ニートでなぜ悪い 7話
はじめに
この物語はフィクションであり、実在の人物・組織・団体とは一切関係ありません。
本編
赤や緑の照明がついたり消えたりしている。そして爆音が鳴りそうな瞬間と同時に、白い照明がバッと点く。音楽は時間芸術だから、こういう演出もできるのだと思った。また、移りゆく照明と同様に、刻一刻と変わっていく状況に対して、鑑賞者がどのように反応するのか?
それをリアルタイムに見ることができるのは、ステージの上に立つ特権だろう。飛び跳ねている者や、静かに飲みながら聴く者、煙草を吸いに外に出ようとする者。
俺は哲学的な気分に耽りながら吸う煙草のうまさにつられて、外に出ていった。
外は小雨が降っていて、夏の終わりを告げるように、少し寒かった。
火をつけたタバコは湿気ていて、水が蒸発して弾ける音がした。
ステージに上がることが日常になると、きっといつもの生活は居心地が悪くなるに違いないと思った。
人はいつだって、居心地の良い場所を求める。
恋人、友人、職場、家庭、その全てにおいて優先されるのは正しさではない。居心地の良さだ。
洞窟が人間にとって居心地が良ければ、今でも穴蔵の中で暮らしているに違いない。
この喫煙所だってそうだ。近年世間から疎まれている喫煙という行為が許されるが故に居心地がよく感じる。
だから人が集まるのだ。煙草なんぞ吸おうと思えばどこでも吸えるのだ。
そうしないのは喫煙所以外で煙草を吸うという居心地の悪さに人が耐えられないからなのだ。
そんなことを考えているうちに、いつの間にかほとんど消えていた煙草を灰皿にいれると、ちょうどあいつがやってきた。
「来てくれてありがとう。」
「おう。面白かったよ。」
あいつは煙草に火を付けると少しはにかむだけで、返事はしなかった。
「これから打ち上げがあるんだけど来ない?」
俺は想定外の問いかけに戸惑ったが、きっと酒が出るに違いないと思い、行ってみようと思った。
「客だけどいいの?」
心のなかでは既に大酒を飲む想定をしていたから、全くいらない質問なのだが、念の為に聞いてみた。きっと、本心では行きたくなかった節もあるのかもしれない。
「どうせ身内だけだしいつも同じ面子だからな。新しい風を入れなきゃ。」
あいつは荷物の運び出しがあるからと言って店の名前と場所だけ教えて、また地下のライブハウスに消えていった。
言われた場所はダブという名の小さなバーだった。
俺は小雨の中を傘もささずに歩き始めた。
木村と飲んでから、ちょうど1週間経っていた。数歩歩いて、このペースだと、仕事を早めに探さなければならないなと気づいた。雨の降る道を歩く俺の背中には哀愁が漂っていたかもしれない。
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