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AU#03: 州単位の緊急時対応計画に関する取り決めが高校での採用(adoption)に与える影響について

緊急性の高いスポーツ関連事故の対応と管理を最適化する上で、緊急時対応計画(Emergency Action Plan; EAP)の作成は重要であるとされています。しかしながら、米国の現状としてEAPの採用(adoption)を義務あるいは推奨するか否かは州ごとに異なります。本研究ではこのようなトップダウンの取り決めが高校におけるEAPの採用に効果を示すかについて検討しています。

目的
州レベルでの取り決めが現場(高校)レベルでのEAPの採用に効果的に働いているか検討すること                                                                                                  方法
• 高校で働くアスレティックトレーナーに対して、現在働く高校でEAPを採用して いるかアンケートを用いて尋ねた
• EAPを採用している場合は2002年にNational Athletic Trainers’ Associationから発表されたEAPに関するポジションステイトメント(以降NATA-PS)の推奨内容(全12項目)をいくつ満たしているか評価した
• 関連して、心肺蘇生法およびAEDの訓練を全ての指導者に課しているかについても尋ねた                                                                                                          結果
アンケートは9,642名の対象者に送付され、回答率は11.7%(n=1,136)であった
• NATA-PSの項目の実施率は、州単位でEAPの採用に関する取り決めがある地域の高校の方がそうでない高校よりも高かった(取り決めあり8±4, 中央値=9;取り決めなし7±4, 中央値=8)
• 取り決めが義務化されている州では、救急隊との事前打ち合わせや、緊急時の人員別の役割の特定と彼らの連絡先に関する項目、および年に1回はEAPのリハーサルを実施するという項目において、義務化のない州の高校よりもコンプライアンスが統計学的に有意に高い数値となった(該当率の統計データは原著の表3を参照)
• 心肺蘇生法/AEDの訓練実施へのコンプライアンスは、心肺蘇生法およびAEDの訓練とEAPの作成を義務付けている州で最も高く(95%)、EAPの作成のみを義務付けている州では心肺蘇生法およびAEDの訓練実施へのコンプライアンスが74%であった
結論
州レベルでEAPの作成や心肺蘇生法/AEDの訓練に関する取り決めが策定または義務化されていることは、それらが高校学校で採用・実践される確率を高める可能性があることが示唆された

米国では法律やガイドラインの義務化によりスポーツセーフティを推進する取り組みが散見されます(e.g., 脳振盪の管理、環境温度に基づいた運動内容の決定、暑熱順化期間の設定)。本論文ではEAPに関する州単位の取り決めが、現場でのEAP採用に良い影響を与えている可能性が示唆されました。しかしながら、詳細な数値をみると100%のコンプライアンスへはまだ届かない状況でもあることから、義務化をしても現場(高校)のステークホルダー(e.g., AT, コーチ、管理者)によって具体的にアクションがとられなければ実現されないという現場の課題も明らかになりました。実際に、本文の図1を参照すると、州レベルの取り決めの有無にかかわらず、両群において約1割はNATA-PSで推奨されているEAPに関する項目を一つも満たしていないことも明らかになっています。EAPの作成に限っては、お金のかからない安全対策であることから、当事者がその必要性を感じているかどうかが、コンプライアンスに直接影響している可能性も考えられます。

出典:Scarneo-Miller SE, Kerr ZY, Adams WM, Belval LN, Casa DJ. Influence of State-Level Emergency Planning Policy Requirements on Secondary School Adoption. J Athl Train. 2020; 55(10): 1062-1069.

文責:細川由梨


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