『BCGワクチンは、新型コロナウイルスを予防するのか』 2020.4.4

<科学的知見にもとづく個別の解説記事> Curated by 小出重幸

※2020年4月4日時点での見解ですので、引用の際には最新情報にあたってください。 

 東京慈恵会医科大学の越智小枝医師(JASTJ会員)が、BCGワクチンについての見解を特別寄稿してくれました。


・各国でBCGワクチンの効果の検証研究が始まった
・医学的には「まだ分からない」
・日本のストックは「新生児数に合わせた在庫数」しかない
・BCGは大切な赤ちゃんのために取っておいてください

といったメッセージです。

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『BCGワクチンは、新型コロナウイルスを予防するのか?』 東京慈恵会医科大学 越智小枝

 新型コロナウイルス(CoVID-19)感染拡大にともなって、「BCGワクチンが新型コロナウイルス感染予防にも効くのではないか?」との見方がいくつかの国の研究者から示され、期待と批判、両方の意見がネット上に錯綜しています。
 BCGは結核菌を弱毒化させた生ワクチンで、肺結核の重症化を避ける目的で、日本でも一歳未満の乳幼児に無料で接種されています。このためBCGワクチンは毎年、新生児の数しか作られていません。
 一方、今回の新型コロナウイルス感染拡大を地域別に見ると、BCG接種を続けている国々と、結核患者が少ないためワクチン接種していない欧米の国々との間で、感染拡大の速度、患者数に違いが見えるという指摘が、研究者たちから伝えられるようになりました。BCGワクチンは結核だけでなく、人の基本的な自然免疫のシステムにはたらきかけて、それ以外のウイルスなどにも感染を予防する可能性があるという研究もありました。このため、いくつかの国で検証がはじまっています。
 ドイツやオランダで3月21日以降、医療従事者にBCGワクチン接種を開始するなど、効果の検証に入っていることが伝えられました。3月27日には、オーストラリアの「マードック小児医療研究所」が、BCGワクチンの効果の検査開始を発表。同国内の4000人の医療従事者を対象に、新型コロナウイルスの重症度を軽減できるかどうか、数週間かけてBCGワクチンの効果を検証するとしています。
 しかし、まだ本格的な研究が始まったばかりで、医学的には「効果はまだわからない」段階です。
 こうした中で、日本国内でも、「BCGワクチンを受けられないか?」という問い合わせが、医療機関にきているようです。ところが、日本のストックには、「新生児数に合わせた在庫数しかない」という事情があります。限られたワクチン在庫を無秩序に使えば、新生児の結核予防という大切な医療ができなくなります。
 この問題を深刻にとらえた「日本ワクチン学会」は、4月3日、新生児への供給に影響を与えることがあってはいけない、とするアピールを発表しています。
『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するBCGワクチンの効果に関する見解』
http://www.jsvac.jp/pdfs/kenkai.pdf
 名古屋検疫所の守屋章成医師も、自身のSNSサイトで、「『新型コロナの予防にBCGワクチンが効くらしいから,先生打ってよ!』と、かかりつけ医院や病院に駆け込むことは,絶対にしないでください」と呼びかけています。BCGは大事な赤ちゃんのためにとっておいてください、という守谷医師の訴えは、多くの方の心に届くと思います。
 新型コロナウイルス感染症への効果が確認されるのか、それとも、都市伝説のひとつとして消えてゆくのか、まだ、どちらとも言えない段階です。確立された治療法のない中、過剰な期待とならぬよう、また医療全体への配慮を忘れずに、日々の感染予防の足元を見つめていたいと思います。


◆参考になる発信サイト◆
日本ワクチン学会
『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するBCGワクチンの効果に関する見解』
http://www.jsvac.jp/pdfs/kenkai.pdf (4月3日)
大隅典子・東北大学教授のサイト
https://blogos.com/article/446483/?p=2 (4月2日)
忽那賢志・国立国際医療研究センター医師の発信;
https://news.yahoo.co.jp/…/kutsunasatoshi/20200404-00171439/ (4月4日)

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