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音楽の力

 先日の甲子園開会式の「栄冠は君に輝く」を聞いた時、自然と涙が流れてきました。音楽には人を癒やしたり、励ましたり、気分を盛り上げたりと、様々な力があります。テレビから流れてくる音楽、街中で流れている音楽など、日常の中で私達は多くの音楽を耳にしています。そして、医療現場では、疼痛や不安の軽減、リラクゼーションなどあらゆる場面で音楽が効果を有することが報告されています。今回は、出産という非日常における音楽の効果について見てみたいと思います。
 出産時には痛みや不安が少なからず存在しているため、これらを少しでも軽減できればと、医療者はその方に合ったあらゆる方法を検討します。陣痛室や分娩室で音楽をかけるということはよく行われていますが、それが出産に関連した痛みや不安にどのように影響するのかということは、これまで明確に示されていませんでした。ここでは、2020年10月に発表された論文「Music therapy in pain and anxiety management during labor: A systematic review and meta-analysis」をご紹介します。

Santiváñez-Acosta R, Tapia-López ELN, Santero M. Music Therapy in Pain and Anxiety Management during Labor: A Systematic Review and Meta-Analysis. Medicina (Kaunas). 2020; 56(10): 526. doi: 10.3390/medicina56100526

【目的】出産時の疼痛や不安への音楽療法の効果を評価すること。
【方法】PubMed/MEDLINE、LILACS、Cochrane、TRIPDATABASE、Google Scholarから、ランダム化比較試験と準ランダム化比較試験を選定した。痛みや不安は、Visual Analogue Scale (VAS)によって測定された。メタアナリシスにより平均差(mean difference: MD)が評価された。
【結果】12論文がレビューに包括され、6論文(778名)がメタアナリシスに含まれた。初産婦への経腟分娩時の音楽療法により、痛みのVASスコアは分娩第1期の潜伏期(MD:-0.73; 95%CI:-0.99, -0.48)と活動期(MD:-0.68; 95%CI:-0.92, -0.44)に有意に減少した。不安のVASスコアも、分娩第1期の潜伏期(MD:-0.74; 95%CI:-1.00, -0.48)と活動期(MD:-0.76; 95%CI:-0.88, -0.64)に有意に減少した。
【結論】分娩第1期の音楽療法は、初産婦の分娩第1期の疼痛と不安を軽減することが示された。しかしながら、経産婦への効果については更なる検討が必要である。

 このレビューに含まれた研究では、クラシックやリラクゼーション音楽が使用されているものがほとんどでした。出産時にリラックスすることは、分娩進行を促すため、また、胎児への十分な酸素供給のためにも大切です。音楽によって産痛緩和や不安軽減の効果があることがデータとして示されることで、より明確な意図を持って陣痛室や分娩室で音楽を活用できそうです。音楽の力を借りながら、少しでも安楽に母児が出産を乗り越えることができるよう、医療者として関わっていきたいと思います。
 余談ですが、このレビュー論文を電車の中で読んでいた時、隣に座っていた外国人の女性から「その論文に興味があります」と声をかけられ、論文内容についてお話しました。出産時の痛みを軽減したいという思いは万国共通ですね。論文を介してのこのような出会いも面白いものです。
(文責 白石)

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