倫敦生活 vol.0-1


西の都

2023年11月某日、買い物中の私のスマホが震えた。
夫からのLINE通話だった。ポケットから取り出したタイミングで切れた。
仕事中の夫から電話が来るのは主に頻度順で下記3パターン。

①非常にイライラすることがあった
②非常に嬉しいことがあった
③事務連絡・依頼事項

とりあえず間髪入れずにかけ直す、が、出ないので、
なんとなく虫が知らせたのか『異動決まった?東京?』とLINEを打つ。

名古屋に来てから早5年。思い返せばこの1、2年は東京に戻る戻る詐欺を繰り返され(決して夫のせいではない)、『次こそは!2023年春こそは!ほんとに濃厚!ほぼ確定!』と常々言われていた。だから当然私もそのつもりでいた。

青森県出身、山奥の大学に通い、留学先も島国のこの私。会社員時代には丸の内OLという名ばかりの肩書を引っ提げて2間年東京に住んだけれど、TOKYOのTの字も満喫できないくらい社畜だったこともあり、良い思い出などほとんどなく、大都会TOKYOには憧れも希望も感じていなかった。
そんな私が、愛する夫のためならば仕方ない。東京か。うん、OK。と現実を受け入れ始めていた矢先・・・

『西の都、ロンドン』

夫からの返信にはそうあった。
今はまだ11月。4月のエープリルフールを先取りするにもほどがある。
鬼のように夫に電話をかけまくり、ようやく繋がる。
私「え?」
夫「せやねん」
私「え?」
夫「マジで」
私「マジで?」
夫「マジで」

マジだった。

この非生産的な会話で終わった電話から分かったことは、
ロンドン行きは本当だった、という一点に尽きる。

かくして、私の人生は新たなフェーズに向けて進み始めたのであった。

正直言うと・・・

ロンドン赴任と聞いて、心が躍らなかったといえば嘘になる。
学生の頃、一度は経験した海外での長期生活は、様々な変化を私に齎した。異なる文化の中に身を横たえ、異なる価値観と出会い、大いに海外にかぶれ、ちょっと(いや、かなり)いい気になり、失敗して打ちのめされ、自由で放埓な酒浸りの日々のその果てに身の程を知り、アイデンティティを取り戻し、やがて日本への愛に気付き、家族の大切さに気付き、ひいてはその時の挫折や悔恨が原動力となって今の私に繋がっている。いわば、あの海外生活での経験は私の核の一部であると言っても過言ではない。
そんな経験がもう一度できるなんて!神様ありがとう!愛してる!
と、思ったのも束の間。怒涛の手続き地獄が待ち構えていた。
なので、本当に束の間沸き立った私の心は、出発までのタスク潰しに忙殺されてすり減っていくこととなる。

Phase1:夫の渡英

夫は2024年2月中旬には英国入りし、生活のインフラを整え、後発で5月末に渡英する私と2人の娘の到着を待つという段取りとなった。
夫側の手続きは着々と進む。一方、子供のことや私の仕事のことについては夫の会社からのサポートはあまり期待できず、悶々としながら過ごしていたが、まずは夫を出国させることが妻としての最優先タスクとなった。

こんな時の魔法の言葉『なるようにしかならない!』
母から授かりしこの言葉を肚に落としこみ、ばっさばっさとToDoリストをこなして行く私。しかし続々とToDoリストは追加されていく。途中心折れることもしばしば。仕事と育児と家事との三転倒立(なんだそれ)。夫は仕事の最後のwrap-upで通常より多忙。帰宅時間も毎日深夜。渡英に向けて話し合わなければいけないことはたくさんあるのに、大半がLINEでのやり取り。うおおおお!夫婦の会話は何処へ!
そのたびに母の言葉を反芻する。
実は、母の魔法の言葉には続きがある。
『なるようにしかならない!でも、あなたはいつも何とかしてきたから大丈夫!なんとかなる!』

はい、最終的にはなんとかなりました。
よく頑張った、私。よくやった、私。
かくして、両家族のサポートもあり、無事夫を2月14日に日本から送り出したのであった。

To be continued…

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