見出し画像

G7広島サミットここまでするか過剰警備

G7広島サミットは5月19日から21日まで開かれる。最近のサミットは妨害を警戒して辺鄙なところで開かれることが多いが、岸田文雄首相の強い希望で、彼の選挙区である広島市が主会場になった。原爆ドームや資料館を首脳たちに見学してもらい、世界の平和や核兵器廃絶への決意を宣言してもらいたい。しかし、開催が近づくにつれ過剰な警備が目にあまるようになった。法的根拠のない市民生活への規制もある。「自由と民主主義」が共通の基盤と宣伝するG7の首脳会議が、こんな厳重警備のもとに、市民と隔絶された空間で開かれていいのだろうか。

宮島入島制限―何が問題か  広島大学名誉教授 田 村 和 之

1 宮島入島制限とは
廿日市市による「G7サミット宮島地区説会」の「開催報告」によれば、「宮島島内への入島制限が行われる」とのことである。一種の入島禁止である。「宮島へ入島する際には外務省が発行する識別証及び車両証が必要」であるとのことである。
具体的には、次のような措置が講じられる。
㋐「一般観光客の入島が規制され」る。
㋑「住民、通勤通学者等は識別証の提示により入島可能」
㋒「宿泊の予約を入れないこと」「宿泊予約のキャンセル」をお願いする。
2 何が問題か―問題の所在
日本国内の一地域である廿日市市宮島町の区域に「入る」ことは、本来、憲法が保障する国民の自由であるところ、なぜ「識別証」がなければ、宮島地域に入れないのか。
憲法22条1項は「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。」と定め、居住・移転の自由を保障する。移動や旅行が居住、移転の自由に属することは明白である。この自由は国民の「身体の自由」に関わるものであり、安易な「公共の福祉」による制限は許されない。以上は、憲法学の定説である。
識別証を所持しないものは宮島への入島ができないとする措置は、きわめて強い「移動・旅行の自由」の制限である。
3 具体的な検討
 ―「識別証」を所持しない人は宮島への入島ができないこと(入島禁止)について―
次の①及び②が基本的な視点である。
①  日本国内の一定地域への立入り(宮島入島)を制限・禁止するには、法律の定め(根拠)が必要である。
②  この措置を講じる必要があるとしても、法律の定めるところにより、必要な範囲内で行うことが求められる。しかし、識別証を所持しなければ宮島に入島できないとする法律は存在しない。
(多くのことが明確にされていないので、以下では疑問符をつけた文章となることがある。)
③  外務省が識別証を発行するというが、同省にこのような権限があるとする法律の定めはない。
④  報道によれば、5月2日、廿日市市は、3000人余りの識別証の発送業務を開始した。同市は、この業務を外務省から委託されて行っているようである。そうであれば、外務省と廿日市市の間には業務委託契約が締結されていることになるが、このように考えてよいか。
⑤  宮島フェリーの運航会社は、識別証を所持しない人には乗船券を販売せず、乗船を拒否するのか この措置は海上運送法12条違反ではないか。
⑥  宮島口側にチェックポイントが置かれ、「保安検査」を実施するとのことであるが、誰が行うのか。外務省職員が行うのか。それとも廿日市市職員や警察官などが行うのか。識別証を持たない人は、チェックポイント通過を拒むのか。この措置には実力行使を伴うのか。チェックポイントを通過しないで宮島に入島した場合(入島しようとする場合)、どのような措置が講じられるのか。
 ―その他の規制・制限―
⑦  前述の㋒は、事実上、憲法の保障する営業の自由の制限であるから、法律の定めが必要になるのではないか。かりにこの制限が可能であるとしても、損失補償が必要ではないか。
⑧  広島サミット県民会議は、「首脳等の移動ルートにある商店等にはシャッターを閉めてもらう」ことを求めている、法令に基づく措置か? それとも単なる要請か。この要請に従わなかったときは、何らかの措置が行われるのか。
「シャッターを閉めろ」などは、戦前を彷彿させるものである。
おわりに
宮島入島制限・禁止などについて、現在、信じがたいほど強い秘密の取扱い(秘密行政)が行われていることに注意する必要がある。
                        (2023年5月4日記)

