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なんて事のない詩

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通り過ぎても気にならない、なんて事のない風景
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レンジでチンした鮭の切り身と味噌汁をそれぞれ火に掛ける 黙々とかき混ぜた納豆は卵を割った白米の上に 沸かないうちに火は止めて、切り身は少し焦げるくらい 盛り付けて、漬物は無し ニュースの賑わいがちょっと大きくてテレビの音量を少しだけ下げる そのあと天気が始まって、今度はしっかり音量を上げる

ボーリング

吹き出す風に差し込んだ手をひっくり返してひっくり返す ボールをぐるぐる拭いてはみるけど理由は今一分かっていない 窺う視線と佇むピン カコーン じんわりと一歩目は慎重に そのままだんだん勢いに乗って

お風呂

鎖の先にぶら下がったゴムを穴に目掛けてしっかりと押し込む 設定温度はそのままで、換気扇を忘れずに 捻った蛇口はほったらかしでもちゃんと教えてくれるから 後は暫く声がするまで 音楽でもかけながら夕飯の支度

椅子

ずらりと並んだ椅子がテーブルをはさんで静かに向かい合っている 姿勢の良いその姿は最早既にそれ事態が座っているように見える やって来た女性のもたれかかった横顔はやっぱり座った椅子と同じで 後はただただ静かにじっと

喫茶店

飲み終わってしまわないように冷めたコーヒーをちびちびと飲み進める 気分転換で弄くり始めたスマホから抜け出せないのは何時ものこと いつの間にか目的が分からなくなってしまったけど 小説はちょっとだけ進んだし、知らない情報も手に入れた 何となく見渡したら向こうの女の子と目が合ってドキッとしたけど 別にどうって事はないですよ

つり革

動き出した反動で一斉にゆらりと宙に浮く 速度が馴染むと後はすんとして時々みんなに合わせてゆらゆら 欲しい所に全然なくて、伸ばしてみたら意外と届いて 丸と三角 握るも握らないも本人の自由

紅茶

浸したティーバッグを上げたり下げたりして出来上がりを促す じんわりと茶色が溶け出してだんだんと濃くなっていく熱湯 多分もうすっかり出来上がっているけど まだ残ってそうな気がしてもうちょっとだけ上げたり下げたり 取り出したティーバッグはレシートの上でぐったり 半分だけ茶色く滲んだレシートも帰る頃には乾いてかぴかぴ

ポスター

小麦色の肌に鮮やかなビキニ 掲げたジョッキと真っ白い歯 ロングヘアーは一昔前のスタイル 太ももに纏わり付いた砂浜の砂 セクシー ちょっと色褪せてはいるけれどそれは本人の知ったこっちゃない

カーテン

勢いよく風が吹き込んでこっち側にぶわっと舞い上がる 閉めたらゆっくり元に戻ってそのままじっと動かない 開閉は人それぞれ、生活のリズム

マンホール

足元のそこら中にあって落ちないように蓋が閉まってる 何処まで深くて長いのかは知ってる人しか知らない 踏んでもびくともしないからみんな忘れているけれど その直ぐ下は真っ暗な空洞

ホーム

電車がホームに到着してぐいっとみんなが前に出る 最後尾はもう反対側の端っこ 物心ついた時からずっと工事中で 喫煙所はもうどこにも見当たらない 向かいのホーム 向かいから見たこっちのホーム もっとあったはずのゴミ箱がなくてペットボトルを弄ぶ ごった返しているのに誰とも目が合わない

地図

行きたいところへ行きたいけれど今いる此処が見つからない 縦を横にして横を縦にして見ている景色と向きを合わせる 通り過ぎた後で確認してばっかりで なかなか自分に追い付けない

ビニール袋

意外と本当は直ぐに破れるのに意外と中々破れない 容量はそれぞれのサイズ 本当は多分本当に要らなくて無くても多分やっていけるけど 如何せん生活がそれを許さない 明日は特売日でポイントが二倍

定規

真っすぐ線を引こうとしたら勢い余って定規がずれてやり直し 抑えていた指が邪魔をしてぼこっと線が山なりになってやり直し ちゃんと計っていた筈なのに出来上がったらちょっとずつずれててやり直し 正確な物を正確に扱う