川﨑颯太の可能性


はじめに。

J1復帰シーズンも4試合を消化。

内容はというと、開幕戦にて"天皇杯王者"にして"FFSC勝者"浦和レッズを相手に1-0の完封勝利。
続くルヴァンカップでは「因縁の相手」、柏レイソルを相手に特指 木村勇大選手 背番号40 の鮮烈デビュー弾(正確にはまだプロ登録ではない)で1-1のドロー。
第2節 セレッソ大阪相手にも、自分達のスタイルをかわされる展開の中でセットプレーから先制し、1-1のドロー。
そして、ミッドウィークに行なわれたルヴァンカップGS サガン鳥栖戦では 前述した在学ルーキーに続きまたしても若い才能 山田楓喜選手 背番号27 の鮮烈弾で2-1の勝利   と、どう見ても順風満帆の滑り出しである。

そんな中で注目したい選手は 川﨑颯太選手 背番号24。



前節セレッソ大阪戦では、曺監督曰く「未知のスタイルとの遭遇に戸惑いがあった」として途中交代を命ぜられるも、
中3日で行われたルヴァンカップGS第2節ではフル出場を果たし、監督からの信頼度 期待度の高さを改めて見せつけた。

そんな鳥栖戦で見たひとつのプレーに凄く感情を揺さぶられたので、
サッカー観戦人生の栞としてここに記し挿んでおきたいと思う。

3年前の記憶

このプレーを見た時に真っ先に思い出したのが3シーズン前の事。
2019年3月30日 ガンバ大阪 vs. ヴィッセル神戸 
バケツをひっくり返したような大雨の初春、パナスタに乱れ咲いた乱打戦の記憶。

当時のガンバ大阪は宮本恒靖政権の下、新進気鋭の育成組を中心にシステマティックな守備網からサイドを活用したアグレッシヴなサッカーを展開していこうとしていた時期。

そんな中で守備から攻撃、ロストから守備への第一アプローチのタスクを担っていたのが 高宇洋選手 背番号28だった。

イニエスタ選手、ビジャ選手、ポドルスキ選手というワールドクラスなプレーヤーが揃い踏みしたヴィッセル神戸の攻撃陣をどれだけ押さえられるか。  
どこのメディアもそういった切り口でこの試合の戦前評を盛り上げていたと記憶している。

戦前の予想を嘲笑うかのように前半のガンバ大阪は完璧だった。  
守備網は堅く丁寧に。 奪取を見越したポジショニングで素早くサイドに展開し神戸の中盤の距離感を間延びさせ、
縦に速いアデミウソン選手、ファンウィジョ選手といったらリーグでも屈指のスピード2TOPを効率的に使う。

スタイルが絶妙にハマり、前半24分で早々2-0。

「2019シーズンのBest of GAMBAは神戸戦の前半40分間」   ーーー未だに周囲にはこう述べることがあるぐらい。

それほどまでに、バックスタンドから見ていたあの日のガンバ大阪の攻撃陣はフレキシブルでスピーディで、かつダイナミックでチャレンジスピリットに溢れていた。

潮目が変わったのは前半の終わらせ方を模索する中で鬩ぎ合った中盤の領域占領争いだったと思う。

スリッピーなピッチに段々とガンバの中盤が重くなっていったのである。

セルジサンペール選手が徐々にフィジカルコンタクトに精細を欠いていく高選手に狙いを定め、
後ろに比重を置いたポジショニングからボール奪取を成功させる場面が目立ち始めた。

それが続けば、ガンバの中盤もボールホルダーをフォローせんと徐々にスペースをなくしていく。
ガンバの中盤は少しずつ確実に幅を無くし、ディスタンスを無くし、自陣へと引き下がっていった。

互いの距離感が詰まることで起きるスタック。 そこをサンペールや山口蛍に面白いように突かれた。

その辺りから形勢が徐々に逆転し出した。   
ビジャがIHの位置でボールを縦に運び、引っ掛けたボールは再びイニエスタが回収、古橋やポドルスキが強烈なショットを放つ。
こうして何度もヴィッセル神戸がポゼッションを握る。

