インドネシアITE法第2次改正
2024年1月2日、インドネシア政府は電子情報及び電子取引に関する2008年法律第11号(以下「旧ITE法」といいます)の2回目の改正となる2024年法律第1号(以下「改正法」といいます)を制定いたしました。
これは、改正前の法律が言論の自由に及ぼす影響について批判が多かったことから、2次改正を行ったものです。
改正点の主な特徴は以下の通りです。
外国電子認証機関
改正法は、電子認証機関の役割とサービスについて詳述しています。
電子認証機関は、電子署名、タイムスタンプ、認証トークンなど、オンライン取引及び通信における当事者の身元を確認するための電子証明書の発行及び管理に責任を負う事業体と定義されています。
旧ITE法と異なり、改正法は外資と内資の電子認証機関を区別していません。但し、インドネシアで活動する電子認証機関は、同国に所在するインドネシア法人でなければならないと規定しています。
しかし、電子認証を使用するサービスがインドネシアでまだ利用可能でない場合、上記要件は適用されないとも規定されていますので、サービスがインドネシアで利用可能でないサービスを提供する外国法人についてどのような取り扱いとなるか現在の法律では不明となっています。
この点は、現行の施行規則である2019年政府規則第71条が改正される際に解決されると期待されています。
未成年者の保護
旧ITE法では、未成年者の保護については、加害者に対する刑事罰によってのみ担保されていました。改正法では、未成年者の保護に関する新たな条文が規定されました。
改正法では、電子システム提供者は、そのプラットフォームを使用する未成年者の安全を確保することが義務付けられています。
これには、未成年者の権利を侵害する電子情報や文書の悪用に対して、未成年者の身体的、精神的、心理的な健康を確保することも含まれます。
かかる未成年者の保護のため、電子システム提供者には以下の義務が課されました。
① 製品又はサービスを利用できる最低年齢を明記すること
② 未成年者による利用であることを確認する仕組みを導入すること
③ 未成年者の権利を侵害する、又は侵害する可能性のある製品、サービス、機能の悪用に対する報告を可能にすること
これらに従わない場合、行政処分として、文書による警告、罰金、一時的なアクセスの停止、利用停止が科される可能性があります。
国際電子契約へのインドネシア法の適用
改正法は、電子システム提供者が作成した標準条項を含む国際電子契約は、一定の条件の下、インドネシア法に準拠しなければならないと義務付けています。
① 電子システム提供者の利用者についてインドネシアの利用者から同意を得ていること
② 契約の履行がインドネシアで行われること
③ 電子システム提供者がインドネシアに事業所を有するか又はインドネシアで事業活動を行っていること
通信情報省によれば、ここで言う国際電子契約とは、事業者間の契約ではなく、事業者と個人の間の契約を指すとされています。
多くの国際契約では外国法が準拠法とされ、紛争解決地として外国の裁判所又は仲裁機関が選択されています。
そのため、改正法では、国際契約が自動的にインドネシア法準拠となるのか、紛争解決地としてインドネシア国内の裁判所又は仲裁機関の選択が必要となるのか不明であるため、今後、通信情報省がどのように本規定を適用するか注目されます。
名誉毀損
旧EIT法では、第27条3項により、誹謗中傷を含む電子情報や文書を違法に配布し、送信し、又はアクセス可能な状況に置くことは禁止されていました。しかし、旧EIT法では、侮辱的又は名誉棄損的なコンテンツの明確な定義をおいていなかったため、明確性に欠け、委縮効果を生むことから、表現の自由に対する侵害であるとして広く批判されていました。
これを受け、改正法第27条Aでは、名誉棄損は電子情報又は電子文書を用いて電子システムを通じて公衆に周知させる意図をもって故意に他人の名誉や名声を攻撃することと定義されており、違反者は2年以下の懲役もしくは4億ルピア以下の罰金又はその両方が科されることとされました。
名誉や名声を攻撃するとは、侮辱や誹謗中傷を含め、他人の名誉や名声を傷つけ、不利益を与える行為と定義されています。
他方で、名誉棄損の告発者側は、その主張を証明できない場合に、逆に名誉棄損で起訴され、4年以下の懲役、7憶5000万ルピア以下の罰金又はその両方を課される可能性がある点に注意が必要です。
また、改正法は、①公共のために行われた場合、②正当防衛のために行われた場合等に刑事罰の免除を規定しています。
脅迫メッセージ
改正法第27条B(1)及び(2)に基づき、脅迫は、暴力の脅迫、名誉棄損又は秘密開示の脅迫を含むものと定義され、他者の物を渡すことや、債務の清算、債務の承認又は債務の免除を強制する意図のあるものとされました。
かかる規定に違反した場合、6年以下の懲役もしくは10億ルピア以下の罰金、又はその両方が課されます。
電子サービス提供者への政府による介入
改正法は、政府が電子サービス提供者に対し、電子システムの「調整」及び特定の行為の実行を指示することができ、指示に従わない場合は行政罰が課される可能性があると規定しました。
この「調整」には、電子システムへの機能、ソフトウェア、ハードウェアの制限や追加、特定機能の禁止等が含まれています。
政府が指示する特定の行為とは、電子システム提供者による、ソフトウェア、ハードウェアや機能により影響を受けるコミュニティに対する積極義務や平等な競争条件を確保するための事業活動の調整等が含まれています。
これらの「調整」がどのように実施されるのか注目されています。
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