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ウクライナの負傷兵と日本の傷痍軍人

これはなかなか辛い現実だ。

ロシアによる戦争は次々と、ウクライナ人の手足を奪っている。まるで工場のベルトコンベアーのように、ロシアによる戦争は、壊れた体を次々と送り出している。

その一人であるアンドリー・スモレンスキさんが紹介されている。

アンドリーさんは視力と、聴力のほとんどを失った。片腕はひじの上から、もう片腕はひじの下から、失った。爆発物の破片が、皮膚の下に深く入り込んでいたため、顔を再形成するための手術が必要だった。

戦前のアンドリーさんは、軍隊勤務とは程遠い生活を送っていた。金融コンサルタントで、オタクを自認していた。教会で歌い、哲学の話をするのが好きだった。
しかし、2022年2月にロシアがウクライナ全面侵攻を開始すると、すぐに志願した。彼にとってこの戦争は、善と悪の戦い、「価値観の戦争」なのだ

いま一番つらいことは何かと尋ねると、アンドリーさんはしばし黙り込んだ。
一番つらいのは自分のけがではないのだと、答えが返ってきた。それよりもつらいのは、自分がやり始めたことを、やり遂げられないことだと。つまり、戦争に勝つという目的を、自分が果たせないことだと。

一方、このような意見もある。

手足を失った負傷への人数を、政府は少なめに発表していると、負傷兵の一人は話した。この人は、匿名を希望した。
政府が言う3倍はいるはずだ」と、彼は強調した。
「政府は、自分たちを隠したい、見えなくしたいんだ。重傷者が本当はどれだけいるのか、知られたくないんだ。志願者が減るのが怖いんだ
軍からはわずかな給与が支給されるのだという。
「ひと箱8本入りのたばこなら買えるよ」と、この兵士は苦々しく笑った。

最後に記事はこのように結んでいる。

これほどの犠牲を、ウクライナはいつまで耐えられるのか。これほどの犠牲を出しながら、いつまで戦えるのか。そして、体の一部を失った負傷者が増え続ける中、当人たちはどうやって一般市民としての暮らしに戻るのか
戦争が始まって2回目の冬が近づく中、ウクライナは厳しい課題に直面している。
「体が不自由な人が大勢いて、街中を行きかい、この国で暮らす。そのことについてこの国では間違いなく、準備ができていません」と、負傷兵のリハビリと義肢装着を支援する「スーパーヒューマンズ」施設のオルガ・ルドネヴァ最高経営責任者(CEO)は話す。
「日常的にどうやって関わっていくのか、みんな学ばなくてはならない。それには何年もかかる」

戦争は無い方がいいに決まっているし、すぐに終結した方がいいに決まっている。
しかし、ロシアは未だ戦争を終わらせる気はない。クーデターでも起こらない限り、侵略が完了するまで意地でも続けるだろう。
では、仮に今ウクライナがロシアに白旗を上げたら、彼ら負傷兵はどうなるか?
我が国に例がある。日本が米国に占領されていた時期に、傷痍軍人の方々が受けた仕打ちだ。

以下、厚労省のページにある下記の資料より引用する。

https://www.mhlw.go.jp/content/12101000/000331382.pdf

終戦後の昭和20年11月、一般市民と区別して軍人等に対する優遇措置は好ましくないとGHQからの覚書を受け、政府は翌年「恩給法ノ特例ニ関スル件」を公布し、傷病恩給を除き旧軍人・軍属の恩給は廃止されました。
支給が継続された傷病恩給でさえも、減額または一時金支給として制限されました。戦中までの「白衣の勇士」を、根底から覆す厳しい状況となっていきました。
戦傷病者個人だけでなく、戦傷病者を援護する陸海軍省、軍事保護院も廃止され ていきました。
大日傷(大日本傷痍軍人会)は、その財産を継承した財団法人協助会に代行するも、思うような活動ができないまま、GHQの方針に基づいて自発的に解散していきます。 これにより戦傷病者は、精神的支柱を失うとともに医療更生、職業更生の道も絶たれ、個々人の努力以外に戦後の荒波を克服する道がなくなりました。結局、戦傷病者も生活保護法を適用してもらうことにより、生活困窮を辛うじて逃れる以外に選択の余地がありませんでした。

多くの戦傷病者は、軍の命令で出征して戦傷病となり、一部の戦傷病者を除き国からの補償(普通恩給)がなくなったことにより、生きるため必死に働きました。
しかし、一部には街頭に立って施しを求める者も現れてきました。これが「白衣募金」「街頭募金」と称され、都市部や地方の観光地に出没し、社会問題となりました。
昭和21年頃、身体障害者の約8割は戦傷病者であったともいわれ、当初は戦争の犠牲者として理解を示していた人々も、そうした行為が増えるにつれて逆に嫌悪感が広がってきました

傷痍軍人の戦後の姿として私が真っ先にイメージするのが、これだ。

「軍神さま」と崇められていたその男は村を出て、傷痍軍人として物乞いをしていた。

(この漫画は本当に凄いので、未読であれば絶対に読んだ方がいい。)
そして「その男」がその後に発した言葉は、前出の負傷兵であるアンドリーさんと同じだった。

「手足を失うことより、俺の日本を失ったことの方がつらいよ。」

引用したBBCの記事に「体の一部を失った負傷者が増え続ける中、当人たちはどうやって一般市民としての暮らしに戻るのか。」とあった。
彼らが誇りを失うことなく一般市民としての暮らしに戻るためには、「戦争が終わる」ことではなく「戦争に勝つこと」が必須条件なのだろう。



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