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商標に関するルール変更:不使用期間の3年から5年への延長

2024年7月、インドネシア憲法裁判所は、商標の不使用期間を3年から5年に延長する決定を下しました。商標の不使用期間とは、登録商標の最終使用日又は登録日から、登録商標が登録に記載された商品又は役務に関連する業務に使用されない期間のことを指します。
現在は、商標及び地理的表示に関する法律2016年第20号(以下「商標法」)第74条に規定されています。

技術分野の零細・中小企業(「MSME」)起業家である申立人は、商標法第74条は、MSMEがパンデミックや経済危機などの不可抗力事象から回復するための十分な不使用期間を認めていないとして異議を申し立てました。

同判断は、MSMEが重要な役割を果たしているインドネシア特有の経済状況を反映したものです。今回の延長は、MSMEが不可抗力や商標の使用能力に影響を及ぼす可能性のあるその他の課題に直面した後、事業を再生するための時間的猶予を与えるものと言えるでしょう。さらに、この追加的な時間は、MSMEの事業が回復するにつれて、商標削除の訴えからMSMEの商標を保護することができます。

背景

インドネシア商標法第74条は、商標登録に記載された商品及び/又は役務の取引に関連して、商標が連続3年間(登録日又は最終使用日から)使用されなかった場合、利害関係を有する第三者が商業裁判所に商標削除訴訟を提起することを認めています。
不使用原則の例外として、例えば、輸入禁止、商標を使用した商品の流通に対する一時的な許可禁止、権限を有する当事者による決定、その他政府規則による類似の禁止は、商標削除訴訟の原告が不使用を主張する有効な理由とはみなされません。

上述の通り、申立人は技術分野に従事するインドネシアの個人中小企業です。申立人は憲法裁判所に対し、商標法第74条はインドネシア憲法第28H条第4項、第28D条第1項、第33条第4項に反し違憲であり、法的拘束力を有しないと宣言するよう求めました。申立人は、商標法第74条に基づく3年間の不使用期間は、中小企業にとって有害であると主張しました。パンデミック、経済危機、原材料価格の上昇、その他の不可抗力的状況は、MSMEの事業運営に容易に影響を与える可能性があり、その結果、法務人権省知的財産総局が管理する商標登録からMSMEの商標が削除される可能性があります。

裁判所の検討

裁判所は、知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(「TRIPS協定」)第19条付属書ICには、商標登録は、不使用を正当化する正当な理由がない限り、少なくとも3年間の中断のない不使用期間の後にのみ取り消すことができると記載されていることを考慮し、申立人を支持する判決を下しました。つまり、TRIPS協定は、最低使用期間を遵守する限り、当事者に不使用期間を決定する自由を与えています。シンガポールやイギリスのように、すでに5年の不使用期間を導入している国もあります。

不使用期間延長の意味するもの

裁判所は、不使用期間の延長は、商標権者、特にMSMEの起業家に対し、不利な経済状況から回復し、商標の使用を継続するための、より現実的な時間枠を提供することを目的としていると言及しました。憲法裁判所は、この延長は、商標所有者がオンラインプラットフォームを利用することで、商標が不使用に分類されることを回避できる技術の進歩を損なうものではないと強調しました。不使用期間の決定は、説明可能で、明確で、透明性があり、測定可能な商標使用データ、すなわち登録日または最終使用日に基づくべきです。

商標法第74条第2項において、不使用期間が無効であると判断される理由の一つとして、例えば、商標に係る商品の輸入禁止、流通の一時禁止等の禁止を定める政府規則がある場合が挙げられています。同項について、裁判所は、不可抗力も商標権者が商標を使用できない、または業務を遂行できない要因の一つになり得ると判断しました。従って、裁判所は判決の中で、「その他類似の禁止事項」の範囲には、「政府規則により制定された不可抗力」が含まれなければならないと述べています。

商標法は現在、不可抗力の概念を認めているが、インドネシア民法自体が不可抗力を明確に定義していないことに注意することが重要です。民法第1244条および第1245条に基づき、不可抗力は、これらの条文では説明できない差し迫った不測の事態として解釈することができます。さらに、改正商標法第74条第2項は不可抗力を認めてはいますが、政府が正式に不可抗力を立証または公表した場合にのみ適用されるため、その適用は限定的です。中小企業は、この狭い不可抗力の定義の下で、高インフレ、経済危機、材料価格の極端な上昇などを自社の商標使用の不可抗力と認めてもらうことに苦労する可能性があり、不測の事態の際に脆弱な立場に置かれる可能性があります。

次のステップへ

今回の判決は、インドネシアの商標制度とその意味合いにとって重要な進展を意味するものではありますが、その実効性はまだわりません。真に実効性を持たせるためには、政府は何が不可抗力であるかについて明確な基準を設ける必要があります。

とはいえ、不使用期間が3年から5年に延長され、不使用の例外に不可抗力が盛り込まれたことで、不安定な経済状況に弱い中小企業のような商標権者の保護が強化されることになったことは事実でしょう。これらの変更は、インドネシアにおける公正で競争力のあるビジネス環境を構築するという商標法の広範な目的に沿うことを目的としています。

事業主は、製品がまだ市場に出回っていなくても、商標を登録すべきです。5年間の不使用期間の延長により、商標権喪失のリスクを冒すことなく製品開発を最適化することが可能となったとも評価できるでしょう。

(参考)
Assegaf Hamzah and Partners/ Client Update: Indonesia/ 20 August 2024
https://www.ahp.id/trademark-rules-update-non-use-period-extended-to-five-years-before-potential-deletion/


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