見出し画像

330万円の借金を背負った話


10年ほど前の話。

私が22歳の時、信頼していた先輩に騙され(?)330万円の借金を背負ってしまった。


当時、私は雑誌の読者モデルや俳優の真似事をしていた。

まあ、認知度なんてめちゃくちゃに低い、底辺の読者モデル、底辺の俳優なんて大した収入にもならない。

むしろ撮影や舞台に出ると、稽古だったり、交通費、時間的拘束のお陰でお金が無くなる。

バイトで時給1000円で働いてた方が儲かる。

あーあ、早く売れて、楽な生活がしたいなぁ

なんて甘い事を考えていた。

そんな2.5次元舞台がメキメキと勢いを付けていた頃、奇跡的に私は2.5次元のミュージカル舞台のオーディションに受かったのだった。

しかも、セリフも歌のパートもあって割とメインのキャラクター。

「このミュージカルで俺は成功して、売れっ子になってやる」と燃えていた。

しかし、問題が。

重大な問題が。

私は【ダンスなんか踊れない】のだ。

ミュージカルなのにオーディションではダンスの審査が無かったのだ。

プロデューサーの意向で、今は踊らなくても稽古で上手くなってくれれば良いという事らしかった。

しかし、私は天性のダンス下手で、リズムに合わせてアップもダウンも出来ない。

稽古でどうにかなるレベルじゃない。

稽古場で恥をかくのは…嫌だ。

悩んだ挙句、私は俳優の先輩に電話して「マンツーマンでダンスレッスンを受けたい」と相談した。

すると、先輩の学生時代の友人にダンサーがいるから紹介してくれるという事になった。

後日、俳優先輩ダンス先輩と3人で新宿で待ち合わせてダンスのレッスンを受けた。

めちゃくちゃ兄貴肌で厳しくも優しいダンス先輩は教え方がかなり上手かった。

ここでダンス先輩が私のダンスを見て言った。

「身体の使い方が分かってない。天才的に下手くそだ。」と。

やはり。私は天才だったのだ。

しかし、ミュージカル舞台を控えた私はダンス先輩に「必死で頑張るので、ダンスを教えて下さい。」と懇願した。

「…まあ俳優先輩の頼みだから、受けるけど、しっかり練習しろよ。」と頼みを受諾してくれた。

その日、私は先輩方に連れられて新宿歌舞伎町で朝まで浴びるほど酒を飲んだ(高そうなお店だったけど、全てダンス先輩が支払ってくれた。さすが兄貴や、と思った)

