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国立能楽堂特別公演 ◎祈りのかたち

 能には小書(こがき)というものがある。特別な演出のことである。
先日、国立能楽堂で上演された「土蜘蛛」には、四つもの小書がついている。
この公演は、昨年の3月、惜しくも雨天中止となった日本博皇居外苑特別公演二日目が、国立能楽堂に場所を変えて開催されたものである。
その、能「土蜘蛛」の四つの小書とは、「入違之伝」「白頭(しろがしら)」「眷属(けんぞく)出之伝」「ササガニ」である。
能「土蜘蛛」は、鬼退治で有名な源頼光の話である。
源頼光(みなもとのらいこう/前ツレ)が病で臥せっている。
そこに薬を携えて召使いの胡蝶(こちょう/前ツレ)がやってくるが、頼光の病状は一向によくならずに益々重くなるばかり。
胡蝶が退出して、夜も更けた頃、そこに一人のお僧(前シテ)がやってきて頼光の病状を尋ねる。
不審に思った頼光が僧の名を尋ねると、古今集の歌「わがせこがくべきよいなりささがにの」と謡いながら近づいてくると、果たしてそのお僧は蜘蛛の化け物であった。
蜘蛛の化け物はあっという間もなく蜘蛛の糸を発し頼光を絡め取ろうとするが、頼光は枕元に置いてあった名刀「膝丸」をすんでのところで抜いて蜘蛛の糸を薙ぎ払い蜘蛛の化け物に斬りつける。
化け物は手傷を負うがたちまち姿を消してしまう。
前シテのお僧(蜘蛛の化け物)は橋懸りから揚幕に駆け入っていくが、このとき、揚幕からは、この騒ぎを聞きつけた独武者(ひとりむしゃ/ワキ)が出てきて僧と行き違うが、僧はすれ違いざまに独武者に向かって蜘蛛の糸を投げる。
これが小書の「入違之伝」。
頼光は独武者に蜘蛛の化け物の退治を命ずる。
ここからは間狂言(あいきょうげん)。
狂言師が前場の事件をおさらいするように語る場である。
蟹の精の狂言師が二人出てきて、前場のことを愛嬌たっぷりに演じながら語る。
このとき、二人の両の手は蟹よろしくハサミの形をしている。
これが小書の「ササガニ」。
二人は土蜘蛛退治の加勢に向かうのである。
なお、この小書は狂言師山本東次郎(重要無形文化財保持者)が新たに台本を改訂したものだそうだ。
手傷を負った化け物の血のあとを辿る独武者一行は、古塚に辿り着く。
古塚を崩すと土蜘蛛とその眷属の蜘蛛の精が二人登場して、独武者一行との壮絶な戦いが繰り広げられる。
土蜘蛛の頭部には白髪の鬘が。これが「白頭(しろがしら)」
繰り出される蜘蛛の糸の量といったらもうたいへんな量である。
舞台は蜘蛛の糸だらけとなり、やがて土蜘蛛は退治される。
ここが「眷属出之伝」である。
ちなみに「眷属」とは、血筋のつながっている者。一族の者。身内の者。または、従者、家来、配下の者という意味である。
なんでもこの小書は、今回のために新たに案出された小書で、今回が初演だとのこと。
非常に観応えのある、そして観ていて面白く楽しめる演能であった。

6月30日(木) 国立能楽堂特別公演 ◎祈りのかたち

一調「曙」 謡 金春安明 小鼓 大倉源次郎
脇仕舞【下掛宝生流】「羅生門」 ワキ 宝生欣哉
地謡 大日方寛 殿田謙吉 則久英志 御厨誠吾
舞囃子【金剛流】「東北」 シテ 金剛永謹
笛 一噌庸二 小鼓 観世新九郎 大鼓 柿原弘和
地謡 宇高徳成 豊嶋晃嗣 宇高竜成 金剛龍謹 豊嶋彌左衛門 種田道一
狂言【大蔵流】「呼声」 シテ/太郎冠者 山本東次郎
アド/主 山本則重 アド/次郎冠者 山本則俊
能【観世流】「土蜘蛛」入違之伝・白頭・眷属出之伝・ササガニ
前シテ/僧 観世銕之丞 後シテ/土蜘蛛の精 梅若 実(梅若桜雪)
ツレ/源頼光 観世清和 トモ/従者 観世三郎太 ツレ/胡蝶 観世淳夫
ツレ/土蜘蛛の精の眷属 観世喜正 ツレ/土蜘蛛の精の眷属 梅若紀彰
ワキ/独武者 森 常好 ワキツレ/従者 舘田喜博
ワキツレ/従者 梅村昌功 ワキツレ/従者 野口能弘
アイ/蟹の精 山本泰太郎 アイ/蟹の精 山本則孝
笛 杉 市和 小鼓 幸 正昭 大鼓 亀井広忠 太鼓 金春惣右衛門
後見 観世恭秀 清水寛二 山崎正道
地謡 坂口貴信 谷本健吾 角幸二郎 角当直隆 上田公威 山科彌右衛門
   大槻文蔵 梅若長左衛門
 


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