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Re:13歳の私へ

13歳の私へ

手紙をありがとう。
過去に向けて手紙を送ることはできないけど、どうしてもあなたに伝えたいことがあるから、返事を書くね。

確かあれは中学校の道徳の授業で、20歳の自分に向けて手紙を書くことになったのだったね。すっかり忘れていたけれど、学校の先生がちゃんと送ってくれて、成人式の日に手紙が来て思い出したよ。

中学校に入る前、はじめての海外旅行で行ったイタリアで買った便箋に、つたない手書きの文字。成績があがったら猫が飼えるから勉強をがんばったこと、医者になりたいと思いはじめたこと、おじいちゃんのお見舞いにいったこと、合唱コンクールや部活の話。どれもささいなことかもしれないけど、たくさんのキラキラした思い出がよみがえってきて、なつかしい気持ちになったよ。

実は、わたしは中学高校ではたくさんの苦労やつらい思いをして、卒業したあとはもう思い出したくないと思っていたのだけど、あなたが手紙をくれたおかげで、なんというか、私もちゃんと、ひとりの子どもだったことが思い出せた。

さて、私はどうしてもあなたに伝えたいことがあると言ったね。

それは、自分の好きなことを、やめないで、なんとかして続けてほしいということ。
13歳のあなたの日常は、もうすでに長く続けているダンスや絵をかくこと、出会ったばかりの英語の勉強や部活の劇など、たくさんの好きなことや、パッションであふれている。なんでも好きなことをして、キラキラした生活がおくれるのは、あなたが思っている以上にとっても素晴らしいことなんだよ。
好きなことを続けていれば、それがいつか、あなたの一部になっていく。
そして、あなたを助けてくれる日が、かならず来るから。

どんなに大好きなことでも、続けていれば、壁にぶつかることが必ずある。これ以上上手にならないと思ったり、勉強が大変になって、時間が割けなくなったり。
でも、そんなときでも、どうか、自分が本当に好きなことは、忘れないで、頻度を減らしてでも続けたり、また時間ができたらすぐに再開してほしい。

好きなことをしている時間は、いちばん自分らしく輝ける時間だから。

そして、ずっと続けている好きなことが、あなたを救ってくれることがこの先きっとある。
つらいことがあって、誰かの助けを必要としているとき、残念ながら周りの人が助けてくれないことがある。
それは、周りの人がひどい人だから、とは限らなくて、うまくコミュニケーションがとれなかったり、あなたが助けを必要としているタイミングと、周りの人に余力があって助けられるタイミングが合わなくて、すれちがってしまうということもある。みんなそれぞれ、自分の人生を必死に生きているから、しょうがないことだ。

でもそんなとき、周りの誰か、ではなくて、あなたがずっと続けてきた好きなことが、あなたを助けてくれる。
本当にメンタルが落ちたときは、身の回りの作業、やらなきゃいけないことが何も手につかなくなって、生きる気力がなくなる。
文字通り、何もできなくなる。
そんなとき、機械的にでも、ずっと使ってきた色鉛筆を手に取って絵を描いたり、ダンスのレッスンに行ったりするうちに、自分のペースを取り戻して、本来の自分になれる。

自分の好きなことは、自分を表現する手段になり、そして自分の一部になる。
そして、自分が誰だったか、忘れてしまったとき、思い出す手がかりになる。

そして、どんなに絵が好きでも、趣味で絵を描いているだけで、プロの絵描きになんてなれない、と今のあなたは思っているかもしれないけれど、プロの絵描きにならなくても、他の仕事で絵を描いたりして、何かに活かせる機会は思っている以上に多い。
この先いろんなことを学んで、スキルを身に着けて、できることが増えていけばいくほど、思いもかけないような場所であなたの好きなことを活かせるチャンスがたくさん増えていく。

だから、たとえ時間がなくても、もうこれ以上上手になれないと思っても、プロになんかなれないと思っても。
「好き」という気持ちがあるなら、どうか、やり続けてほしい。

あなたの好きなことは、一生モノの、宝物だから。

(2021年1月)


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