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ジャズフェスの運営者とジャズの未来を考えてみた

「サスティナブルジャズ」では、これまで様々なミュージシャンを招いてジャズの未来について話してきましたが、第4回目はジャズフェスの運営者のお二人にお話を聞いてみました。岡山県岩国市の「岩国ジャズストリート」を運営する橋本大吾さんと、広島県三原市で「Setouchi Jazz Castle」を運営する永田敬士さん。人口の少ない地方で、どのように集客し、ジャズフェスを開催してきたのか。それぞれのジャズフェスの魅力と運営上の課題について教えてもらいます。

ゲスト:橋本大吾(はしもとだいご)
岡山県生まれ。2015年に「岩国ジャズストリート」を立ち上げ毎年4月に開催、実行委員長を歴任する。現在、米軍基地従業員の傍ら音楽イベント企画事業ロータスプロモーションズの代表を務め、米軍音楽隊コンサートや大林武司ニューヨークトリオジャズコンサートなどホールイベントを手がける。

ゲスト:永田敬士(ながたたかし)
SETOUCHI JAZZ CASTLE ディレクター。三原市で開催される「SETOUCHI JAZZ CASTLE(セトウチ・ジャズ・キャッスル)」(2016 年〜)、世羅町で開催の野外音楽フェスティバル「Que Sera Sera Wine&Music Festival(ケ・セラ・セラ・ ワイン・アンド・ミュージック・フェスティバル)」(2014 年〜)の企画制作を軸とし、携わる音楽イベントの質向上、そして定着と継承を目指す。

モデレーター:中山拓海(なかやまたくみ)
2015年同世代のミュージシャンと共に「JAZZ SUMMIT TOKYO」を結成後、様々なイベントを企画運営。2021年に株式会社化し、現在は高品質な動画配信サービスとして『JAZZ SUMMIT TOKYO PREMIUM』を運営している。
https://www.takuminakayama.com/

JAZZ SUMMIT TOKYO 公式webサイト
https://www.jazzsummit.tokyo/
動画配信サービス『JAZZ SUMMIT TOKYO PREMIUM』
https://www.jazzsummit.tokyo/premium

リモートでの対談の様子をライブ配信した。左上:橋本大吾氏、右上:永田敬士氏、下:中山拓海

「岩国ジャズストリート」と「Setouchi Jazz Castle」について。

中山 早速ですが、それぞれのジャズフェスについてお伺いしたいと思います。先に「岩国ジャズストリート」からお願いできますか?

橋本 きっかけは、2014年にジャズの愛好家達で忘年会をしていた時に、勢いでジャズフェスをやろうという話になったんですよね。商店街の人達と話して、岩国を盛り上げようという思いで始めました。倉敷のジャズストリートを参考にしましたね。3会場のサーキット型(1つの会場だけでなく、複数会場で開催すること)で、チケットを持っていれば全部自由に回れるのですが、思いのほか、3会場が満席になりました。これは続けていく価値がある!と思い、役割を決めて、よりしっかりとした形で運営できるよう実行委員会を組織したんです。ジャズ愛好家が集まって始めたので、各個人それぞれの人脈を使って、ボランティア集めや印刷物等も担当しました。岩国は米軍基地もあるので、音楽隊にも来てもらったり、岩国なりの特色を出しながら、コロナ前の2019年第5回目まで続けました。

地元のジャズを愛する方によって盛り上がる、岩国ジャズストリート
(引用元:岩国ジャズストリート公式HP https://iwakunijazzstreet.com/)

中山 3会場で満席というのは、お客さんは普段ジャズを聴かない方も来ていたんですかね?

橋本 そうですね、ジャズリスナーを増やしたいというのが一つの大きな目標だったので、最初の1回目は500円にして、気軽に来てもらえるようにしたんです。実際、普段ジャズを聴かない方も来て下さっていましたね。

中山 出演者は岩国在住の方が中心でした?

橋本 岩国の出演バンドは3組くらいですね。一番多かった時に、全体で50組くらいだったので、ほとんどは岩国以外の方です。地方を応援したいという思いで、福岡や東京、仙台から来ていただいた方もいました。

中山 基本的にはプロというより愛好家の方々ですか?

橋本 そうですね、我々の趣旨として、無料参加が条件なので、ギャラが発生しません。ただ、無料でも快く参加して下さる方もいます。アマチュア・セミプロ・プロと、バラエティ豊かです。

中山 コロナで他の地方からミュージシャンが来る機会は減りましたか?

