あの子よりいい女

メモは必ず教科書体で使う。
ここしばらくはそうなっている。
文字が見やすくてきれいだから。
自分の汚い文字で書かれた本音よりも教科書体のほうがすんなりと頭に入ってくる、と書くとなにかに負けたような気がするのでしまっておく。
周りの人も何人か教科書体を使っているので、年齢問わずにみんなの教科書は教科書体だったんだな、と1円にもならないことを思っては自分の着眼点を馬鹿にする。

最近職場で仲がいい子と何を話していいかわからなくなってきた。

同い年の可愛くて優しくていい子、それだけで私はどこか尻のすわりが悪くなる。
共通項が一つでもあれば、そこから他人に比べられる気がして窮屈に感じる。
趣味、出身、誰から生まれた……
この職場ではあの子とあの子と、あの部署のあの人と、あとあの子が同い年。あの子は大学が一緒だったみたいだけど、その時は知らなかった。月に一度か二度、それを思い出しては自分がその横並びのラインのうちどの位置にいるかを考えてしまう。
あの子は私よりかわいい、細くて色が白くて、おしゃれが好き。あの子は私よりもおしゃれに関心がないけど、自分の趣味の世界に没頭していて楽しそう。あの子は……
みんなこの思考から何歳で抜け出すんだろう。
私はいつからこんなこと考え始めたんだろう。
自分がすごく醜くて矮小であることが月に1、2度分かって、むなしくなったところでこの会議は終わる。
考えてもキリがない。
私は私が一番であることにこだわっている。
だからほかの人が1位だと確定するのがこわい。
もちろん1位になれない理由も、それに対する努力が足りないのもわかっている。だからスタート地点で自分が”みんな”よりも下にいたのだ、ということにして現実と自分の小ささから目を背けている。

1位になりたい、という強烈な野望は数年前に起こった。
私が当時好きだった人は、言葉にはしないものの、私以外の女の子と関係を持っていたようにおもう。
私はその誰とも知れない影にコンプレックスを抱き、選ばれるにはどうしたらいいかを日夜考えていた。
他の女よりも細くて、他の女よりも色が白くて、他の女よりも綺麗で、他の女よりも気が利いて、他の女よりも頭が良くて、他の女よりもセンスがあって、他の女よりも品があって、他の女よりも料理が上手で、他の女よりも稼いでいて、他の女よりも、、、、、、、、
ただの女では選ばれない、とこの時初めて考えた。

私は私を選んでくれる人が必ず現れる。

女の子が子供のころから少しずつ刷り込まれる楽観的なプリンセス思考は誰が発端なんだろう。
選ばれない人だっているのに。

当時そのプリンセス思考が私の中から消え去った。
私はそのままでは選ばれない。
課金もしない初期アバターの女は背景に溶け込んで見えなくなるだけ。誰も私を見ようとなんてしない。
私は背景になることを恐れて努力した。
努力を続けた末にその男に冷めたのだが、私の中からプリンセス思考は消えたままだった。


他の女よりも、他の女よりも、他の女よりも、他の女よりも、他の女よりも、他の女よりも、他の女よりも、他の女よりも、他の女よりも、


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