特例承認に至るまでのレムデシビルをめぐる報告

<科学論文> 8th May 2020  Curated by 西村尚子

 5月7日、薬機法(医薬品医療機器等法)にもとづく特例承認制度により、スピード承認されたレムデシビル(商品名ベクルリー) 。2月4日の時点で、中国のチームが細胞レベルでの抗SARS-CoV-2効果を報告していたが、注目され出したのは4月10日の米国による報告の後だ。29日にはレムデシビルに関する報告やリリースが相次ぎ、米FDAが5月1日に同薬の緊急時使用を許可するに至った。これを受けるかたちで、日本でも7日に特例承認となった。
 そこで、本稿では特例承認に至るまでのレムデシビルをめぐる報告を時系列で整理した。

(日時はすべて現地時間)

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2月4日


Manli Wang 他, Cell Research volume 30, pages269–271(2020) 

Letter to the Editor
Remdesivir and chloroquine effectively inhibit the recently emerged novel coronavirus (2019-nCoV) in vitro

 表題の2剤(レムデシビルとクロロキン)を含む、リバビリン、ペンシクロビル、ニタゾキサニド、ナファモスタット、ファビピラビルの5種の抗ウイルス薬を対象に、SARS-CoV-2の抗ウイルス効果を検証している。対象は、同ウイルスを感染させた動物細胞(Vero E6 cells)。各薬剤を投与し48時間後の細胞上澄み中のウイルスコピー数を定量したところ、レムデシビル投与で最も少なく(選択指数SI>129.87)、SARS-CoV-2に感受性のあるヒト由来培養細胞(human liver cancer Huh-7 cells)でも感染を効率的に阻害することが示されたとしている。次点だったクロロキンのSI値は >88.50。そのほかは、以下のとおり。リバビリン >3.65、ペンシクロビル >4.17、ニタゾキサニド >16.76、ナファモスタット >4.44、ファビピラビル >6.46。

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4月10日

Jonathan Grein 他, NEJM DOI: 10.1056/NEJMoa2007016

ARTICLE
Compassionate Use of Remdesivir for Patients with Severe Covid-19

 人道的観点によりレムデシビルが投与された新型コロナの重症患者53人のうち、68%にあたる36人で臨床症状の改善がみられた(人工呼吸器が不要になるなど)と報告している。米、カナダ、欧州、日本の患者が含まれているとのこと。日本の患者データは、セカンドオーサーの大曲貫夫氏(国際医療研究センター 国際感染症研究センター長)が取りまとめている。患者に投与されたのは10日間で、1日目200mg/日、2日目以降は100mg/日。最短28日、退院あるいは死亡までをフォロー。著者らは、レムデシビルの有効性検証にはランダム化プラセボ試験(製造元のギリアド・サイエンシズが試験中)が必要であること、肝毒性がみられた例があり腎毒性は確認されなかったこと、対象患者数が少なかったこと、長期フォローしていないこと、などについても言及している。

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4月29日

NIH News Realease

NIH Clinical Trial Shows Remdesivir Accelerates Recovery from Advanced COVID-19

 NIHが牽引する多国間の医師主導臨床試験の速報リリース。米国を中心に、欧州、日本を含むアジア1063人の患者を対象にしたランダム化比較試験とのこと。症状改善について、レムデシビル投与群で31%短縮し、死亡率も約4%低かったとしている。米データには、ダイヤモンドプリンセスの乗船客も含まれているとされる。

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4月29日

THE LANCET

Yeming Wang 他, DOI:https://doi.org/10.1016/S0140-6736(20)31022-9

ARTICLE
Remdesivir in adults with severe COVID-19: a randomised, double-blind, placebo-controlled, multicentre trial

 湖北省の10病院に入院していた重症患者237人を対象にした、二重盲検ランダム比較試験の結果(投与群158人、プラセボ群79人)。投与群は、1日目200mg/日、2日目以降100mg/日を10日間投与された。発症からの日数が12日以内、胸部画像で肺炎が確認されたなどの条件を満たすこととし、ロピナビル-リトナビル、インターフェロン、コルチコステロイドの併用投与は可能とされている。最大で28日間、退院あるいは死亡までの臨床状態をフォローした結果、レムデシビル群とプラセボ群とでは、症状改善に差がみられなかったとしている。ただし著者らはDISCCUSIONにおいて、「統計学的な有意差は得られないものの、発症後10日以内にレムデシビルを投与した患者はプラセボ群よりも症状改善までの時間が短かった」、「主に重症化してからの投与となり、初期投与の効果を評価できなかった」、「武漢での感染制御が進んだことで患者登録が予定人数に達しなかった」などと述べており、より大規模な臨床試験の結果を待って効果の有無を判断すべきとしている。

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4月29日

GULIAD Press Releases

Gilead Announces Results From Phase 3 Trial of Investigational Antiviral Remdesivir in Patients With Severe COVID-19

 レムデシビルの製造発売元であるギリアド・サイエンシズよりのリリース。SIMPLE試験と名付けた臨床試験について経過報告している。397人の重症患者に対し、レムデシビルを5日間、あるいは10日間投与したところ(いずれも1日目200mg/日、2日目以降は100mg/日)、両者において症状改善、死亡率、副作用に大きな差はみられず、5日投与で10日投与と同等の効果が得られる可能性があるとのこと。流通量に限りがある現状では有益な情報になり得るだろう。

 現在は、5600人の患者を加え、米、中、欧州、日本を含むアジアにおける180の施設で検証を続行中だという。さらに同社は、2番目のSIMPLE 試験として、標準治療と比較した「5日レムデシビル投与、あるいは10日レムデシビル投与」の安全性と有効性も評価中で、最初の600人分の結果が5月末に出る予定だとしている。


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