その日から毎日のようにバイトが終わって深夜に集合して、ダンスレッスンを受けて、朝方解散というルーティーンを送っていた。

身体はボロボロだけど「上手くなってる」という実感が私を支えてくれた。

舞台の稽古にも下手くそながら、何とか付いていく事が出来た。

「ありがとう俳優先輩、ダンス先輩!」

舞台本番もなかなか上手く出来た。

「本当にありがとう俳優先輩、ダンス先輩!」

まあ、本番を見たダンス先輩に「やっぱり天才的に下手くそだな。」と言われたけど。

それから、俳優先輩、ダンス先輩と3人でよく新宿や渋谷で会っては遊びに連れて行ってもらった。

舞台も終わり、冷静になると、ふと疑問が生まれた。

毎日、深夜の練習に付き合ってくれてけど仕事はどうしてるんだろう。

頻繁に飲みに連れて行ってくれるけど、お金持ちなのかな。

と考えていた。

それの疑問をダンス先輩がいない時に俳優先輩に聞いてみた。

すると俳優先輩がその秘密を教えてくれた。

俳優先輩「ああ、ダンス先輩は株で利益出してるから仕事しないでも収入があるんだよ。」

私「カブで利益?どうぶつの森の話?働かなくても収入?なにそれ」

今日の晩飯のお金さえも足りない私には異次元の話だった。

俳優先輩「俺もダンス先輩に頼んで、株の収入あるよ。まあ、元手が少ないから生活出来るほどじゃないけど」

恥ずかしながら、当時の私は株の知識が全く無かった。

認識としては、大金で株を買えば大金がもらえる。という事くらいだった。

あとはたまにニュースでやってる、大暴落ってワードくらい。

知識が皆無なくせに、私はダンス先輩にまたお願いしたい事が増えた。

この時の私を殴って止めたい。

しかし、私は「お金が欲しい」という欲に囚われていた。

お金があれば、アルバイトなんかしないで、稽古をしたり、レッスンを受けたり、撮影に参加する事が出来る…。

甘すぎる。

貧乏してると強欲になるし、冷静さを失う典型だ。

後日、例の如く俳優先輩とダンス先輩と3人で歌舞伎町でお酒を飲んでいた。


そこで私は、ダンス先輩に言った。

私「俳優として、成功したいです。そのために、集中して稽古やレッスンを受けるために、ある程度の収入を得たいと思っています。ダンス先輩のようにカブで収入が得たいです。」と。

ダンス先輩「まとまったお金があれば、毎月配当金を得られるポートフォリオ組んであげるよ」

私「ポートランド…」

ダンス先輩「ポートフォリオ」

私「分かりました…いえ、分かりませんが、それを組んで下さい。」

ダンス先輩「お前、その知識で株やるなよ。口座もないだろ。」

私「口座なら、郵便局にも銀行にもあります。」

ダンス先輩「…やめとけ。」

私「それじゃあ、自分でやるのはやめます。」

ダンス「ああ、そうだな。」

私「私のお金をダンス先輩に預けるのでポートランド組んで運営して下さい」

ダンス先輩「…ポートフォリオ組んで運用すれば良いのね。」

私「…はい。」

ダンス先輩「お金はあるの?元手は。」

私「全財産を預けます。」

ダンス先輩「大丈夫かよ。」

私「はい。」(強い決意の眼差し)

ダンス先輩「いくらあんの?」

私「全財産、5万円です。」(熱い眼差し)

ダンス先輩「そんなお金じゃ年間で400円くらいだよ。」

私「…よ?!よん?!」

ダンス先輩「元手の金が無いなら無理だよ。」

私「(カブ…高すぎるだろ…)」

ここで、運命を変える一言がダンス先輩から発せられる。

ダンス先輩「借金して金作れば?」

私「へ?!」

ダンス先輩「消費者金融で金借りて、毎月の返済額より高い配当金を得られるようにしてやるよ。」

私「…」

ダンス先輩「…」

私「…」

俳優先輩「実は俺も借金して、ダンス先輩に運用してもらってるんだよね。」

私「そうだったんですか?!」

(そうだ、俳優先輩もいたんだ、忘れてた)

ダンス先輩「一度も返済額を下回った事ないよな」

俳優先輩「そうだね。まあリスクはあるけど」

私「…是非、私にもお願いします。私も仲間に入れてください。」

ダンス先輩「分かった。それじゃあ、金作れたら持って来てよ」

私「は、はい!!お願いします!!」

そして、私たちは何度目か分からない乾杯をして酒を飲んだ。

次の日、行動力だけはある私は消費者金融数軒を巡りお金を集めた。

福沢諭吉が330人。

330万円。恐ろしいほどの大金だ。

330人の福沢諭吉は真顔で私を見つめている。

私も330人の福沢諭吉を見つめた。

月々の返済は8万円。

…大丈夫か?