田村和之教授らが記者会見


宮島入島規制で廿日市市長に質問状

広島市と廿日市市の市民が4月18日、宮島入島規制について、廿日市市の松本太郎市長に質問状を出した。それに対して同市長から4月27日付で回答があった。

質問状は以下の通り
4月6日の廿日市市による記者発表を受け、その後、メディアによって、市民の宮島への入島が一定期間制限されることが報道されています。この「宮島入島規制」措置についてお尋ねします。廿日市市という地方自治体が、どのような法的根拠により、入島規制をしようとされているのか、以下の質問にお答えください。

<1>廿日市市は、憲法が認めた以下の自由を何法により規制・制限しようとしているのでしょうか。また、どのように行うのでしょうか。

廿日市市宮島町は日本国内の区域ですから、誰でも自由に居住し、立ち入ることができます。この自由は、憲法22条1項の「居住・移転の自由」に属します(移転の自由に移動の自由が含まれる)。したがって、この自由を規制・制限(禁止)するには法律の根拠・定めが必要です。

<2>「識別証」を持っていないと入島できないとするようですが、この「識別証」の発行は何法により、誰が行うのでしょうか。「識別証」は外務省が発行すると書かれていますが、この同省の権限は何法に基づいているのでしょうか。

「識別証」を所持しないと入島を認めないようですが、例えば「識別証」を持たない者が「ゴムボートやカヌーなどにより宮島に上陸することは禁止されるのでしょうか。また、もし実際にゴムボートなどで宮島に上陸しようとしたとき、廿日市市は実力を行使して阻止するのでしょうか。以上について、法的根拠があるのでしょうか。

<3>「識別証」を持っていない者は、宮島フェリーに乗船させないのでしょうか。この措置は、海上運送法12条に違反しないでしょうか。

「識別証」を持っていなくてもフェリーには乗れるが、宮島港で下船・入島しようとするとき、阻止されるのでしょうか。その法的根拠はあるのでしょうか。また、フェリーに乗船させたものの、宮島港で降りられないとすると、乗船契約の不履行になるのではないでしょうか。

ご参考までに、海上運送法12条の規定は、次のようになっています。(裏面参照)

(運送の引受義務)

第12条 一般旅客定期航路事業者は、指定区間においては、次の場合を除いて、旅客、手荷物及び小荷物の運送並びに自動車航送をする一般旅客定期航路事業者にあつては当該自動車航送を拒絶してはならない。

一 当該運送が法令の規定、公の秩序又は善良の風俗に反するとき。

二 天災その他やむを得ない事由による運送上の支障があるとき。

三 当該運送が第九条の規定により認可を受けた運送約款に適合しないとき。

廿日市市長の回答

平素より廿日市市政に御協力を賜り、厚く御礼申し上げます。 いただいた御質問につきまして、次のとおりお答えいたします。

来月広島県内で開催されるG7広島サミットは、国が主催する国際会議です。会議について定めた法律はありませんが、プログラム内容や警備方針等については国が決定し、廿日市市は訪問先の候補地として受入れのための準備を行うという役割を担っています。

具体的には、首脳等の訪問が決定した場合の各種規制に関する市民等への周知や、市民等の識別証の申請受付及び交付事務、市有施設の提供等を行っています。

入島制限に関しては、外務省が宮島口側にチェックポイント(識別を行う場所)を設置し、入島管理を行うとともに、併せて保安検査が実施される予定です。

なお、家族の急病など緊急で宮島に入る必要がある場合は、チェックポイントで「一時識別証」を申請することができます。

サミット開催に伴い、市民や観光客等の皆様には御不便をおかけすることとなりますが、安全安心なサミット開催のため、御理解と御協力をいただきますようよろしくお願いいたします。

宮島への入島規制 廿日市市のホームページ

首脳会談がある元宇品地区も「入域規制」

ジャーナリスト会議広島支部のメンバーからの情報によると、首脳会談の会場となる広島プリンスホテルがある元宇品地区でも宮島と同様な「入域規制」が行われるようです。

5月4日、住民に「識別証」という名のカード型通行手形や文書が郵便パックで配られました。

写真から知人の名前が分かりますが、本人は「ウエブなどで隠す必要はない。逆に後ろめたいことになる。ちゃんと紹介して」と堂々です

カードは複製困難な光る微細加工が施されていて、本人の名前もアルファベットで記された立派なものです。宮島のものと同じではないかしら。

注意文書によると、元宇品入口の御幸松広場に検問所(既に大きなプレハブが数棟建っている)が設けられ、人も車もチェックを受けるよう、経路図もありました。

入域規制は「サミット開始5日前から終了翌朝まで」の10日近くに及び、身分証ががない場合は「確認に時間がかかる」と記してあります。

これを手にした知人は「1週間以上、通勤時も遠回りしなければならないので不便だ。持ち物検査もあるのでは」と懸念しています。

「識別証の送付について」という文書は県民会議の発出ですが、識別証にある問い合わせ先は「広島サミットアクレディテーションセンター03-5157-1089」となっていて、外務省のようです。識別証にプリントされているQRコードはウエブでヒットしません。