橋本 ジャズを定期的に開催する箱(ジャズクラブ)は、岩国で3〜4箇所あるんですが、飲食店が多いため、そういうリスクを避ける傾向はありましたね。風評被害を警戒する店も多かったと思います。

たくさんの演奏者・聴衆が参加するジャズフェスは、コロナ禍で開催が難しくなった
(写真はJAZZ SUMMIT TOKYO主催のSUMMER FESTIVAL 2015より)

中山 続いては、永田さんの方から、「Setouchi Jazz Castle」についてお伺いできますか?

永田 まず、三原市について知らない方もいらっしゃると思うのですが、広島空港や山陽新幹線の駅もある、交通手段の整った地方都市です。かつては、重工業で栄えた街ですが、ここ10年で人口が1万人減っています。個人的には、三原の一番の見所は瀬戸内の景色だと思っているのですが、「Setouchi Jazz Castle」は、三原城の「Castle」を合わせてネーミングしたんです。2016年に第1回目を開催しましたが、三原市のジャズ愛好家とミュージシャンで実行委員会を構成し、三原市芸術文化センターを会場にしています。特徴としては、一つの施設の中でどれくらい面白いことをできるかということで、ライブだけでなく、ワークショップやセッションもやっています。他には、出演するミュージシャンにとって、良いブランディングになるよう、洗礼されたイメージを目指して、ビジュアル、アートワーク、会場作りをこだわっています。また、三原市のリソースを活用して、飲食など色々な要素を総動員して間口の広いイベントにしていますね。出演者については、スペシャルゲストには出演料を払いますが、その他は2000円のチケットを1枚売るごとに1000円をバックするシステムにしています。

ユニークなコスプレ参加者や本格プロも参加し、多くの人に楽しまれるSetouchi Jazz Castle
(引用元:Setouchi Jazz Castle Facebookページ https://www.facebook.com/setouchijazzcastle)

運営する上で大変なこと。

中山 運営されている中で、どういった点が一番大変ですか?

永田 濃いファンというか、愛好家達の絶対数が都市部に比べて少ないので、そういう方にいかに来てもらうかが、難しいですね。あとは、やっぱりゲストに出演料を支払う場合、交通費や宿泊費もかかりますが、チケット金額は下げることができない。やっぱり、芸術に触れる機会が少ないからこそ、そこにお金を使う文化は無いため、金額は抑えなければなりません。良いものにこだわっていますが、そこの理解を得るのは難しいですね。

中山 そういう理由で飲食を取り入れるという発想になったんですか?

永田 そうですね、イベント時間は長いので、朝から夜までお酒も禁止されていません。地元の駅弁屋さんと協力して、オリジナルジャケット付きのお弁当なども販売しています。

中山 岩国の方はいかがですか?

橋本 我々の方は、出演料は発生しませんが、音楽をやる以上、土台として音響設備は必要になりますよね。そういう機材のないお店でも、委員会が機材を外注して用意するので、予算面で大きい部分でもあります。あとは、お昼頃から夕方まで、およそ6時間くらいを10会場で回すので、とにかくボランティアスタッフがいないと回りません。店主や出演者とのやりとりや、駅から来る方への案内など、ざっと100人くらい必要になります。それを毎年毎年かき集めて、勉強会を開催したりなど、一番苦労しましたね。ただ、このボランティアをすることが、初めてジャズに触れるきっかけになったという人もいて、僕の中では一番やりがいを感じる部分でもあります。これから若い世代が、岩国という都市について、「音楽があるから戻りたい」と思えると良いなと。

隠れたファン層を様々な形で巻き込みながらイベントを行っている
(引用元:岩国ジャズストリート公式HP https://iwakunijazzstreet.com/)

中山 岩国には、ジャズクラブはあるんですか?

橋本 いわゆるジャズクラブという老舗の形では無いのですが、店主がジャズをすごく応援していて、長年定期的にジャズをやる会場はいくつかありますね。それこそ、岩国ジャズストリートの拠点になっているお店です。マスターは本当に暖かい人達で、色々とバックアップして下さります。三原市はいかがですか?

永田 三原市はジャズライブハウスどころか、ライブハウスもありません。ただ、市内のライブカフェやレストランで、月に3回くらい生演奏は行われていると思います。なかなか、みんなが集まってやる機会というのはないですね。

中山 そうなると、年に1回のジャズフェスの開催がとても重要な機会になりますね。

集客とギャランティの課題。

中山 お互いのジャズフェスについて聞きたいことはありますか?

