ローレルとローリエ
ローレル:月桂樹。
ローリエ:月桂樹の葉を乾燥させた香辛料。カレーなど西洋風の煮込みに使う。
私は、今まで料理に使う葉っぱも月桂樹も両方区別なくローレルと呼ぶものだと思っていたし、実際にローレルと呼んでいた。しかし、調べてみたところ、上記のように、料理に使う葉っぱは、ローリエだった。ローレルではなかったのだ。
しかし、ローリエという名前、これは危険な名前ではないのか?
例えば、こんな危険だ。
夕飯の準備で手が離せないお母さん。今日のメニューはみんなが喜ぶカレーだ。
いつもは暗くなるまで外で遊んでいる子供は、カレーを楽しみに明るい内に帰ってきた。今日は夕飯の準備を進んで手伝ってくれる。子供はカレーが大好きなのだ。
いつもは残業で遅いお父さんも、今日は早く帰れそうだと電話があった。夕飯のメニューを伝えると、「急いで帰るよ」と大喜びだった。大人もカレーが大好きなのだ。
今日の食卓は、家族の笑顔が囲むことは間違いない。カレーを食べながら、子供は学校での出来事を報告し、お父さんは冗談を交えて話を盛り上げる。お母さんはそれを聞き微笑む。幸せいっぱいのホカホカ家族だ。
ところが、お母さんはローリエを切らしていることをうっかり忘れていた。やっぱりローリエがないと一味足りない。手が離せないお母さんは、子供にローリエを買いにお使いに行ってもらうことにした。子供は「すぐ帰ってくるから、カレーまだ食べないでね」と張り切って出て行った。
「ただいま~」と息を切らせてお使いから帰ってきた子供が手にしているのは、「ロリエ」。
名前は似ているが、物は全く別。木の葉とナプキン違いは大きい。ナプキンをカレーに入れて煮込めないし、木の葉では多い日に安心できない。
間違いに気付いていない子供は、台所のお母さんに誇らしげに「ロリエ」を渡し、台所に来たついでに、カレーの出来具合を確認するかのように鍋を覗き込んだ。
渡されたお母さんは、一瞬戸惑ったが、変な間違いをした子供に怒鳴った。褒められることを期待していた子供は、突然の怒鳴り声に驚き、覗き込んでいたカレー鍋を引っくり返して、熱々のカレーが床に広がった。
お母さんはヒステリックに叫び、子供を叱る。未だに間違いに気が付かず、訳も分からず泣き出す子供。
お母さんは、よりによってナプキンと間違えるとは……、と恥ずかしさで涙が流れた。
丁度帰ってきたお父さんは騒ぎを聞きつけ、台所に駆け込んできたが、床に広がるカレーで足を滑らせ、ひっくり返って、床に転がっていた鍋に頭がすっぽりと嵌まった。全身は熱々のカレー塗れ、頭には余熱の残る鍋。あまりの熱さにお父さん涙を流してのた打ち回った。
最早ここには、食卓を囲むはずであった笑顔は見当たらない。ここには家族の涙しか存在しないのだ。
しかし、ご安心あれ。この家族の涙は抜群の吸収力でロリエが引き受けてくれる。