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『収入0円』 それでもエンターテインメントに挑戦する理由



同じエンターテインメントの世界で生きる皆さんへ。特に、これから先の未来を担っていく世代の方達へ。今、お話ししたいことがあります。

はじめに

音楽、ダンス、演劇、お笑い、本、ゲーム、スポーツなどなど。世の中には様々なエンターテイメントがあり、当然それに携わる方々もたくさんいらっしゃいます。そして、このnoteを読んで頂いている方々の多くが、はじめましてという形になるかと思います。私は普段、「IRコンサルタント」という仕事の傍ら、長澤まさみさん主演のドラマ『コンフィデンスマンJP』でも話題になりました「コンアーティスト」という心理学パフォーマーを副業でしております。どちらも初めて耳にされるという方が多いと思いますが、自己紹介がてら簡潔に説明させていただきます *(副業のコンアーティストについて詳しく知りたいという方がもしいらっしゃいましたらプロフィール欄概要をご覧ください)。

「IR(統合型リゾート)」とは、夢と魔法に満ち溢れたリゾートエリアを全国3箇所に開発しようという、自動車産業に並び著しい成長を遂げる日本の観光産業にとって非常に大きな期待がかかる一大プロジェクトであります。国内外のリゾート企業や誘致を行う市町村、また法整備に取り組む行政のバックアップ等を行っています。具体的には、エンターテイメントを通したプロモーションによって、「カジノ=ギャンブル」という間違った考えを正し、アミューズメント・リゾートであるIRの魅力を発信することを中心とした業務です。タレントさんやパフォーマーの方々などにもご出演いただき、関連企業やIRの魅力について一般の方々にも知って頂く機会をつくる為のイベントやショー等を運営してまいりました。上記しました通り現在は副業として、またかねてからは幼い頃からパフォーマンスすることが大好きであったことから、今のお仕事ではたくさんのエンタメと接する機会に恵まれており、まさに私にピッタリな職業だと思っております。

しかし、この度の感染症被害拡大の影響により、数ヶ月の間、ほぼ無職に等しい状態が続きました。理由は大きく2つあります。1つは他業種でも同様のことが言えると思うのですが、『お客様ありき』のお仕事であったからです。プロモーションイベントなどは、人がいなければ成り立ちません。そしてもう一つの原因が、お世話になっていた雇用先にあたる国外の企業(ラスベガスやマカオでカジノリゾートホテルを経営している)が、それぞれの本拠地における観光客激減に伴う緊急対策を講じており、日本での宣伝広告に予算や人員を費やせる余裕がない状態であるからです。現在それらの外資系リゾート企業は、日本国内での活動を最小限に抑え、「区域整備計画」の申請受付に向けて、基本方針を策定する各自治体や市町村などと協力して準備をすすめている状態です。


自粛期間中にエンタメは必要?

世界的パンデミックという非常事態が起きる最中、エンターテインメントというものの無力さを痛感しました。また同時にエンターテイメントというものは人にとって嗜好品的な存在であり、あくまで「プラスα」な産業なのかと、つい疑問を抱くようにもなりました。その一方で、自分がエンターテイメントから生き甲斐を与えてもらった一人であるが故に、『災害時には必要とされないのか』『後回しにされるべきなのか』という自ら設定した問いについて、客観的な論理やデータに基づき、自分なりの立場や主張を論証してみる必要があると感じました。災害やパンデミックをはじめとする有事の際に、必要とされないエンタメの特徴とは何か?また人々から必要とされる為に必要な条件とは何かについて考えてみました。


文化芸術の社会的位置づけ

まず初めに、パンデミックが起こる以前の状態における、元々の日本のエンターテイメントについて考えます。アートや音楽、他エンタメと呼ばれる業種とそれらが生み出すモノらが、社会的にどのような立場に位置づけられ、文化的にどれほど重要視されていたのかという漠然とした概念を分かりやすく定義しておく必要があります。創造的な文化芸術の活動結果として生まれる価値は非金銭的なものや非市場的なものなど多様である為、一概に数値化することは非常に困難ですが、ここでは日本のGDP国内総生産における文化芸術の割合をもとに我が国における文化芸術の社会的位置づけを定義してみたいと思います。


ミュージアムやパフォーミングアーツ、音楽、アート、デザイン、メディアなど対象とする業種は様々です。その中からGDP全体の枠に即して内訳をとらえた経済的な価値を算出したデータを参考に、結果として日本における文化GDPは全体の約2%にも満たないということが分かりました。
またこれらの数値は他の産業と比較してみても、決して上位に位置する数字ではありません。(製造業: 約20%、卸売小売業: 約14%、不動産業: 約12% etc…)

