【日本学術会議 任命拒否問題】 人文・社会科学との対話こそ

 2020年10月18日 佐藤年緒(環境・科学ジャーナリスト、JASTJ理事)

 日本学術会議会員の任命拒否問題に対して山極寿一前会長が10月11日のオンラインシンポジウムで挨拶した、「国の最高権力者が意に添わない者は理由なく切る、問答無用である、と明言することは、その風潮が日本各地に広がることが懸念される。これは民主主義の大きな危機だ」とする見解に私は賛同する。政府に異論を唱える人文、社会系の研究者を狙い撃ちし、排除する学術政策は容認できない。

 私は日本学術会議が新しい社会課題に答えようと分野を超えて議論し、提言してきた成果を知っている。例えば21世紀の科学技術リテラシー像を示した「科学技術の智プロジェクト」(北原和夫委員長)では、専門領域を横断する科学知識の普及を提唱した。政府だけでなく、国民一般に学術の智の還元を目指すもので、メディアの一員として私もこの考え方を科学コミュニケーションに生かすよう努めてきた。

 10月11日の公開シンポ「『ちがい』と差別~人類学からの提言」も、コロナ禍で他者や他集団への差別や排除が表面化している昨今だけに、オンラインで誰もが参加できるよう開かれたタイムリーなイベントだった。自然人類学と文化人類学、多文化共生などの分科会の研究者による多面的で横断的な議論に意味があった。自然科学だけでなく、人文・社会科学との対話の大切さがここにあり、それこそ「総合的、俯瞰的」な見方が生まれる。

 学術会議を批判する政府関係者、国会議員は「対立」と「不信」をあおるのではなく、己の「非理解」からくる溝を埋めるため、学術との間で対話の努力を尽くすべきではないだろうか。人類学で言えば、猿とヒトほど遺伝子は異なっていないのであるから。 





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