そして40分  ガンバが保っていた緊張の糸がここで切れる。

緩んだ  のではなく 切れた。   自分の目にはそういう具合に映った。

45° 。
ポドルスキにとっては絶好の位置  ここから何度も世界を揺るがせた。 熱狂させた。 サッカーの名門である母国ドイツに栄光を齎した。

イニエスタのFK。 神戸のオフェンスに気圧された守備陣がグッとゴール前に縮こまる。
壁に当たりファーへ飛んだボールはポドルスキの前へ。
次の瞬間ボールはゴールネットに含んだ雨水を綺麗に篩い落とした。

2-1。 ガンバの面々の表情は既にリードをしているホームチーム のそれではなかった。

まさに 陥落 である。  後半の入り次第でいともあっさりひっくり返る  と感じた。

豪雨のパナスタ、決して低くはない気温の中をひしめく湿度。   身震いがした。  後半の展望への悪寒  である。

折れる瞬間

正直今となっては、後半がどういう入り方をしたのか あまり覚えてはいない。

その感情を超える大きな分岐点を見たからである。

とにかく神戸は「早く追いつきたい」という思惑を持っている事だけは伝わった。

一気呵成  勝点への道筋を見出した。

前半より更にアグレッシブに前からプレスをかけてガンバ守備に綻びを作っていく。
整理する暇など与えない。 イニエスタ選手を筆頭に形成される陣形は、もはや勝利に飢えたチームの焦りや勢いというよりは 勝利の味を知る者達の気高き熱意 に感じた。

左サイドで囲まれたイニエスタ選手がスリッピーなピッチを逆手に縦に速いグラウンダーのボールを一閃する。
追うのはアウトラインにポドルスキ、インラインに高。  ボールに先に追いついたのは高選手。
このままラインを割らせるか、フォローを待つか 一瞬の選択の時間に、
ポドルスキ選手の身体(正確には腕だが)が背中にぶつかる。

踏ん張ろうとした体勢には見えた。  何ならそれを利用した反発力でボール保持体制をより固めようとしたのだとは思う。  が、高選手はいともあっけなく吹き飛ばされてしまった。

再び追いかける余裕すらないように見えた。 何が起きたか理解が追いついていない様子にも思えた。

次の瞬間にはポドルスキ選手がボールを持ちPAに侵入しようかという状況に。

そしてファーで待つビジャ選手に柔らかく丁寧なクロスが入る。

体躯を反らしたビジャ選手が宙に止まる。

同点。  この瞬間に私の目には高選手の心が折れたように見えた。

点を失って迎えたハーフタイムインターバルの恩恵は、追う側に作用した。

混乱したまま迎えたハーフタイムの後、幾分か頭を整理し迎えた後半にイニエスタ-ポドルスキという世界屈指のラインに、無惨にも切り裂かれたのである。

結果は3-4 一旦追いついたものの、再び引き離すだけの余力は残っていなかった。

この日を境に高は自信をなくしたように映った。


その後はカップ戦でフル出場を果たしたものの、スターティングスカッドからは名前が消える事が増えた。
今野選手(現南葛SC)の戦列復帰も大きかったとは思う。

が、試合に出てはタックルが雑に入りカードを貰うことも増えた。
そしてリスクヘッジの為に後半途中でベンチに下がる。
まさに悪循環である。

そして倉田秋選手の劇的ゴールで勝利したあの伝説の大阪ダービーには、登録メンバーとして関わる事すらできなかった。
このまま埋もれていってしまうのか… と心配していた中で迎えたルヴァンカップのプレーオフ。

季節は梅雨も終盤、すっかり夏に向かっていた。
あの試合から3ヶ月が経っていた。

ルヴァンカッププレーオフ第2戦、vs. Vファーレン長崎

初戦を1-4で落とし迎えた2戦目は長崎のペースで進んでいた。 この時点でスコアは2-0 あと一点取れれば一度はガンバに傾いた勝者への天秤が均衡を図りだす。
正に試合が分からなくなってくる様相。  完全に追い風ムードの長崎。

