どんな連携が行われているのか、という話
「感染症対策では、多数の関係機関と連携しています」
スポーツイベントのニュースを見ているとよく目にする言葉です。
そもそもスポーツはマルチステイクホルダー(利害関係者が多様)という特性があり、数多くの関係者、しかもその利害が、ときに対立するような状態にあります。
それに加え、今回、重要な要素として含まれる感染症対策。それらをどのような関係者とともに準備してきたのか(しているのか)、感染症対策部分にフォーカスし、ご説明したいと思います。
(以下、登場の順番に特に意図はありません)
開催会場の自治体
当たり前ですが、会場がなければ大会は開催できません。このWGPは、長年にわたり、品川区と連携し、実施している国際競技大会です。自治体がそもそも会場を貸してくれるか、緊急事態宣言下であっても、どのようなあり方であれば借用できるか、区の方針と齟齬が大きく生まれていないか、それらを密に協議をしながら進めてきました。
タイトルスポンサー
パラスポーツは一般的に財源が厳しいと言われます。そのようななか、私たちが当初から開催を選択肢においてこられたのも、私たちのビジョンとそれに基づく国際大会開催に十分な理解のあるパートナー企業の存在でした。そのなかでも、本来開催予定だった2020年大会のときからタイトルスポンサーとなっていただいた参天製薬株式会社の支えの力強さは大きいです。
大会中にまで及ぶ中止リスクも都度説明させていただき、それでも「応援します」と支えとなる存在が私たちにいたことは、開催に向けての大きな原動力となりました。
補足すると、品川区・参天製薬は、ともにJBFAと長期パートナーシップを締結しています。パラリンピックがあるから、というだけでなく、私たちが掲げるビジョンに賛同し、長期的視野から事業を位置づけ展開する意味を、お互いに納得いただいていることは、先行きが見通せなかった段階でも、前向きに協議ができた大きな理由だと思っています。
国際競技連盟
国際競技連盟(IF)であるIBSAは、そもそも大会の開催を許可する立場にあります。独自に感染症対策の指針を発信し、私たちはそれにしたがって大会を準備しています。IBSAはブラインドサッカー以外にもゴールボールや柔道ほか、10以上のスポーツを統括している中、コロナ禍で初めての公式試合がこのWGPになります。
そのため、私たちはどのようにルールを遵守できるのか、解釈の違いがないのか、海外からの渡航者をどう管理すべきなのか等を協議してきました。
東京都
過去のWGPにおいて、東京都は財政的支援や観戦者の拡大に向けた取り組みなどで連携を強化してきました。今回、都は感染症対策でも高い負荷がかかるなか、対策の妥当性の検証や各地域保健所との連携などに尽力をいただいています。
スポーツ庁
現在、外国人は自由に日本に入国できるわけではありません。それは、そもそも大会を開催するかどうかの時から発生していた状態で、「意義が高い」国際スポーツ大会と認められなければ、そもそも外国のチームは入国ができません。私たちの大会意義の整理、説明、検証にあたっていただいています。
また、スポーツ庁の定める感染症対策ガイドラインに、私たちのガイドラインがマッチしているのか、見落としている観点がないのか等、連携をいただいています。
政府
スポーツ庁を通じて、私たちの大会において外国人が入国することを認めてくれるかを判断いただいたのが、内閣官房・厚生労働省となります。また、その許可をもとに、外務省が来日予定者にビザを発給いただく連携をいただいています。
他のスポーツ競技団体
私たちに先立って、いくつかのスポーツが国際競技会を開催しています。そこでは様々な試行錯誤が行われているほか、よりよい方法の知見があり、私たちはそれらの団体との意見交換やときにネットワークや知見の共有をいただき、ガイドラインや運用マニュアルを整えています。
特に日本サッカー協会においては、複数回、来日者を含む国際大会を開催しており、そのやり方に多数のアドバイスをいただいています。
日本障がい者スポーツ協会
日本障がい者スポーツ協会でも、パラスポーツの実施にあたってのガイドラインを定めています。私たちのガイドラインが、それらにマッチしているのか、アドバイスをいただいています。
また、感染症を専門とするドクターを通じて、医療の専門家からの知見をそれらに反映しているほか、タイムリーに私たちの疑問や疑義にアドバイスをいただいています。
保健所
連携が必要な保健所は、開催会場の場所・宿泊場所・PCR等の検査機関の場所など、どの「場所」かに応じて、管轄する保健所が異なるため、複数に及びます。万が一、陽性者が発生した場合、濃厚接触者の定義は保健所に依頼せざるを得なく、事前に取り組みやマニュアルを共有し、どのように濃厚接触者を特定しやすくすべきか、多数のアドバイスをいただきました。
