ニートでなぜ悪い 3話
はじめに
この物語はフィクションであり、実在の人物・組織・団体とは一切関係ありません。
本編
「働かざるもの食うべからず。」
ぐるぐると頭を2~3周した後に消え、1時間ぐらいするとまたぽっと浮かんでくる、忌々しい言葉。
夕暮れの歓楽街をサンダルで歩きながら、高校からの同級生の顔を探す。大通りを挟んで両脇に洋食や中華の店が並んでいるこの通りは、金曜から日曜の夜まで賑わっている。飲む、打つ、買うぐらいしか楽しみのないこの片田舎におけるオアシスと化しているため、匂いも家の近所より人間臭さが目立った。
「弱肉強食」
弱きものは肉となり、強いものに食われる。明らかに同伴と見える男女とすれ違って、そんな言葉を思い出してしまう。
なんだか悪いことをしたような気になって下を向いて歩いていると、見知った匂いが鼻孔を突いた。。。
お目当ての中華屋、シャンシャン飯店である。
この店の前に来ると、脂ぎった餃子とチンタオビールで腹の中がまぜこぜになる感覚を思い出す。
働いてなかろうが、社会的に弱かろうが、腹は減るのだ。
胃が運動し始める音と同時に、ポケットの携帯が鳴った。
「おめぇ髭それよ、浮浪者みたいだぞ。」
「ついてんなら言えよ。」
通話を切って店の中を見渡すと、薄汚れたビニールで出来た扉で仕切られて靄のかかった友人の顔が見えた。
すこしぬめりのあるとってをつかんで扉を開ける。油がはじける音と香辛料の香りが顔面に殺到してくるのを感じて、ここに立っている、という実感を覚える。
厨房では煙草を吸いながら鉄鍋を振るアジア系の男がいた。ニラが時折宙を舞って、また鉄鍋に戻る。ただ繰り返されるだけの作業に、なぜ目を奪われるのだろう?
「オキャクサン、ヒトリ?」
「友達が来てるよ。」
円卓に座っている友人のところまで行くと、もう緑の瓶の口は開いていて、黄金色の液体がコップに注がれていた。
「おう。」
「チンタオビール一つと餃子二人前ください。」
俺は挨拶に答えることもせず、注文を告げ、席に座った。
「久しぶりじゃん。」
「元気だった?」
空元気は元気に入るのだろうか?
「まぁね。」
「暇人のくせによ。」
悪びれもなく笑う。誰でも気まずそうにする話題でも、こいつだけは悪意に満ちた言葉を浴びせてくる。それは裏表などないことの証明であり、時に美徳となりうると思う。
気まずそうにしゃべる相手に、どう気持ちを打ち明けられるのだろうか?
「ニヤニヤしやがって。」
自然と頬が緩むのを感じる。
いつぶりだろう。顔が勝手に笑ったのは。
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