ニートでなぜ悪い 4話

はじめに

 この物語はフィクションであり、実在の人物・組織・団体とは一切関係ありません。

本編

 
「果たして、働くことが社会貢献になるのか?」
 3本目のチンタオを1人で空けたとき、木村は目を細めながら俺に言った。
 ライターの火が灯る音に続いて俺は返した。
 「ゴミ拾いよりはマシなんじゃないか?」
 働くということは、有形無形であれ何かしら作るということだし、それが巡り巡って人を幸せにしているとしたらそれは社会貢献だろう。
 「俺には社会貢献という概念そのものが資本家の論理な気がするんだよな。」
 昔から前提を覆すような事をいうやつだったなと思う。こいつの質問にはまず言いたいことがあることが多かった。
 「じゃあ社会貢献なんて無いってことになっちゃうぜ?ゴミ拾いとかは立派な社会貢献だろ?」
 痛いところをついてやったつもりになってビールを口にした。
 「確かにそういう活動は社会貢献だな。いわゆる慈善活動ってことになる。でも、働くってことは対価があるだろう?その時点で社会貢献というよりも資本活動になるわけじゃん。」
 「でも会社があることで助かる人もいるだろ。人を助けるんだから社会に貢献してるじゃないか。」
 働いてないくせに働く事を肯定するのはなんだか倒錯しているなと思うが、それでも引く気にはなれなかった。
 「でも公害とか社会問題が生まれるのも労働からだろ。社会貢献と社会問題の両方を生み出してるってことになるぜ?」
 「それのなにがいけないんだ。」
 「……それはそうかもしれない。」
 木村は満足そうに頷くと話題を人気歌手のゴシップに変えた。
 昔からこういうやつだったなと思う。議論ではこっちが勝ったのに、勝負に負けたような気分になる。まるで禅問答のような会話。捻くれてるのか、真正直なのか?高校のころも哲学者になったつもりでこんな浅い会話を繰り返してた。なぜか楽しいと思ったのも思い出した。
 俺はしばらく懐かしい気分に浸った。
 「そういえば仕事はどうするんだよ?」
 親や兄弟から言われるのとは重みの違う、ただの一般会話としての質問が来た。人間は案外こういう時にこそ冷静に問題を見つめられるのかもしれない。俺は真面目に答えてみることにした。
 「今は探すことすらしてないな。まだいいかなって。」
 「そうか、まぁ人生にも休憩は必要だろ。暇な時間でなにするつもりなんだ?」
 質問多いと思ったが、考えたことが無かった。
 暇な時間でなにするつもりか。
 逃げるように辞めたから、何も考えが無かった。この2〜3日はただぼうっとしていただけだった。
 「なんかしないとボケるぜ?」
 そうだな、と言ってから、考えるのを辞めるために酒をあおった。

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