しかしながら、生活に必要不可欠な事業の経済活動が優先して活発に行われる中、前述した通り非金銭的な価値が創出される文化芸術活動において生産総額が他を下回るのは至極当然であったかもしれません。経済的な位置づけとは別に、エンターテインメントが人々にとってどれだけ価値あるものかという本来のテーマに沿って定義し直す必要があります。

実例を基に、こういった一人一人の芸術に対する価値観が最も表れているのが、文化や芸術に費やす国家予算であると言えます。日本と諸外国の国家予算に占める文化予算の割合を見ると、日本が0.11%なのに対して、フランスはおよそ10倍にあたる1.06%が文化芸術の支援に費やされています。その他、韓国やドイツなども、日本より高い割合を文化予算に割いてます。日本の文化予算額は、アメリカ、中国、韓国、イギリス、フランスなどの他の先進国と比べて圧倒的に下回っているのです。


エンタメにいくら払う?

では次に、パンデミックが起きた後のエンターテイメントの位置づけがどのように変化したかについてです。ここではまず海外諸国の文化芸術に対する保護や支援の緊急対応について実例を挙げます。

イギリスでは、3月20日にスナック財務大臣が雇用を維持する企業の給与を約47兆円の予算規模で一部助成することを発表しました。そんな中、イングランド芸術評議会は約216億円の緊急支出を決定。内訳は、フリーランスを含む個人向けに約27億円(1人当たり約34万円)、芸術関連団体向けには約122億円、それ以外には約68億円となっています。

また元来、舞台芸術・映画のフリーランス労働者でも失業手当を受給できる制度があるフランスでは、 契約労働者の失業手当受給条件緩和も発表され、文化省が3月18日に約26億円の芸術支援費拠出を決定。芸術鑑賞等にかかる入場料税の支払いを猶予した上で、民間劇場へ約6億円、芸術家や作家らへ向けては約2億4000万円、音楽関係者には約12億円の緊急支援基金を創設することが決まりました。

ドイツでは3月23日、連邦政府が約90兆円規模の財政出動を決定。そのなかで、芸術や文化の領域も含む自営業者に対して、約6兆円を拠出。加えて、個人の生活維持のために約1兆2000億円が支援され、各種のイベントやプロジェクトが中止になった場合でも助成金の返還は可能な限り求めないとしています。

イタリアでは、政府が舞台芸術・映画・視聴覚産業の企業・作家・芸術家・実演家を対象とする緊急基金、約156億円の創設を発表しました。

アメリカにおいては、米国芸術基金が非営利芸術団体向けに約83億円の緊急支援の方針を発表。既に支援総額約220兆円におよぶ、新型コロナウイルス救援・救済・経済安定(CARES)法も成立しています。

オーストラリアの芸術評議会は支出を組み替えて、芸術家・芸術組織の緊急支援に約3億3000万円を投じる方針を発表。また、連邦政府は求職者手当の増額や中小企業向けの支援や融資保証など、総額約4兆6200億円の対応策を打ち出しています。

シンガポールは3月6日、芸術団体向けに約1億2000万円の緊急支援を発表。能力構築にかかる費用を助成するそうです。また、国立文化施設の利用料は約3分の1を減免することも明らかにしていて、3月26日には芸術文化における雇用の維持のために約41億円を支出すると発表しました。

香港は、3月5日に香港芸術発展局が約7億7000万円の芸術文化支援を発表しました。

そして日本ですが、具体策は現時点で不明です。3月28日に宮田文化庁長官が「文化芸術に関わる全ての皆様へ(中略)明けない夜はありません!今こそ私たちの文化の力を信じ、共に進みましょう」というメッセージを発表されました。政府の方針では、中止されたイベントなどについて、損失補償ではない形の対策を講じる予定となっています(一部の都道府県で芸術文化活動支援事業開始予定)。


後回しにされないエンタメの条件

これらのレファレンスをふまえ、日本のエンターテインメントは、蔑ろにされていると言っても過言ではない危機的状況にあるということが分かりました。では一体なぜ、有事の際に日本で文化芸術は後回しにされてしまうのでしょうか?

