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パールハーバーは核ミサイル模型も展示平和公園とは真逆の戦争記念館

広島市の平和公園ガイドの人たちがハワイのパールハーバーを視察し、2月2日に報告会が開かれた。潜水艦「ボーフィン」を展示した施設は、沖縄の「対馬丸」撃沈を戦果として誇っていると以前に聞いてショックを受けたが、この報告会では、そこには核ミサイル模型が誇らしげに展示してあると聞いて卒倒しそうになった。説明書きには「新たなコロンビアSSBN(核兵器搭載原子力潜水艦)は2031年までに就役して40年間使用する」とあり、2085年までに次世代型原潜の開発を求めているという。

報告者は「リメンバー・パールハーバーは復讐だけではなく、『油断するな!戦争に備えよ』という意味で使われていると感じた。核抑止の強化こそ必要と訴える施設であり、核兵器廃絶を願うヒロシマとは真逆ではないか」と述べた。

この潜水艦博物館は、平和公園とパールハーバーの姉妹協定の対象施設にはなっていない。しかし、対象施設であり最も有名なアリゾナ記念館のすぐそばにあり、戦艦「ミズーリ」記念館と3点セットの展示という。アリゾナ記念館に行った人たちは、ほぼ必ず立ち寄るわけで、広島市はなぜ平和公園とパールハーバーの「姉妹協定」に同意したのか、疑問がますますふくらむ。

パールハーバーに展示されている核ミサイル模型について説明する平和公園ガイドのメンバー

戦争にも原爆にも触れない「姉妹協定書」


さらにおかしなことには、姉妹協定書には原爆、戦争というキーワードが全くない。「平和と和解の架け橋の役割を果たしていく」「過去から学ぶ事、未来の新たな考えを共有し、多くの人に訪れてもらうという共通の理念を掲げている」など、それらしい表現はあるが、なぜ原爆、戦争という文言を避けているのか。

 1968年に調印した当時のソ連・ボルゴグラード市との姉妹都市協定書には「両市が第二次世界大戦に際し、原爆ないし通常兵器により、人類史上未曽有の戦禍を身をもって体験」「今日の熱核兵器の時代において、重ねて世界大戦の勃発を見るならば、全人類の絶滅をもたらすであろうとの確信もとづき、両市が世界平和達成のために力を合わせて努力する」と格調高くうたっている。

 パールハーバーと平和公園の協定は、これを上回る影響力があると思われるが、原爆や戦争について両者はどのように考えるのか市民には全く分からないまま、「姉妹」になってしまった。おかしなことだ。

原爆投下責任の議論を「棚上げ」


 原爆投下責任の議論は「棚上げ」したとの市議会答弁が問題になったが、根本的な議論をしない以上、空疎な協定になるのは仕方ないことだろう。前述した姉妹都市協定では、市議会で長時間審議し、議決までしているのに、今回は昨年6月22日に発表して1週間後の29日に調印している。しかも、姉妹公園を持ちかけてきたのは米国政府であり、G7サミット期間中に調印したいと執拗に要請していたことも広島市が開示した文書で明らかになった。

 発端は4月6日、在大阪・神戸米国領事館から広島市の国際化推進課にかかった電話だった。
―平和公園とパールハーバーがシスターパーク(姉妹公園)となるように話を進めたい。これは米国政府の意向である。理想としては、G7で署名したい。
 8日後の4月14日には米国のリチャード・メイ・ジュニア総領事と広島市の阪谷市民局長らの協議が行われた。
広島市 協定を結ぶのは誰の発案か。
米国側 オバマ大統領の訪問後に始まったが具体化されなかった。今までは話だけ、しかし今回は大統領が来るので良い機会である。
(広) 2017年10月にホノルル広島県人会のミヤオ会長から、第二次大戦はパールハーバーで始まり広島で終結したという話があった。その翌年にミヤオ会長が来広されたときも話をして、それから話がなかった。
(米)オバマ大統領の広島でのスピーチ、安倍元首相のパールハーバーでのスピーチの内容は似通っており、我々は相互理解を通じ平和を達成しようという同じゴールを共有する非常に近しい間柄になっているというものだ。平和公園とパールハーバーの姉妹公園提携は、これをさらに強化するものになると考えている。最も重要なことは、未来の世代を啓発し、若者が過去を理解することであり、我々は教育を重視している。相互に協力し、展示や教育を通じ、戦争が意味するもの、戦争の恐ろしさ、どのように戦争を回避すればよいのかを若者によりよく示すことができる。
(広)協定の内容、今回の目的、中身をどうするかだ。若者への教育、未来志向の中身にするかなど、その協定の中身をパールハーバーや広島市民が納得できるものであることと、それが当初思い描いていた和解の象徴、日米の友好関係を資する内容になっているかどうかということ。そこまでこの数週間で行うことの技術的な困難度をどうクリアしていくかだと思う。