私たちは、関係者が移動する飛行機はもちろん、日々の移動におけるバスのどの席に座るのか、食事会場でどこに座るのか、視覚障がい者の選手の手引きは誰が行ったのか等も記録をする予定です。
スポンサー
タイトルスポンサー以外にも、多数のスポンサーや地元企業の皆さまによって支えられています。感染症対策以外の、視聴者増加や地元での盛り上げの維持への施策などで応援いただいている部分が多いのですが、対策においては、感染症対策に必要な備品の提供や手配等をいただいています。
運営側の立場に立つ各種企業
大会運営はとても幅広いロジスティクスの上に成り立っています。そこでは、たくさんの企業が運営に協力をしてくれており、その皆さんの感染症対策への協力も不可欠です。とはいえ、それらの企業の皆さんも、感染症対策まで一緒にとることを求められることは少ないようで、当初は戸惑いもあったようです。しかし、全面的に私たちのガイドラインやマニュアルにしたがいながら、大会準備を行なってくれています。
一例をあげると、過去記事「どんな感染症対策を実施するか」で、ゾーニングの話をしました。もっとも厳しい感染症対策が敷かれる「レッドゾーン」と呼ばれるゾーンでは、そこに出入りする方は、開催前の複数回のPCR検査、健康記録、大会期間中にくわえ、大会開催後も行動制限が課されます。
また、運営側に立つ企業には、大会期間中の感染症対策の主翼をになっていただく企業もあります。ケアプロ株式会社は、日頃から看護師などの派遣を通じて、安全なスポーツ大会の開催を支援しています。ケアプロはみずから看護師を有し、今回もレッドゾーン内に看護師を派遣しながら、日々の感染症対策の計画立案から運用までを担っていただきます。ケアプロとの取り組みは、リリースをご覧ください。
宿泊ホテル
「バブル方式」と呼ばれ、感染症対策のゾーニングを明確に分ける方法において、選手や関係者が宿泊するホテルとの連携は不可欠なものです。過去の海外の国際大会等では「ホテルの一棟借り=バブル」のような報道も見られましたが、私たちの実施規模(宿泊人数)で、一棟借りすることはきわめて困難です。また、ホテル側も、常連様や定期の利用予定などもあり、一時的なスポーツイベントに貸し切り対応することは、難しい事情があります。
今回、私たちは少なくともフロアーの貸し切りや、食事会場を隔離するための貸し切り、選手たちと一般客との導線の分離など、通常では対応いただけない範囲まで対応をいただいています。
また、過去の別スポーツの報道では、「バブル方式の食事=ホテルの自室でお弁当」に対する選手たちの批判なども取り上げられています。私たちは過去に何度も国際大会を開催する中、選手たちの食事提供の重要性を認識しており、また、「お弁当」カルチャーの違いも痛感してきていました。今回も、食事はできる限りの対応をバブル内で管理すべく、ホテルに多大な協力をいただいています。
大会期間中出入りする各種サービス企業
運営の立場にまで立たずとも、多くの企業(業者)が、大会期間中、出入りをします。コートにラインを引く方、ゴミ収集の方、バスの運転手、はたまた会場を建設する職人の皆さま。この大会では、それら会場に出入りする全ての関係者を事前登録制にするとともに、2週間前からの健康管理をお願いしています。
余談ですが、ある企業は、業界慣習としてもそれほど前から当日だれがこの会場に入るか決められないため、200名を超える人を登録し、健康観察いただいているケースもあります。どちらの企業も、最短では30分程度の会場滞在であっても「そこまでするのか」と率直なリアクションをいただきました。それでも、この大会開催に向け、力強い協力体制をいただいています。
医療機関
最後に、当然ながら医療機関との連携があります。陽性者が発生し、重症化してしまえば、医療機関にケアをいただくほかありません。どのようなケースで、どのような対応が可能なのか、現在の社会状況もかんがみながら調整を行なっています。
今回は、感染症対策における連携先との取り組みについて記事にしました。一部、固有名詞を出せない部分があることは、事情をご理解いただきたいと思います。
これらの対応の積み重ねのうえに、大会開催ができることに向け、引き続き準備を進めていきます。
見えない闘いは、ここにもある。
果たして、開催すべきだろうか。
果たして、世界は待ち望んでいるだろうか。
世界が「見えない」闘いにある今、私たちにできることはあるのだろうか。
答えが見えない中で私たちができることを。
社会と、皆さんとともに実現できるやり方で。
それこそが、私たちにとっての闘いなのだから。
文責
松崎英吾(NPO法人日本ブラインドサッカー協会 専務理事兼事務局長)
宮島大輔( Santen ブラサカグランプリ 2021 運営委員長)