5日夕、元宇品をバイクで回って見ましたが、プリンスホテルの先の海岸道路や灯台に上がる道路は「雨で一部崩れた」という理由で封鎖されていました。
そこかしこに配置されているのは警視庁の警官。「この海岸は市民憩いの場なのに残念だ。東京だとお台場だよ」と話しかけましたが、20歳代にも見える若い警官は「そうですね。でもお台場よりずっと素晴らしい景観です」とのこと。広島には1カ月滞在し約3日ごとに休日はあるそうで「もうすぐ帰京」とにこやかでした。

宮島そばを軍用ヘリが低空飛行

5月15日夕刻、宮島で大きなヘリの爆音が聞こえ、3機が広島方面から低空で岩国方面へ飛行した。戦闘機の爆音に比べれば小さな音だが、たぶん米国のバイデン大統領を運ぶ訓練をしているのだろう。オバマ大統領がヒロシマを訪問したときは、オスプレーとヘリの編隊で同じようなコースを飛んで行った。なんとも物騒な話だ。核兵器を発射できる「核のボタン」バッグも携行しているのだろう。


主会場周辺の警備は一段と厳しく

首脳会合などが開かれるホテルのある宇品地区は緊張感が高まっています。住民からは、日課にしていた早朝ウオーキングをやめたという投稿が届きました。5月15日からは住民の立ち入り制限も始まりました。

サミットの警備は日増しに厳しくなっており、5月10日から夜間はヘルメット装着に切り替わり、昼でも警備の数が倍以上になりました。夜間は月初めの5倍以上に膨れ上がっております。
私は、午前4時前からサミット主会場となるプリンスホテル前までの往復ウォーキングをしていましたが、警備の状況を見て限界 かな?と思い、あすからサミットの規制が終わる22日まで休むことにしました。
4時前から歩くために毎日2時半に起床しています。今朝は何やらざわざわしているので,その少し前に起きると,警察車両が数台集結し、十数名の警察官がシーサイド病院玄関に至るスロープを調べ、病院前の道路中心線から壁面までの距離を測定していました。目的はよくわかりません。

警備はさらに厳しくなりつつあります。元宇品島に立ち入る際、5月6日に届いた「識別証(身分証明書)」とマイナンバーカードを提示し、手荷物の検査があるようです。それに,島に出入りするバスが運休し,プリンスホテル付近から広島港桟橋間のシャトルバスだけになります。広電電車の元宇品口駅は使用できず、電車は通過みたいです。バス会社も行政もシャトルバスの運行時刻表を明らかにしないので、県営桟橋か競輪場入り口の電停
迄歩く以外に電車に乗れません。不便極まりないです。(5月12日記)

在宅介護にも悪影響

 サミットの交通規制で宅配弁当が5日間休止となりました。要介護4の母(90)のため1日1回配達してもらっていますが、ちょっと困った。休止期間中は私が買い出ししなければならない。
 中止していない別業者もありましたが「宅配は2週間前からの予約が必要」とのことでやむなし。わが家はまだ大丈夫ですが、老夫婦など本当に困る家もありそうです。交通規制は意外な面ですが、在宅介護に悪影響です。 (JCJ広島会員)

弁当の宅配中止を伝える業者からの連絡

サミット交通規制は17日深夜から

識別証も身分証明もなくても入島できた


かねてから「問題あり」とお知らせしてきたことが、今日18日の正午から始まりました。
G7広島サミットの開催に関連した「宮島への入島規制」です。
これまで、廿日市市やサミット県民会議事務局、外務省などに対し、入島を制限する法的根拠などを問い合わせてきた私たち市民4人は、きょうからの措置を確認するために現地に出向きました。
そして、識別証も持たず、本人確認のための証明書も提示しないで、何の規制も受けずに、宮島に渡ってきました。

<この事実は、何を物語るのか>
いくつかの問題点があると思います。
きょうの外務省の対応を見て感じるのは、「強制的な入島規制は、法的な根拠がないので強制できない」という判断を、責任官庁である外務省自身は初めから持っていた?