永田 3つお伺いしたいことがあります。1つ目はジャズミュージシャンが地方のジャズフェスに求めるものって、どういうものがありますかね?あとは、各地の出演条件について、最後にチケットの販売・宣伝方法を聞きたいです。

中山 一つ一つお互い話していきましょうか。まず、一つ目についてですが、ジャズフェスの良いところは、ミュージシャンにとって自分を知ってもらうきっかけになることだと思います。演奏すること自体もそうですが、それ以上に、打ち上げなどで地方の人と関われるきっかけになるのが一番大きいかなと。ジャズクラブで演奏する時とは、運営されている人数も違いますし、そういう人達とコミュニケーションが取れるのは大きいですね。

JAZZ SUMMIT TOKYOのイベントでは、全ての参加者にとって新たな出会いの場となった

 二つ目は出演条件ですね。すごく突っ込んだ質問ですが、難しいところですよね。サブスクが出てきて、CDと全然違う値段で楽しめてしまう。生の演奏の価値がどうなっていくのか、音楽自体の価値がどうなっていくのか、本当に今は過渡期だと思います。金額が高いと聴きに来てもらえないし、下げてしまったら、音楽で食べていくことが難しい。そのバランスですよね。若い人やお金が無い人に音楽は聴けないものであってはいけないと思うし、みんなにとっての音楽であってほしいとは思います。

橋本 私も色々な地方のジャズフェスを見ましたが、その都市のできる範囲でやっていくしかないですよね。僕らも大物をどんどん呼びたいですが、それを回せるだけの運営のプロがいるわけではないですし、その年々のさじ加減によります。あわよくば、補助金があればできるけれども、それに頼りきりのわけにはいかないし、答えのない、永久の課題だと思います。

永田 僕個人の考えだと、チケットのチャージバックシステムは割と健全なシステムだと思っています。お客さんを集めることはミュージシャンの役割だと思うので、そこはやっぱり理解してほしい部分ではあります。

中山 そうですね、完全に運営に任せて、集客なども、ギャラが出るのが当たり前ということではなく。僕自身も運営側をやってみて、改めて、簡単なことではないなと。運営すればするほど、出演が有難いなと。色々な方がいらっしゃいますが、出演者が運営側の目線も持つと、お互いにわかることがあると思います。

ジャズをサスティナブルなものにするために。

中山 三つ目は、チケットの販売・宣伝方法ですね。橋本さん、いかがですか?

橋本 うちは500円でスタートしましたが、今は1000円が定着しています。岩国市内の色々な団体さんを回ったり、学校関係には無料配布したり、多くの人に見に来てもらう努力はしてきました。岩国という場所の中では、メディアを使っての宣伝は限られてしまうので、実行委員みんなが一人一人頑張るしかないですね。

中山 予算の問題もありますが、知名度のある方ばかりを呼ぶと、どこのジャズフェスでも同じ人が出演してしまい、それこそサスティナブルにはならないですしね。難しいですが、逆に、今はSNSで見せ方次第で繋がれるので、そこはチャンスの一つかなと。僕はミュージシャン自身がどんどんやっていくべきだと思っていて、僕自身も頑張りたいと思っています。

ジャズフェスは地方にジャズミュージシャンが訪れるきっかけとなっている
(引用元:Setouchi Jazz Castle Facebookページ https://www.facebook.com/setouchijazzcastle)

橋本 僕もFacebookでミュージシャンと繋がっていますが、会場での様子を動画でアップされていたりするのを見ると、見に行きたいと感じます。

永田 岩国の客層はどんな感じですか?

橋本 やっぱり、少しゆとりがあって音楽にもお金をかけられる、年配の方が多いですね。岩国では、大学のジャズ研があるわけでもないですし。たまに、出張者などがセッションに顔を出してくれることはあります。

永田 こちらも年配の方が多いですね。そういう意味でいうと、YouTubeを見ない層なので、コミュニティセンターや公共施設にポスターやチラシを置いたり、新聞折込をやったりしています。

橋本 やはり、チラシ宣伝が効果的ですよね。我々は愛好家達の組織なので、みんなが自分達で色々な場所に演奏に行きました。高齢者施設や駅などで演奏して、ジャズというものを知ってもらう。セミプロの方にお願いするとギャラが発生しますが、アマチュアでやってると、みんな疲れてしまい、そこのバランスも難しいのですが。

中山 「JAZZ SUMMIT TOKYO」では、今後新しい企画(※)を考えていて、ただ単に演奏するのではなく、その土地にいる方々と、音楽以外の交流の場を作ろうと思っています。新企画をどんどんやろうと思っているので、ぜひご一緒できれば嬉しいです!

(※)この企画とは、「JAZZ SUMMIT TOKYO PREMIUM」で公開された「ジャムり、めぐり。」のこと。

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