逆立ちしても

「逆立ちしてもできない」、「逆立ちしても敵わない」のような「逆立ちしても……ない」という言い回しがある。
できないような困難な事に直面した状況で逆立ちする意味はさっぱり分からない。しかし、困難な事に直面した時には、逆立ちしながらでもできる事を考えて前向きに局面を乗り切りたい。

上司が企画書を手に言った。
「この企画は逆立ちしても通らないよ」
「確かに逆立ちしても通りません。しかし、逆立ちしてたて笛を鼻で鳴らすことはできます」
「何を言っているんだね」
「いきますね。よっと。ピーピープー」
唖然とする上司を尻目に笛の軽快な音を響かせる。逆立ちしても企画は通らなかったが、逆立ちしても笛は吹けた。何かを成し遂げた部下の顔がそこにある。

「こんな見積書じゃ逆立ちしても契約はとれんぞ」
「確かに契約は取れません。でも逆立ちをして焼きそばを食べることはできます」
「いきますね。よっと。ズルズルッ」
「すごいじゃないか、君。今日は私のおごりだ。どんどん食べたまえ」
「はい、ありがとうございます」
「それから、明日からは会社に来なくていいから」
最早、曲芸の域。サラリと転職を勧める上司の声が心に刺さる。

「もう別れましょう。あなたっていつも逆立ちばかりじゃない。このまま付き合っていても、私達、幸せになれないわよ」
「確かに逆立ちしても幸せになれないかもしれない。でも、逆立ちしてもお前を愛することはできる。結婚しよう」
「えっ……」
勢いに押されて受け入れられるプロポーズ。逆立ちが取り持つ男女仲。

逆立ちすらできない私は、まず逆立ちの練習から始めたい。

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