大きな原因として着目すべき点が2つあります。それが、『セールス』と『トレード』です。

セールスとはBtoB(企業間取引)の営業などの類ではなくBtoC(企業対消費者取引)のチケットセールスの事をここでは指しています。数あるエンタメの中でも、例えば日本の舞台興行においてはキャストの人気度によって売り上げが大きく左右されることが多々あります。なぜなら国内には舞台を制作・企画するショープロダクションよりも、タレントプロダクションが圧倒的に大手に多く、いわゆる芸能事務所の主催、企画又はスポンサーで舞台を作るのが基本的なプロセスとなっています。まずは出演するタレントが先決され、舞台の脚本や企画は主演キャストに合わせて後から決定するということが実は多々あるのです。

これは日本では当たり前のように聞こえるかもしれませんが、アメリカのNYCのブロードウェイでも同様のことが行われているのでしょうか。ミュージカルを初めとする多くの舞台芸術が存在するブロードウェイですが、その主演キャストの80%以上が初主演、前出演歴にTVや映画などメインストリーム向けメディアに露出した経験がない俳優女優さんが抜擢されることがほとんどです。この原因として、誰でも主演に挑戦する権利がある、いわゆるオープン・オーディションというキャスティング方法をとり、脚本や企画意図に沿った適任を探す工程が基本となっているからです。

人気俳優さんの起用は決して悪くない売上が見込めます。その方々のファンもたくさん観に来ますから、それこそ『代えが効かない超オリジナル』と思う方も中にはいらっしゃるでしょう。しかしながら、いくら人気度が高かろうと物語や内容を最優先したキャスティングでない限り、その舞台にはいくらでも代役がいることになってしまいます。代役が立てられないという、本当の意味で『オリジナル』なコンテンツは、例えば孫悟空の声優は野村雅子さんであり、エディマーフィーは山寺宏一さんでないとしっくりこないように(個人的にドラえもんも大山のぶよさんの声の方が親しみがあります)、前段階的なインタラクションの中で、ストーリーを成立させるそのキャラクター性とそれを演じる演者さんとが観客の感覚の中で一致され、良い物語と判断されるのです。

人気なタレントさんがキャスティングされると宣伝効果も大きく、それ自体が決してコンテンツに悪影響を与えるというわけではありません。しかし、舞台をはじめとする日本のエンターテインメントでは昨今、「この俳優さん女優さんが人気だから彼ら集めて『何か』作ろう」という企画発足の仕方が流行していることは否定できません。むしろ、ストーリーや演出のあれこれよりも、出演者の人気度を重視する売上至上主義的な考え方が日本のシアトリカルビジネスの中では当たり前とされています。本来であればたくさんの名作を生み出してきたブロードウェイのように、ストーリーがあり、本があり、そこからショーとして成立させる為に表現スタイルや技術などを照らし合わせて、出演者をキャスティングするという制作過程の方が、実績を鑑みたときに非常に有効なように思えます。また結果的に非常事態の際にも、よりニーズが高いコンテンツとなるのでしょう。なぜなら、そもそも舞台を作るショープロダクションが豊富に存在することも一つですが、一方でエンターテイメントにおいて消費者にあたる観客の中で、とある心理的な変動が起こることが大きな原因にあるのです。


手作りプリンと詰め合わせ

具体例をもとに仮説していきましょう。
あるところに2つのお菓子屋さんがあります。どちらも売ってる商品は1つしかありません。Aのお店では、シェフが10年修行して会得したとても美味しいプリンを販売しています。毎日店頭には長蛇の列が出来るほど大人気です。ところがある日ウイルスの全国的な感染拡大に伴い、止むを得ず一時閉店しなくてはいけなくなりました。数週間経った後、そのスイーツA店の常連は「あぁ…あそこの美味しいプリンをまた食べたいなぁ」「早く戻ってきてほしいなぁ」と再びお店が開店するのが待ち遠しくなるかもしれません。
一方で同じエリアにある、Bのお店では都内で大人気のスイーツの詰め合わせ10選が売っています。行列のできるお店のお菓子が10種類も入った寄せ集めの商品です。もちろん好評で、販売すればするほどたくさん売れて行きます。しかしA店と同様にトラブルが起こり、急遽お店を閉店しなくてはいけなくなりました。しばらく時間が経過してからお客さんはB店についてどう思うでしょう?是非一緒に想像してみてください。「あそこの人気詰め合わせ久しぶりに欲しいなぁ…」となるでしょうか?恐らくA店とは異なり、再開を期待する声はそこまで聞こえてこないはずです。これは、B店が販売していた商品が他の人気店の寄せ集めに過ぎないからです。その商品に入ってるお菓子が食べたければ、皆さんそのお菓子を販売しているお店に直接行きたいと思うはずです。人気スイーツをひとつのパッケージにまとめて販売すると、どこかお得な感じがして、それなりの需要もあるでしょうから売り上げも良いと思います。しかし、緊急事態の際にA店とB店の商品のどちらが必要とされるかといえば、多くの人々がまずA店を選ぶでしょう。つまり、使用される材料がたとえ人気者ばかりであったとしても、その商品の中身が限られた場所でしか手にする事が出来ない『オリジナル』でなければ有事の際に必要とされ難くなってしまうのです。

