するISPを分け、インフラ構築側にBEADの助成を行うスタイルです。もっとも、これはGigaPowerのビジネスモデルそのものですので発言の解釈はそれを踏まえる必要がありそうです。

◆ メディア

米国、ケーブルの多チャンネル、上位の大半はスポーツ番組

ケーブルの多チャンネルからスポーツ中継がなくなったら、数多くの視聴者を失いかねないというもの。スポーツの配信権で配信サービスへのシフトが進む中、現在の番組視聴率をベースにその影響を分析しています。といっても影響が大きいのは明白で、ニールセンが発表した2023-2024年の7日間視聴率によると、上位10番組中、実に9番組がスポーツです。

米国ではオリンピックを51%の視聴者が配信サービスで視聴する意向

Amdocsによる調査結果です。前回、2021年は生放送が69%でトップ、配信サービスは28%でしたので、急激に配信へのシフトが進んだ印象です。なお視聴者の懸念点としては配信サービスの価格が上げられており、これは若い世代だけに限った話ではないようです。

米国のバスケットリーグNBA、総額760億ドルの放映権契約を締結

DisneyのESPN、ComcastグループのNBC、それにAmazonとの契約で、単年ではなく11年間の総額です。単年だと平均でESPNが26億ドル、NBCが25億ドル、Amazonが18億ドル。この金額は現在の契約260億ドルの3倍程度となります。

SVODの世界売り上げは2031年に2,262億ドルに成長

英国の調査会社MiDiAによるもの。今後8年間で年平均13.3%成長。牽引するのはアジア太平洋地域で2031年には全体の53%を占めると予測しています。

Netflixがテレビ向けの新しいユーザーインターフェイスをテスト中

テストは、グローバルで行っており加入者の一部で検証しています。既存のインターフェイスと比べてシンプルになっています。またパーソナライズ機能の微調整も合わせて行っているようです。

◆ 新技術

Charter、生成AIによるテレビCMで年間2,700万ドルの売り上げ

広告部門であるCharter Reachの発表です。スタートアップのWaymarkが持つ技術を使い2023年だけで7,000以上のCMプロジェクトを手がけ、大きなテレビCM(広告枠)の販売に繋がったということ。Waymarkは自社でCMを制作できない中小企業などを対象に、店舗や製品の写真からCM映像をAIに生成させる技術を持っています。

◆ インフラ

ヨーロッパの固定ネット、ファイバーが中心になるもののHFCの寿命も長い

先週行われたCable Next-Gen Europe 2024というイベントでの論調です。ヨーロッパにおける固定ネットのシェアは、2023年だと約半数がファイバーで、2028年までに65%まで上昇。対してDSLは5年前までは半数を占めていたものの2023年には1/3、2028年には15%に減少。同様にHFCは2028年に11%と予測されています。FWAはヨーロッパでは米国ほど伸びず、2023年の4%から2028年7%となっています。

LGIの戦略・技術担当VPによるこのイベントの基調講演での発言ですが、エリアによりXGS-PON(10Gのネットサービス)を導入したり、DOCSIS 4.0のトライアルを年内に実施したりするようです。他の発言者の発言も総合すると「最終的にはファイバーになるが、HFCもあと10年から20年は存続しファイバーと共存するだろう」とまとめられています。

◆ 業界再編(M&A)

Paramountが配信サービスPramount+の他社との合併を検討

過去にも繰り返し報道されていますが、今回はCEOチーム(Paramountは3人のCo-CEOによる共同経営)による変革(transformation)プランの発表の中で触れられたものです。Paramount+が依然不採算であり競争に必要な規模が不足していることが背景にあります。この他、この計画では一部事業の売却検討のほか、人員削減などによる年間5億ドルのコスト削減が盛り込まれています。

◆ その他

米国、顧客満足度調査、固定ネットではファイバーとFWAが上位に

米国での固定ネットの満足度調査です。ACSI(American Customer Satisfaction Index)が6月4日に公開したレポートによれば、AT&Tのファイバーが80点でトップ、続いてVerizonが77点となっています。このレポートは「ファイバー」と「ファイバー以外」で集計されており、ファイバー以外にはケーブルのDOCSIS、モバイル事業者のFWAなどが入ります。このファイバー以外のカテゴリーでは、トップがT-MobileのFWAで76点、2位がVerizon 74点となっています。ケーブル事業者だとスコア順にCharterとCOXの68点、Comcastの67点でFWAに及ばない結果になりました。

この調査は2023年4月から2024年3月までの期間に無作為で選ばれた25468人からのインタビューに基づいて作成されています。

テレビでの番組視聴、配信のみが58%まで増加

ネット接続できるテレビを販売しているVizioのデータ部門による集計です。テレビで番組をどのように見ているのか、それを配信のみ、配信と放送を併用、放送のみに分類し比率を出しています。最新の2024年第1四半期では配信のみが58%、配信と放送が38%、放送のみが5%という結果です。この調査は2021年第4四半期から始まっていますが、徐々に配信のみが増加、放送視聴者の減少が顕著に表れています。


監修者・執筆者:J:COM あしたへつなぐ研究所編集メンバー

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