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私のアリス〜夢の国のアリス〜二幕(ハートの国Ⅰ)

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ー人生を変えましょう…悔いの残らないように

それが男の言葉だった。
目の前の男は自分のことを夢番人といっていた。ならば本当にそうなのだろう、そう自分に言い聞かせるしかなかった。こんな夢の中で会話をしている得体の知れない男の相手をしている暇はないの。また明日、夢から覚めてしまえば同じことの繰り返しなのだから……

ーそれこそが、あなたの後悔ですよ

まるで私の心を読んだかのようなタイミングでそんなことを言われてしまった。読心術でも使えるのだろうか、この人は。

ーさっきから一体何が言いたいの?

少しだけイライラしてしまって、つい口調が荒くなってしまう。短気なわけではないけれど私の中の何かがそうさせる。とても不可解でとても不快な面倒くさいモヤモヤした気持ちだ。

ーやれやれ、そんなことだからあなたの手から幸福が零れ落ちてしまう。いいでしょう、アリス、そんなに言うならいっそもうさっさと送り出したほうが早そうだ。

やれやれと男は両手を左右に広げて眉尻を下げる。それは呆れている様子といえばそうだけど見ていてとても腹が立つわ。

夢番人と名乗る男は懐中時計を手に、ふむと一つ頷いた。すると金色の瞳が私の瞳を真っ直ぐに見つめてこう言う。それはまるで催眠術をかけられる前のよう

ーあなたは、本当の幸福な人生を手にするために世界を回り一つの真実を見つけなくてはなりません…

ああ、なんて不思議な声なんだろうと思った。耳の鼓膜に直接吹き込まれるような全身が震えるほどの感覚。忘れてはならないと思わせるような、忘れることなんて出来ないような低くて優しい声だった。その声に導かれるままに瞼が突然重くなる。これは眠たくて仕方がない時の現実と夢の境目にある心地よい感覚だと悟る。

ー真実を……

ー真実?

ー真実を探して来てください。目が覚めたらあなたは変わっているはずだから…

そう言われた途端、ズンと重力がのしかかるように私の体は倒れこむ。直後に感じた腕の温もりの主がその夢番人だと理解はしていてももう瞼は上がらない。

ーおやすみアリス、行ってらっしゃいアリス……遠い旅路の果てにあなたが真実を見つけられますよう。

ーさようなら…胡散臭い夢番人さん……

飄々とした態度でスラリとした体躯を翻し、今まで見たことのないような雰囲気を纏う、どこか不遜で掴めない不思議な男に精一杯の抵抗と反抗を含めた嫌味でさようならを言ったのがここでの最後の会話だった。

ーーーそよ風に紛れてファーっとなるラッパの音に目が覚める。緑深い森で私は目覚めた。その光景に思わず目を奪われる。

深緑とはこうも青緑色が綺麗なものなのかと圧倒されてようやく自分の今の状況に意識を向けることができた

ー服装が…変わってる

夢番人という男のいるあの意識空間に居た時は、まだ肌触りの心地よいルームウェアを身に纏っていた。それがいまはどうだろう目を凝らすと膝下丈のスカートで胸元に大きなリボンがついている全体的に水色のワンピースを着用していて、ペチコートによってフワフワのスカートがそれこそアリスの物語の主人公だと物語ってる。少し高めのヒールときたものだ。
この年齢になると着る物はどうしたって選んでしまうけれど、まさかこんなフワフワの可愛いらしいドレスワンピを着ることになるとは思ってなかったぶん抵抗があるのは仕方ないとして、いつまでも森の中にいてはどんな状況かもわからない。そう思って動き出そうとしたところで大きな水たまりがあることに気づく。その水は透き通ってて綺麗なもので白砂がさらさら地面を流れてる。頭を覚醒させるため顔を洗おうとしたその瞬間に私はさらなる衝撃を受けた。

ーこの年齢になってこんなの着ると思わなかっ……

……え?

水たまりに映る自分の姿に行動が止まる。

ーえ、まって。

髪の毛はサラサラのアイボリー色が強い、綺麗なブロンドヘア。左の目の下に泣きぼくろのどこかキツめの雰囲気を思わせる意志の強いルビーのような瞳。顔を触るけどそれは間違いなく自分だった。頬を撫でる深緑の香りも、ひんやりと冷たい地面や水の感触も自分を触る感覚も、綺麗な風景を映す目も全部が本物。

ー夢、なのに?

自分なのに自分ではない誰かの声がする。

ー私はアリス…みんなが私をチヤホヤするわ……だけど、それはただの名声や富を求める愚か者たちから向けられる歪んだ愛、私は本当の愛情を知らない。ー

……流れ込んでくる"アリス"の感情はどこか不気味で寂しくて胸が苦しくなる。彼女は…いいえ、私は一体何を求めてるのだろう?

大きなお城が森を掻い潜ったその先に見えてきた。その場所に行かなくてはいけないと本能が言ってるけど足が進まない。行き方がわからない?そうじゃなくて、行きたくないのだ

ーアリス、こんなところでなにしてるの?

ー誰?

どこか軽口で低音だけど穏やかな耳に心地よい声が流れてくる。どこからだろう周りを見回しても誰も居ない

ーくくく、こっちだよ〜。そんなにキョロキョロしてたら食っちまうぜ

次にその声は頭上から降ってきた。
声のする方へ顔を向ければ、そこにはスラリとした青年が木の枝の上にいる。
緩やかにパーマがかって片目が隠れるほどの長さの髪はピンクと白のまだら色だけど、そこから覗く金色の瞳は鋭く妖しい。ミステリアスで剽軽そうだ。

ーなあ、アリス。城に行かなくていいのか?さっき裁判の始まるラッパの音が聞こえただろう?

ーラッパの音は聞こえたけど…裁判?

ーおやおや、それすら忘れちゃったの?ここがどこかもわからない?オマエが誰かもわからない?アリス、アリス、アリス……くくく会いたかったぜ

青年はニタニタ顔で笑ってる。その様子はアリス物語の登場人物のチェシャ猫のそれだった。
彼がいう言葉の意味がわからない。けれど聞かないと自分の状況もわからないのもまた事実だった

ー私はここに来たばかりだもの、変なこと言わないで。わかるはずがないでしょ

ーおやおやおや、そうかそうか。お前は来たばかりなんだね。さっきのラッパの音は裁判の始まりさ。罪人を裁くんだ。それと、ここはハートの国の女王…アリス、オマエがおさめるハートの国だよ?



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ちょっと長くなっちゃいましたが、読みに来てくれてありがとうございます!!
またよければ遊びに来てください。ありがとうございました。こちらのシリーズは続きものなのでぜひ気に入ってくださった方いらっしゃいましたら一話から読んでいただけると幸いです。
2024/11/10 紅月憂羅





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