メイドインアビス考察1

はじめまして。
かねがねnoteでは沢山の有益な記事を読ませていただいておりましたが、この度自ら文章を書いてみる運びとなりました。

つくしあきひと先生の「メイドインアビス」という漫画をご存知でしょうか。
地面に開いた大穴「アビス」、謎に満ちた呪いや地形的特色、極めて魅力的な原生生物たち、そしてアビスに挑む勇敢なる探掘家たち。
世界観、表現性、メッセージ性のいずれにおいても極めて優れた作品です。

友人からこの作品を紹介されてアニメ版を鑑賞し、大変面白かったことや興味を惹かれた点を報告しました。
すると私の作品への理解や解像度が予想以上に高いと評価され、是非とも考察文を書いてほしいと頼まれ執筆に至りました。
内容は多岐に渡りますので、今回は私がまっさきに興味を惹かれた原生生物について書こうと思います。


原生生物「ナキカバネ」

主人公たちがアビスの大穴に入って最初に出会う原生生物…はガンギマスというお魚ですが、最初に出会う危険な原生生物は「ナキカバネ」です。

身体的特徴…
・哺乳類の特徴を備えた外観
・翼を持つが稀な形状で、鳥よりコウモリに似た「飛膜の付いた腕」の形をしている
・後肢は猛禽類のように鉤爪のある足
・全身に被毛を持つ
眼が頭頂部と左側面に存在
・食事は舌を使って内臓を啜る方式、恐らく歯が無い
獲物の鳴き真似をする声帯を有する
・翼の先端に赤い色が付いている

行動的特徴…
・集団で巣を作る
・子供を多数育てる(子殺し選別をしない)
・子供への給餌は生き餌をそのまま与えている様子
・成体が密に存在しており、恐らく過度な縄張り争いは行っていない
・成体が集団で一匹の獲物を攻撃する
・滑空のみならず上昇可能な飛行を行う
・獲物の声を擬態する
・不意打ちを行う

考察…

眼と翼の特徴から、元々壁や足場に張り付いて待ち伏せ狩猟を行っていた哺乳類が、ジャンプ→滑空→飛行というように段階を踏んで飛行能力を獲得したコウモリ型の進化を経験した種族であると考えました。

眼というものは通常ニつが左右均等に存在します。
逃げることに特化した草食動物なら離れ、狩ることに特化した肉食動物なら寄ります。逃げるなら広範囲監視、狩るなら立体視が適するからです。
ナキカバネは肉食型の寄りかたをしていて、なおかつ頭頂部と左側面に寄っている、つまりお魚のヒラメに近い状態です。
まさにヒラメを想像していただくとわかりやすいですが、これは待ち伏せ狩猟を行う肉食生物の特徴です。
壁や足場にへばりついてじっと待つ、つまりへばりついている側は何も見えず、反対側だけをじっと見つめる形になるということです。
ナキカバネの場合、恐らくアビスの壁面や木にへばりつき、左を向く状態で待ち伏せるということでしょう。
また、左眼に比べて右眼(上眼?)が大きいのは、アビスの上層からやってくる獲物をいちはやく発見するためかもしれませんね。飛行中にも上側がしっかり見えるわけですし。

前述のような骨格レベルで非常に特徴的となる進化を遂げたということは、いまの姿になるよりずっと昔、分類的に別の名前で呼ばれるご先祖の代からこのような生活を営んでいたことが考えられます。
ご先祖もまた物理的地理的な待ち伏せを行なっていた可能性が高く、現在も声の擬態による呼び込み待ち伏せを行っているのはその習性の名残でしょうか。
また、大集団で巣を形成するということは、敵性生物と正面衝突をして勝てる見込みが低いことを示すはずです。
戦いに強くお肉を沢山食べる強力な生物が一点に集まれば、あっという間にヒエラルキー下層の生物を食べ尽くして土地全体で飢えることになってしまいます。
また、食事方法が舌で内臓を啜るという点が非常に面白く、飛ぶために頭を軽くする進化を遂げた可能性があること、伴って牙を持たず正面からの闘争に不向きであること、仲間の悲鳴で呼び寄せられる生物、つまり弱くて集団生活をする生物を捕食ターゲットに選定していること、子供に給餌する際はツバメのように半消化餌を与えることも生餌をそのまま放り込み与えることも可能…といった、食性や闘争性に関する様々な情報を示唆します。

哺乳類…つまり基本的に恒温動物であること、肉食性であること、被毛があり体温調節を可能としていると見られること、前述の視覚的狩猟方法、これらの点から夜は眠ることが想像できます。
リコたちが襲われたのも日中で、レグの攻撃を目視で避けたり邪魔したこともそれを裏付けるのではないかと思います。

夜は眠るのではないかと書きましたが、つまり無防備な時間がある生活スタイルであると思います。
無防備といえば食事中も該当します。
この際、もしかすると毛先の赤い羽根(=警告色)が他の生物を遠ざける効果を発揮しているこもしれません。
前肢を足元について食事するナキカバネの群れ、その長い翼や尾翼の赤い先端がゾワゾワ揺れ動いていたら、見ているこちらとしてはかなり恐ろしいですね。
無防備な時間は排泄中も該当しますが、それは飛行の間かと思われます。
固定された巣などに排泄し匂いを付けると待ち伏せがしにくくなりますので、大穴の下へ落ちるようにしているのではないでしょうか。

アビスのなかで無防備な姿を晒したり、ピヨピヨ声を出す子供を置いておくのは危険ですが、ナキカバネは沢山の子供を巣に抱えていました。
一部の鳥類のように子殺しをすることもなく、まるでツバメの巣のように賑やかでした。
成体の数的に巣も沢山あり雛もしかりでしょう。
つまり狩の成果は安定しており、雛が大人になれる割合も比較的高いのではないかと考えました。

つまり…大量に存在する弱い生き物をターゲットにし、声で呼び込み、捕獲した後上昇飛行を行って、体力で勝る自分は安全なまま獲物だけを弱らせて食しているという食料確保シークエンスをあの大量の成体たちが行っているのではないでしょうか。

最後に、レグを不意打ちした点が気になりました。
単体による不意打ちも恐ろしいですが、一羽に気を取られたレグを不意打ちしたとすれば、それはかなりの知能を持っていることになります。
知能の程度は明確に示されてはいませんが、あのコロニー規模や子育ての様子を鑑みると、高い知能を活かし、成体同士や子供に対して教育を行っているという極めて恐ろしい想像に辿り着きます。哺乳類型ですし、多分そうなのではないでしょうか。

アニメにおいてナキカバネが登場するのはたった一話だけですが、しかしたったそれだけで、生物一種だけでこれだけの情報と表現が詰め込まれているのです。
筆者が執筆しているのは烈日の黄金郷まで鑑賞し終わったあとですが、最終話に辿り着くまでにこらと同様の発見と感動を幾度も繰り返しました。あくまでこれは考察ですので、事実は異なるかもしれませんし、作者はそこまで考えてないオチかもしれません。
しかし、この表現を行ったつくしあきひと先生なら、きっとまだ私に見抜けていない情報も沢山ちりばめてくれているのではないかと期待してやみません。

書きたいことが山積みですので、続きはまた次回とさせていただきたいと思います。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

SILKY

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