では、なぜ、私たちは、「事前に識別証を取得した者しか入島できない。それ以外の者は入島したらいけない」という風に、受け止めてしまったのか?

メディアの報道を見てそう感じた?
では、メディアは、なぜそのように報道し続けたのか?
外務省の意向を受けた地元自治体が、よりオーバーな発表をしたのではないか?
発表を受けたメディアは、「大本営発表」よろしく、何の疑問も持たず、発表の通りに伝えた?

これらの疑問について、皆さんはどう受け止めますか?

<きょうの現地でのやり取りを、簡単に振り返ってみます>

研究者2人と、フリーのジャーナリストを自任する2人、の計4人は、午前11時40分ごろ、宮島に渡るフェリー乗り場の改札口前に集まりました。

まだ規制がかかっていない正午前だったので、まずは島に渡って、島内の様子を見てみようとフェリーに乗りました。

島内の様子を視察して、13時ごろ本土側に戻り、食事をした後、14時ごろ、今度は入島制限の措置が実施された後のフェリー乗り場に再び向かいました。

いよいよ、入島規制現場でのやり取りです。
改札口の前のチェックポイントで、「私は識別証を持っていない」「本人確認できるものも持ち合わせていない」ということを伝えたうえで、「宮島に渡りたい」「なぜ渡れないのか」というやり取りを窓口で続けました。やがて外務省の職員が出てきました。

私たちは、次のように言いました。

◆外務省が、私たちをあくまで「法的根拠はないけれども、入島はさせない」と言い張るのであれば、「あなたは入島できません」という一文を書いて私たちに渡してほしい。
◆今後、私たちは法的な措置をとるかもしれないので、外務省は私たちの入島を許さなかった、という証明になるものがぜひ欲しい。だから、書いてほしい。そのメモを渡してもらえば今日は引き揚げる
と主張しました。

この私たちの主張に対し、外務省の職員は、「私たちがやっていることは、あくまで要請です。宮島に渡らないでほしい、というお願いです」と繰り返しました。
再び、やり取りが続き、14時半を過ぎました。
この時点で、外務省の言い分は、「識別証はなくても、保安検査(荷物チェック)をしたうえで本人確認ができれば、入島できる(=入島を認める)」という言い方に変わりました。

私たちは、「外務省が、『これは要請=お願いであって入島禁止措置ではない』というのなら、私たちはあくまで、法的な根拠にもとづかない、そのような要請は受け入れられない」と伝え、行動に移りました。荷物検査をスルーし、改札口でチケット代を支払い、そのままフェリーに乗りました。
何の規制を受けることもありませんでした。
島に渡り、とんぼ返りで宮島口に帰ってきたのは、3時半ごろでした。

以上が、宮島入島に至る簡単な報告ですが、午前中も午後も、本土側のフェリー乗り場や宮島の島内には、多くのTVクルーや報道カメラマン、記者たちがいました。

どうやって島に渡ったの?と尋ねると、「規制がかかってない午前中に早々と島に渡り、取材を済ませた」「私たちは、識別証を持っていないので・・・」という返事でした。

私たちが、「僕たちも識別証は持っていない。でも、本人確認もしないまま、島に渡れたよ」と伝えると、ポカンとした感じでした。

蛇足ながら、以前に、識別証を申請して外務省に拒否された記者の話を聞いたことがあります。

記者いわく。「取材をするために、早い段階(3月?)で識別証を申請したのだけれども、地元自治体からの問い合わせに対し、外務省が『取材記者に識別証は出すな』と指示したため、私たちには識別証が与えられず、取材で島に渡れない。私たちこそ最大の被害者だ」というものでした。

これって、いったい何なのでしょう。

「法の支配の確立」をうたうG7広島サミットのために、主権者たる国民・市民の移動の自由・交通の自由が、法的根拠が一切ないままに奪われる事態が起こったのです。

その事態を認めるような報道をメディアがしたために起きた事態とも言えます。
しかし、メディア自身も「報道の自由」「国民の知る自由」を損なわれるような事態を自ら招き、それを甘受している。

憲法違反の事態が、サミットを契機に、広島で堂々と起きているのです。

黙っていては、私たちの権利が、支配者によってどんどん奪われてしまう、ということではないでしょうか。(難波健治)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?