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エビデンスの塵も積もれば山となるか?

 ここでいうエビデンスの塵とは、質の低いエビデンスのことです。ご存知のように、エビデンスの産出にはいくつかの段階があります。
 まずは原著論文などの一次研究(primary studies)。生のデータを集める介入研究やインタビュー研究などがこれに当たります。
 次にシステマティックレビューのように、一次研究を系統的に検索して見つけ、研究の質を評価して選んで、統計的にメタ分析したり、質的研究を統合したりして、特定の分野のエビデンスとして発表します。ここでは、生のデータでなく、すでに論文として発表されたデータを扱うので、二次的研究になります。
 その次にシステマティックレビューの質を問うアンブレラレビューあるいはメタレビューと呼ばれる3次研究があります。すでに発表されているシステマティックレビュー研究が事前のプロトコルに基づいて透明性を確保し、複数のレビューアーがお互いの判断がわからないように工夫しながら一次研究を評価し、意思決定を図ったかなどを調べます。こうしてシステマティックレビューの質を評価し、エビデンスとして発表している結論の妥当性を見極めます。
 この3段階の研究のうち、質の低い研究があったらどうなるでしょうか。たとえば、因果関係を推論するのにもっとも有効であるとされているランダム化比較研究が、不適切な方法で実施されいたとします。こうした質の低い一次研究がいくら多く実施されていたとしても、一つ一つの研究結果が信用できないわけですから、数がものをいうことはありません。
 このような場合、システマティックレビューで質の低い一次研究をたくさん集めてメタ分析や質的統合しても、質の高いエビデンスは出てきません。貴金属が含有されていない石っころをどんなにたくさん集めても、貴金属が抽出できないのと同じことです。
 そして一次研究の質の評価と同様に、システマティックレビューも適切に実施されなければ、質の高いエビデンスは産出できません。アンブレラレビューによってシステマティックレビューの質を見極めた結果、質が低いとみなされた場合、そのシステマティックレビューの結論は、信用に値しないのです。

 さて、エビデンスの塵も積もれば山となるでしょうか?たとえランダム化比較研究でも、バイアスの低い方法で多数の参加者を採用して実施されていなければ、エビデンスは蓄積できません。質の低い一次研究しかない分野のデータをメタ分析しても、エビデンスは蓄積できません。以上から、エビデンスの塵は、積もっても山にならないことがお分かりになるでしょう。そして、質の高い一次研究と、質の高いシステマティックレビューの必要性を感じていただければ幸いです。

文責 宮原


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