見出し画像

ネット・ゼロ・エミッションへのロードマップ

インドネシアは、2060年までにネット・ゼロ・エミッションを達成するための取り組みを強化しています。ネット・ゼロ・エミッションとは、人間の活動に由来する温室効果ガスの排出量をプラスマイナスゼロにしようとする取り組みのことを指します。

2023年8月、インドネシア金融庁(以下「OJK」といいます)は、炭素取引所を通じた炭素取引に関するOJK規則2023年第14号(以下「本規則」といいます)を発行しました。本規則は、炭素取引所に関する金融セクターの発展及び強化に関する法律2023年第4号を補完するものであり、インドネシアの上記コミットメントを達成するための重要なステップであると考えられています。

本規則を実施するため、インドネシア証券取引所は、インドネシア共和国大統領府と共同でOJK発行の炭素取引所事業ライセンスを取得した後、2023年9月にインドネシア炭素取引所(IDX Carbon)を発足させました。
事業者は、www.idxcarbon.co.id にアクセスすることで、インドネシアの炭素取引に参加することができます。

以下では、本規則のうち、特に炭素取引の定義と分類、炭素取引所運営者の要件、炭素取引の実施、規制について説明します。

定義と分類


本規則は、インドネシアにおける炭素取引に関して、以下の新たな定義を設けました。

① カーボンユニット:気候変動に関する国家登録システム(Sistem Registri Nasional Pengendalian Perubahan Iklim、以下「SRN PPI」といいます)に記録される二酸化炭素の所有権を証するものであり、1トン単位で証明又は技術承認がなされるもの。炭素取引所で取引されるカーボンユニットは、有価証券と同様に扱われます。

② 温室効果ガス排出削減枠(Sertifikat Pengurangan Emisi Gas Rumah Kaca、以下「SPE-GRK」といいます):事業者又は事業活動によって排出削減を証明するものであり、SRN PPIにより測定・検証され、登録番号の形でSRN PPIに記録されます。

③ 事業体排出枠(PTBAE-PU):事業者による温室効果ガス排出の最大値又は特定期間における排出量の概算予測

本規則第3条に基づき、カーボンユニットは有価証券として、SRN PPI及びインドネシア炭素取引所(IDX Carbon)に登録されなければ取引できません。インドネシア炭素取引所(IDX Carbon)を通じて取引されるカーボンユニットは、以下の通りです。

(a) 事業体排出枠(PTBAE-PU)
(b) 温室効果ガス排出削減枠(SPE-GRK)

インドネシア炭素取引所(IDX Carbon)は、登録された国内外のカーボンユニットについてのみ炭素取引を推進します。但し、以下の条件を満たせば、非登録のカーボンユニットも取引することができます。

(a) 未登録のカーボンユニットがインドネシアにおける法規に反しないこと
(b) 外国の未登録のカーボンユニットが本規則第3条4項に定める要件(国際的機関から承認を得ていること、外国炭素交換業者としての要件を満たしていること、OJKの定めるその他の要件)を充足すること

炭素交換事業者の条件

炭素交換事業者となろうとする事業者は、OJKが発行する事業許可証を取得することや、インドネシアで正式に設立された有限責任会社(PT)を設立するなど、OJKが本規則第11条に定める要件を満たす必要があります。

例えば、本規則第13条により、有限責任会社(PT)の最低払込資本金は、ローン以外の方法により、少なくとも1000億ルピア必要となります。通常の有限責任会社(PT)の最低払込資本金は100億ルピアですので、その十倍が必要となります。

また、本規則は、株主、取締役会、コミサリス会の構成として、以下の条件を設けています。

まず、本規則第14条により、株主構成における外国資本は、20%以下でなければなりません。
また、本規則第16条により、取締役はインドネシアに居住し、2人以上でなければならず、OJKのFit-and Properテストに合格し、環境問題、炭素交換に精通した知識を持ち、4年を任期として一度のみ再任が可能とされています。
また、本規則第20条により、コミサリスは、2人以上でなければならず、4年を任期として一度のみ再任が可能とされています。

加えて、本規則第21条により、炭素交換事業者の取締役会及びコミサリス会の構成員は、他の構成員から独立しており、炭素交換事業者の株式を保有すること等は禁止されています。

炭素取引の実施

本規則は、炭素交換事業者がカーボンユニットの取引資格を得るために様々なステップを規定しています。
本規則第7条により、炭素交換事業者は、①規則的かつ公平、効率的に炭素取引を行うこと、②カーボンユニットの継続的な取引を推進するために電子システムを利用するなどの義務を負います。

また、炭素交換事業者には、サービスの利用者の識別番号を作成する際に、顧客デューディリジェンスが義務付けられています。

OJKの役割

本規則第26条は、OJKに以下の点を監督する役割を課しています。

  • 炭素交換事業者

  • 炭素取引所を支えるインフラ整備

  • 利用者

  • カーボンユニットの取引と決済

  • 炭素取引のガバナンス

  • リスクの管理

  • 消費者保護

行政処分

未登録のカーボンユニット、株主構成、取締役会及びコミサリス会の構成義務の不順守など、本規則に違反した場合、本規則第33条により、①書面による警告、②罰金、③事業の制限、④事業の停止、⑤営業許可の取り消し、⑥承認の取消し、登録取消しが課されます。

より詳細な施行規則は、今後制定される予定です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?