そんな状況で、高選手の進化を見た。

相手とボールの間に身体を入れて止める。  見たかったプレーである。

この瞬間私は嬉しくなった。   選手の挫折から復活をこの目で追える事は大変幸せな事である。  
まさに現在進行形で紡がれる選手の歴史を目撃している という思い。

彼はもう大丈夫だな  と思った。  安堵ではなく、ようやく整った という感情。
映画で言えば、いざ難敵のアジトへ向かう最中、仲間や武器が揃いいざ参らん! とする展開に近いものがある。

そして今現在高選手はアルビレックス新潟にて背番号8を背負い、中盤に欠かせない選手となっている。

前を向き、ボールを散らし、守備のカバーに奔走してはまた前を向く。


自分にとって理想のセントラル像を持つ選手の一人である。

潰し屋としてタスクを遂行できる というのが個人的にセントラルに求めたいスキルのひとつ。
それが前提にあって、戦術眼やプレーの流麗さが付加される。

そういった意味で高選手は本当に当たりに強くなった。チェイスに対ししぶとくもなった。  簡単には倒れないし、ゴール前にも間隙をついて顔を出す。

あの日のあの一連がきっかけになったかどうかは分からない。

でもあの日以降本当に変わったと思う。

今やまさに八面六臂の活躍ぶりである。

瞬発的な進化

そして話は現在の時間軸に戻って川﨑颯太である。
彼は今ノッていると思う。  本人にその自覚はないかもしれない。
一旦途中交代を命ぜられたセレッソ大阪戦、憮然とした表情でベンチに下がる彼を曺監督はじっと見ていた。

その後ろ姿にどういった印象を抱いたかは、その3日後のフル出場という事実が物語っていると思う。

どの方向に向いてボールを受けるか。
どの方向に向く事を想定してボールを狩るか。
そしてその際のアプローチはどうするのか。

この選手は撮っていて面白い。  瞬間的に色々な事をしているように見える。

情報処理能力や空間把握能力が優れており、尚且つそれらを活かせる規模のフィジカルがある。

それを存分に見せつけられたのがこのプレーである。

ちなみに相手は 梶谷政仁選手  身長181cm 体重81kgである。

川﨑選手は 身長171cm 体重66kg。

この数字から、一連の動きが凄い と伝わってくれると嬉しい。

3日前、ヨドコウスタジアムでセレッソの神出鬼没なボール回しに翻弄されていた彼が見せた瞬発的な進化。

思わずマスクの下で感嘆の声が漏れた。

自分の好きなセントラル像に川﨑選手がハマっていく…  そう思った。

新たなる壁

そして迎える明日 3/5 は昨シーズン共に昇格争いを演じた宿敵 ジュビロ磐田。

中盤マッチアップするプレー機会の中にきっと遠藤保仁がいる。

正に魔法使いのような選手である。
目が自身の身体から離れ、ピッチを俯瞰する位置に浮かんでいるのでは? という程に戦況がよく見えている選手。

ボールが自身に供給される瞬間には、もう次のパスコースへの糸口が完全に見えている。 そんな選手である。

さらには大森晃太郎もいる。

こちらもまた狭いスペースでのボールキープ力、そして打開力に非常に長けた選手である。

この選手らの他にもタレント豊富なジュビロの中盤。

対峙するのは並大抵の事ではない。 
遠藤保仁とやり合うのか、はたまた遠藤保仁の思考を読んだプレーに徹するのか  まさに大注目であると同時に
また新たなスキルを手に入れるのでは? というワクワク感もある。

そして磐田にはまだまだ見た事のない、プレースタイルを知らない選手もたくさんいる。

色々と楽しみな一日となると思う。

サッカーのある日常に感謝を。 

明日もサンガスタジアムbyKYOCERA  楽しんできます。

2022.03.05.  02:48  第1稿 

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