投稿 「8・6」「8・9」を終えて思うこと

被爆77年目の8・6、8・9が過ぎた。今年の式典と平和宣言は、広島でも長崎でも、「第3の被爆地を絶対につくってはいけない」という覚悟が伝わってくるものだった。5カ月余り前のロシアによるウクライナへ侵攻が、核兵器使用の脅しをかけながらの侵略戦争だったことがその背景にある。
松井一実広島市長はこう宣言した。
「為政者に核のボタンを預けるということは、1945年8月6日の地獄絵図の再現を許すことであり、人類を核の脅威にさらし続けるものです。一刻も早く、すべての核のボタンを無用のものにしなくてはなりません」
このような宣言を受け、次に注目するのは、核兵器をめぐる国際的な議論がどう展開されるのか、ということである。

8月1日から26日まで、ニューヨークの国連本部で核不拡散条約(NPT)再検討会議が開かれている。各国代表の「一般討論演説」を4日までに終え、8日から、3つの委員会で討議が始まった。
NPTに加盟しているのは、191の国と地域。世界の国々をほぼ網羅している。そのNPT再検討会議の最大の注目点は、最終日までに、核5大国を含む全体の最終合意文書ができるかどうか、ということにある。ロシアのウクライナ侵攻をめぐる対立も続き、今のところ、その見通しはまったく立っていない。

広島出身である岸田文雄首相は、今回の再検討会議に、日本の首相として初めて出席した。NPTが1970年3月に発効して52年がたつ。半世紀を過ぎて初めて、唯一の戦被爆国の首相が参加したというのは驚きでさえある。その岸田首相は開会日の1日に演壇にあがり、スピーチした。核兵器禁止条約には一言も触れなかった。核兵器廃絶に向けて日ごろから口にしてきた「核保有国と非保有国の橋渡し」をどのように進めていくつもりなのか。このスピーチを受けて、世界があらためて注目している。

その「橋渡し」をする絶好のチャンスでもあった6月下旬の核禁条約第1回締約国会議に日本政府は参加しなかった。ウィーンで開かれたこの会議には、NATO(北大西洋条約機構)加盟国であるドイツ、オランダ、ベルギー、ノルウェーの4カ国、それに米国と独自に軍事同盟を結ぶオーストラリアがオブザーバーとして参加した。この5カ国は、直ちに「核ゼロ」を目指す締約国とは立場を異にするが、核廃絶を目指す共通の地盤がないかどうか、他の国々と対話したという。それだけに日本の不参加は考えられないことであり、残念だった。

この秋、11月23日には日本政府の呼びかけで「国際賢人会議」なるものの第1回会合、また来年5月には先進7カ国首脳会議(G7サミット)が、いずれも被爆地広島で開かれる。
G7のメンバーは、日本を除く6カ国はいずれもNATO加盟国であり、うち米・英・仏の3カ国は核保有国である。この場で、被爆国日本が、核兵器廃絶に向け、どのような役割を果たそうとしているのか。ここでも岸田首相の真価が問われている。(難波健治)

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