トレードに関してもセールスと非常に似たことが推測できます。
宝塚、歌舞伎、また最近流行りのアニメや漫画をもとにした2.5次元など、日本には世界的にも人気の高い独特なコンテンツがある一方で、海外で人気を博したショーを日本人キャストで再演する輸入物の作品もたくさんあります。前述したタレント先行のビジネスモデルにおいて、既に完成されていて評判の良いものを輸入してくるという工程の方が、製作がスムーズに進行するので重宝されているのかも知れません。しかし、輸入作品が今後、大多数を占めるようでは、当然ながら日本発信のオリジナルコンテンツが減少し、国内に新しい作品を生み出す優秀なクリエイターが生まれないという極めて危険な状態に陥る可能性があります。そのようなことがあれば、人々にとって日本の文化芸術の価値がさらに下がるということも懸念されるでしょう。


ここまでの考察を通して、災害やパンデミックをはじめとする有事の際に、必要とされないエンタメの特徴と条件とについて検討してきました。最後に残された課題として、昨今のような自粛期間中において、我々のようなエンターテインメントに従事してきた者は一体何を作り、終息した先の未来に向けて、何を準備しておく必要があるのかについて考える必要があります。


今後の課題


国連UNICが公開したブリーフィングにもあるように、発信力のある人達は各々のクリエイティブ分野を通じて、感染者数に歯止めをかける為に1時間でも多く自宅待機を促す「メッセージ」を発信していく必要があります。また自粛疲れの軽減に繋がるような、人々が自宅で楽しめるコンテンツなども、これから様々な形でさらに需要が高まっていきます。SNSにおける「にんじんチャレンジ」「腕立て伏せバトンリレー」などは、一瞬の流行に過ぎないかもしれません。しかし、オンラインを通して在宅を促すエンターテインメントを積極的に発信していくことで友人や知人に会えなくても、むしろ繋がりを感じられ、より多くの人々の共感を得ることに繋がっていくでしょう。

まとめとして、これからも変わることなく同じエンターテイメント業界に携わっていくであろう皆様に向けて、日本の文化芸術における指針を提案します。ここまで論証してきた内容含め勿論、一個人の考察ですから、対抗仮説やご意見ご指摘などがあれば是非ご教示願いたいです。このような時期だからこそ、一生を費やす価値あるエンターテインメントという文化について、様々な立場の方々と議論したいと思っています。自分の立場に都合のよい事実やデータを並べるだけでは説得力が弱いと感じ、私の仮説と対立する立場の両方を検討・調停し、より詳細に立証をこれからも続けていきたいと考えています。

これからの日本のエンタメの課題、それは『徹底してオリジナルを追求すること』です。
使用曲から役者から制作におけるプロセスにおいて、徹頭徹尾コピーを除去していくということが非常に大切になっていきます。その為には、過去100年間の舞台作品全てをアーカイブし、作者や時代背景等いつでも情報にアクセスすることができるオンライン・ライブラリーを作る必要があります。クリエイターを志す日本の若者がコピーを作らず、オリジナル作品に徹底できるように。例えば、「TomorrowはAnnieがオリジナルである」のような勘違いが次の世代の中で広まることがないように。歴史に基づいた正しい知識を身に付ける環境をオンラインベースで整備すること。これが、国家予算に占める文化予算の割合がダントツの最下位である日本にとって第一の課題だと思っています。日本独自のコンテンツが主流になれば、無形文化財として、国や行政間でも文化芸術を支援する取り組みが一層増えていくのではないでしょうか。


おわりに

まずは在宅しながらでも出来ることから、身の回りの人達と助け合って、今でなければ出来ないことを作っていきましょう。いつか近い将来にこのトラジティーが終息した暁に、この自粛期間中に出来た新たな繋がりが再び仕事に結びつけば、これ以上に幸せなことはありません。

こんな時でも努力し続ける仲間や、社会の為に試行錯誤する憧れの先輩・先生方がたくさんいらっしゃいます。だから、たとえ無一文になっても、僕はエンターテインメントを止めません。エンターテインメントが大好きで、生きがいを与えてもらいました。これまでの人生も、これからの時間も、この世界の芸術文化推進に少しでも役立てたい、そのような心構えで私はこれからも研究を続けていきたいと思います。
これが、収入0円という困難な時間を経験しても尚、僕がエンターテインメントに挑戦する理由です。


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