AU#16: 運動後における間欠的サウナ入浴は暑熱環境下における鍛錬された中距離ランナーの運動耐容能を向上させる
熱中症関連の報道が、連日ニュースや新聞を賑わしています。皆さんご存知のように熱中症予防対策の一つとして、暑熱耐性を得るための暑熱順化があります。暑熱環境下でパフォーマンス発揮を行うアスリートや通気性が劣る服装をして活動する消防隊員や建設現場の労働者にとって、暑熱順化は必要不可欠ではないでしょうか。暑熱順化の効果を獲得する方法として、暑熱環境と運動を組み合わせる方法や運動をせずに受動的な温熱負荷を用いた方法など、様々な方法が提唱されています。一般財団法人日本気象協会が推進する「熱中症ゼロへ」プロジェクト(1)でも、暑熱順化に有効な対策として熱くる前から日常生活の中で運動や入浴を積極的に行うことで身体を暑さに慣れさせることを奨励しています。入浴は本当に暑熱順化に効果的なのでしょうか。今月のアカデミックアップデートでは、受動温熱負荷(サウナ)を用いた中距離走選手の暑熱順化について検証した研究論文 (2)をご紹介します。
序文・目的 運動後のサウナ入浴は、アスリートが継続的にトレーニング計画を妨げることなく、実用的で容易に暑熱順化の効果を獲得する方法として考えられています。運動後におけるサウナ入浴を用いた具体的な暑熱順下の効果には、安静時の深部体温の低下や血漿量の増加など安静時における生理学的な適応が報告されています。しかしながら、運動後におけるサウナ入浴を用いた方法が暑熱ストレスに対する生理学的応答やパフォーマンス発揮へどのような影響を及ぼすのか明らかになっていません。そこで、本研究は、①通常の全身性持久力トレーニング後に間欠的サウナ入浴を加えることで、鍛錬者の暑熱耐性が高めることが可能であるかどうかについて検証することおよび②獲得した暑熱順下の効果が常温環境下におけるパフォーマンスにどのような影響を及ぼすのかを検証することを目的としました。 方法 本研究には、大学の陸上競技部に所属する中距離走ランナーおよびクロスカントリーランナー20名が参加し、3週間の全身性持久力トレーニングのみ実施する統制群 (n=8)、または、3週間の全身性持久力トレーニング後にサウナに入浴する介入群(n=12、サウナの温度:101-108℃、湿度: 5-10%、週3回±1回、各セッションのサウナ入浴時間: 28±2分間、サウナ入浴時間: 290±48分間)に振り分けました。運動後のサウナ入浴が暑熱耐性に及ぼす影響を検証するため、介入前および介入3週間後に熱耐性ランニングテスト(暑熱環境下における漸増負荷ランニングテスト、運動時間: 30分、室温: 40℃、湿度: 40%)を実施し、直腸温、皮膚温、心拍数、主観的運動強度、熱的解析性と適応、および汗腺活動を測定しました。また、介入前および介入3週間後に常温環境下(室温18℃)において漸増負荷テストを行い、最大酸素摂取量(VO2max)およびクリティカル・スピード(CR)を測定しました。なお、サウナ入浴群のみ3週間の介入後に、引き続き4週間の介入を継続し(合計の介入期間は7週間)、受動温熱負荷を用いた暑熱順化の効果を検証しました。 結果 統制群の中距離走選手と比較して、介入群の中距離走選手における熱耐性ランニングテスト中の直腸温、皮膚温、および心拍数がベースライン測定から介入後3週間測定にかけて有意に低下し、汗腺活動は有意に増加しました。加えて、統制群と比較した場合、介入群はVO2maxおよびCRが介入3週間後にて有意に上昇しました。さらに、介入群では、介入後3週間地点と比較して、介入後7週間地点における熱耐性ランニングテスト中の直腸温が有意に低下しました。 結論 通常環境下にて全身性持久力トレーニングをした後に101-108℃のサウナに1日おきに1回約28分間入浴し、運動後のサウナ入浴を3週間継続することで暑熱環境下における運動中の深部体温の低下や発汗能の増加などの暑熱順化効果が認められました。加えて、運動後のサウナ入浴により獲得した暑熱順化の効果は、常温環境下におけるパフォーマンスに好影響を及ぼすことが示唆されました。
まとめ
本研究では、深部体温を上昇させ熱放散反応を刺激するために暑熱環境と運動を組み合わせる方法以外にも暑熱順化の恩恵にあずかれる方法を示しました。暑熱順化の効果を獲得する方法として温水やサウナなどの受動温熱負荷を用いた方法の有効性について検証した研究はいくつか発表されています (余談ではございますが、「温水とサウナ入浴、いったいどちらが効果的なのか?」という疑問については、Ashworth et al.(3)にて検証されています。著者らは、運動直後に40℃の温水に入浴する方法と運動直後のサウナ入浴とも同等の暑熱順化の効果を生み出すことを報告しています)。また、厚着して運動をすることで暑熱順化の効果を獲得できことの可能性も報告されています (4,5)。人工的に暑熱環境を作り出すことが可能な人工気候室を利用する機会を要しないアスリートも、工夫して暑熱順化を行うことにより、暑熱ストレスに対する抵抗力を高めることが可能なのかもしれません。
出典
一般財団法人日本気象協会.「熱中症ゼロへ」プロジェクト. 熱中症について学ぼう:暑熱順化. https://www.netsuzero.jp/learning/le15. Accessed June 20th, 2022.
Kirby NV, Lucas SJE, Armstrong OJ, Weaver SR, Lucas RAI. Intermittent post-exercise sauna bathing improves markers of exercise capacity in hot and temperate conditions in trained middle-distance runners. Eur J Appl Physiol. 2021 Feb;121(2):621-635. doi: 10.1007/s00421-020-04541-z
Ashworth E, Cotter J, Kilding A. Post-exercise, passive heat acclimation with sauna or hot-water immersion provide comparable adaptations to performance in the heat in a military context. Ergonomics. 2022 Mar 31:1-12. doi: 10.1080/00140139.2022.2058096
Lundby et al., Training wearing thermal clothing and training in hot ambient conditions are equally effective methods of heat acclimation. J Sci Med Sport. 2021 Aug;24(8):763-767. doi: 10.1016/j.jsams.2021.06.005
Stevens CJ, Plews DJ, Laursen PB, Kittel AB, Taylor L. Acute physiological and perceptual responses to wearing additional clothing while cycling outdoors in a temperate environment: A practical method to increase the heat load. Temperature 4: 414–419, 2017.
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?