着物基礎知識14 「付下げと訪問着」

今回の基礎知識は「付下げ」と「訪問着」の違いとその考え方について書いていきます。

■付下げと訪問着について

 訪問着が誕生したのが、大正時代です。

 当時、三越が発売した「訪問服」という華やかなパーティなどにも映える絵羽がらで1枚絵を着物にしたようなものが基礎になります。

 大正と言えば、江戸時代から明治、そして大正という流れの中、西洋文化を取り入れ、派手な社交界が最盛期の時期です。

 それまでは基本、質素倹約が主体の考え方でしたから、着物もそこまで派手はものはありません。

  なので社交界のパーティなどに出るような着物が当時はあまりなかったのです。

 そこで作られたのが訪問服です。

 眩いパーティドレスにも負けない上品で豪華で、それでいて日本らしい訪問服はとてもとても人気になりました。

 現在の訪問着はこの訪問服が起源になります。

 続いて「付下げ」です。

 これは太平洋戦争時に、訪問着が禁制になったことから生まれます。

 その時に訪問着よりおとなしいものをということで生まれたのが「付下げ」です。

 そして花柳界の仕事着となりましたが、それが戦争後に略礼装の着物として大流行したのです。

 ということで、そもそも、訪問着の代用として作られたのが付下げです。

 格について書かれている方は訪問着>付下げという格の考え方を書かれている方が多いですが、そもそもこの2種に格的な差は存在しないんです。

 ですが、現在、訪問着と付下げという同じ「格」なのに模様などの形式が違うものが混在している以上、使い分けができるようになったのです。

 なので、訪問着は「周りに負けないぐらい華やかな恰好が必要な場合や自分や参加者全員が主役級であるパーティ」に使い、付下げは「主役が別に存在するけど正装が必要な場所やパーティ」に使うという感覚で良いのです。

 格がどーだこーだはなく、あくまで「使い分け」の幅が広がったんだと考えてください。

 なお、最近では結婚式に母親や叔母が訪問着を着ることがあります。

 そうなると「え?結婚式は花嫁が主役だから訪問着はダメなんじゃ?」という方がいます。

 ですが、結婚式は叔母までは「主役級」なわけです。

 特に一族として繋がりが深くなりそうな「二親等」までは「主役」とみなして良いです。

 ですから、訪問着でもかまいません。

 ただし、花嫁がドレスしか着ないのに母親や叔母が着物というのは「空気読めない」感じになるので、オススメできません。

 なにごとも適切な使い方が必要ということです。


■付下げとその種類

 では付下げとはなんなのか?というところから説明します。

 付下げとは訪問着よりがらが少なく、裾と左胸と左袖に「一方付け」でがらが入っている着物の事になります。

 がらが少ない分、そのがらの種類やデザインによって使い分けを考える時もあります。

 たとえば、モダンながらの付下げなら、ミュージカルや高級ホテルでのパーティなどに向きます。

 逆に古典がらで目出度いがらのものは友人や知人などの結婚式、入学式、卒業式に向きます。

 とまあこんな感じですが、よほど変わったがらではない場合は使い分けは気にする必要はありません。

 たとえば街頭の絵が染められた付下げ。

 こんなものはリバーサイド系のホテルや夜景が見えるホテルなどでの食事会、あとは飲み屋のママさんやお姉さんとか、かなり着る場面が限定されます。

 ですが格はあくまで「略礼装」もしくは「準礼装」になります。

※ちなみに本礼装(正装)は黒留袖、色留袖、振袖になります。

 そして付下げには一応

付下げ訪問着

付下げ小紋

 があります。

 付下げ訪問着は、訪問着より豪華ではなく、付下げよりは豪華というなんとも中途半端な代物です。

 これは付下げのほうが良い所にも、訪問着が良い所にも着られるよ~という考え方で作られています。

 そして付下げ小紋。

 これは、小紋よりも準礼装に近いけど、付下げほど準礼装ではないよ~という着物です。

 なんか、小紋じゃ失礼だけど、付下げや訪問着までやると仰々しいかな?という場面で使うような着物です。

 この2種は中途半端といえば中途半端なので、普通に付下げと訪問着を1着ずつ持っていたほうが良いです。


■訪問着

 全体に豪華な染め、もしくは刺繍、金箔銀箔、金糸銀糸などを用いてとにかく一枚絵のように豪華で華やかなものを基本的に言います。

 もちろん、こちらもがらが「一方付け」になっています。

 最近では作家が四人がかりで染めたものなどもあります。

 特徴としては、それこそ豪華で華やかで、ライトのまぶしいパーティなどでも光に負けないような着物です。

 一部、紬の訪問着というものもありますが、こちらはどんなに豪華でも紬ですので略礼装(準礼装)のうち、カジュアル寄りの使い方になります。

 叔母などの立場で結婚式に出る際は、やたら黒留袖や色留袖を購入するより、訪問着を選んだほうが、後からの使い道が多いのでオススメです。

(黒留や色留は本当に使い方が限られますので、よほど親族がうるさいとかなければ訪問着をオススメします)。

■付下げ

 訪問着よりも控えめだけど上品さが出る着物で、胸と袖と裾にがらがあるのが特徴です。

 ちなみに、肩の裏(背中の両肩あたり)にがらがあるけど、控えめながらの入り方などは「付下げ訪問着」と呼んでいいと思います。

 こちらは訪問着より使い勝手がありますが、結婚式のうち、叔母などで出る場合は逆に豪華さに欠けるので使用しないほうがいいです。

 結婚式で出る場合はお友達の結婚式やそのお子様の結婚式、知人の結婚式ぐらいです。

 また、入学式や卒業式に着ても良いです。

 ただ、学校によっては入学式は色無地などの控えめなもので、卒業式は訪問着で・・・という感じの流れのある学校もありますので、ご注意を。

(めずらしいのでは、入学式も卒業式もほとんど全員紬を着ている地味な感じの流れの学校もありました)。

 入学式に控えめというのは、役員決めで選ばれないようにとの話もあるそうです(豪華で華やかだと推薦されたりするからという話です)。

 ですが、そんなの関係なく入学式から卒業式まで豪華な学校もありますので、そのあたりは着物を購入される前にリサーチが必要かと思います。

 脱線しましたが、とにかく付下げは控えめで上品なものになります。

 お茶の席にも使用されますので、使用用途は幅広いです。


まとめ

 〇付下げ、訪問着に実際的な「格」の差は無いけど、使い方が変わってくる。

 〇控えめで上品に行く場合は付下げが無難で、とにかく豪華さが必要な場合は訪問着で。


です。

 


着物の基礎知識を裏の話も含めて記事にしています。初歩の初歩から裏話まで。飾り内容無しの本音で書いています。よろしくお願いします。