このやりとりからは、姉妹公園は、オバマ大統領の広島訪問時から米政府内では検討されていたことが分かる。そして、広島市側は、米国側の提案に当惑している様子もみてとれる。両方の市民が納得できるものを数週間の協議で行うことの困難さを指摘している。

米国の前のめり姿勢はさらに強くなり5月11日の協議では、
―G7広島サミットの開催を背景として行われる姉妹公園提携の世の中に与えるインパクトは大きい。
―平和記念資料館であればセキュリティーが確保されており、メディアも集まりやすい。
―調印者はブリンケン国務長官やエマニュエル大使など、出席できる最も位の高い政府高官にしてもらうことを考えている。

5月19日から始まるサミットの直前まで平和記念資料館での調印を、ブリンケン国務長官らの名前まで挙げて要望している。しかし、サミット前日の5月18日に松井市長は「サミット期間中の協定締結は見送る」と伝えた。その理由について市長は最近の記者会見で、日程調整を米側に任せていたが、「直前になっても連絡が来なかった」と述べ、サミット会期中の協定締結について、「日程調整できれば構わないと思っていた」と語っている。

広島原爆の免罪符にする思惑?


 米国はなぜサミット中の調印を望んだのか。広島原爆の免罪符にしたかったのではないか。ロシアのプーチン大統領はウクライナとの戦争で核兵器を使うこともあると威嚇して、国際社会から強い批判を浴びた。それに対してプーチン大統領は「最初に原爆を使ったアメリカに批判される筋合いはない」との強弁をしたが、これは正論でもある。

 核戦争を防止するには、世界最大の核兵器保有国である米国が、広島、長崎原爆を誤りと認め、核兵器を廃絶すると宣言すればいいのだ。しかし、サミットで岸田首相が発表した「広島ビジョン」は、ロシアなど核兵器は悪であるが、米国などの核兵器は「それが存在する限りにおいて、防衛目的のために役割を果たし、侵略を抑止し、並びに戦争及び威圧を防止すべきとの理解に基づいている」という核抑止論を被爆地から世界に発信した。

 もしパールハーバーと平和公園の姉妹協定調印がこの場で行われていたら、両者は戦争を乗り越えて「和解」し「未来志向」の関係をつくるという一見、美しい物語が、広島ビジョンとともに世界を駆けめぐった。広島が核抑止を認め、ロシアのような国が存在する限り核兵器は必要だとするG7の主張にお墨付きを与えることになったのではないか。

 サミット期間中の調印は行われなかったが、米国大使館に松井市長が出向いて調印された。米国側が第2案として出していたのが「東京の大使公邸で行う独立記念祭の場での締結式」だった。

 パールハーバーと平和公園の姉妹協定は、①米国政府が強く望み米国主導で進められた②戦争や核兵器廃絶に取り組む熱意が感じられない―という、おかしなことを抱えている。「仲良くするのはいいことだ」と安易に受け止めずに、市民の監視と調査が必要だ。日本政府の関与についても調べなければならない。さらに、日米の対中国軍事同盟が強化されるなか、日本に核兵器を配備する計画も裏では進んでいるのではないのか。私の妄想であってほしいが、広島市の平和行政の変質と岸田首相の大軍拡政策をみると、邪悪なうごめきが始まっているのではないか。杞憂であってほしいのだが…。
                            (藤元康之)

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