その日の内にダンス先輩にそれをそのまま渡した。

この日は飲み屋ではなく、喫茶店だった。

ダンス先輩「行動が早いな。」

私「…これで、集中して稽古をする事が…」

ダンス先輩「バイトは辞めるなよ」

私「え?」

ダンス先輩「330万円で毎月の8万円の返済を上回るには、かなりリスク背負わないといけないから。」

私「そうなんですか」

ダンス先輩「当たり前だろ。330万円で仕事辞められたら、誰も仕事なんかしてねぇよ。」

私「確かに。」

ダンス先輩「それじゃあ、毎月お前の口座にお金振り込むわ」

私「お願いします。」

ダンス先輩「わかった。それじゃあな。」

私「…は、はい。」

ダンス先輩は330万円の封筒を持って、喫茶店を出て行った。

(今思えば330万円でも足りないけどね。)

私「今日は飲みに連れて行ってくれないのか。」

まあ、これで俺の人生は救われた!と思っていた。

この日からダンス先輩と飲みに行くことは無くなった。

そして迎えた初めての返済日。

ダンス先輩から口座にお金が振り込まれていた。

9万円。

消費者金融に8万円を返済して…

おお、なにもしないで1万円プラスだ。

なんて美味しいんだろう。

そして次の月、またダンス先輩からお金が振り込まれた。

8万円。

あれ?上手くいかなかったのか。

8万円返済。

まあ、プラマイゼロ

そしてまた次の月、ダンス先輩からお金が振り込まれた。

8万円。

8万円返済。

…こんなもんか。

ちょっとガッカリ。

すると俳優先輩から連絡が来た。

俳優先輩「ダンス先輩の運用、上手くいってないらしい」

?!

俳優先輩「お前の元手のお金無くなりそうだって」

?!

信じられなかった。

突然恐怖を感じた。

もちろん、もう遅い。

そして、次の月

ダンス先輩から振り込みはなかった。

…。

返済8万円。

やばい。

払えない。

ダンス先輩に連絡をした。

するとダンス先輩からメールが来た。

ダンス先輩「悪い。ショートした。」

私「ショート?」

ダンス先輩「お前の金が無くなった。」

私「まじですか?」

すると、ダンス先輩から画像が送られてきた。

いま見るととんでもない、下手くそな買い方。

しかし、当時の私はこの画面の数字の意味すら分からなかった。

なんだ。赤字ではないのか。

緑で書かれてる数字が得した数字か。

私「すみません。ちょっと分かりません」

ダンス先輩「とにかく、もうお金は振り込めない」

私「え、返済日は今日なんですけど」

ダンス先輩「なんとかしろよ。」

私「え、でも。」

ダンス先輩「リスクはあるって言っただろ」

ああ、これがリスクか。

なんて事をしてしまったんだ。

今更後悔しても遅いけど。

自分の知識の無さが恐ろしい。

絶望のまま、その日は眠りについた。

そして次の日、私のスマホが鳴った。

消費者金融からだった。

私「あれ?おかしいな、確認しますね。」と言って、ごまかして切った。

最悪だ。

330万円の借金だけが残った。

金利を考えるともっと、凄まじい金額だ。

焦った。

手が震える。

知識も教養もない頭で考えても、良い手段なんか思い付くはずもない。

もう一度、ダンス先輩に連絡をした。

私「すみません、なにか良い方法はありませんか。」

ダンス先輩「…あるよ。」

あるんかい!!!

早よ!教えて!くれ!!

ダンス先輩「ひとつは自己破産。弁護士事務所行って、競馬で負けたって言え。俺の名前は出すなよ。」

私「…自己破産…は嫌です。」

ダンス先輩「それじゃあ、お前の後輩に、株で配当金出してやるって言って330万円用意させて、毎月数万円だけ渡して、株で失敗したって言え」

いやいや、それ犯罪やん。

私「…無理です。」

てか、その方法使って私は騙されたのでは…?

ダンス先輩「じゃあ親に頼め。」

私「…無理です。」

ダンス先輩「じゃあ、もう方法はないよ。」

私「…ダンス先輩、お金貸してください。」

ダンス先輩「それは無理だよ。」

私は絶望した。

確信はないけど、多分私は騙されたんだ。

頭は真っ白だった。

……

私は俳優先輩に連絡をして、経緯を伝えた。

俳優先輩「俺もさっきダンス先輩に同じ事言われた。」

私「そうですか…」

俳優先輩「…紹介して申し訳ない」

私「いやいや、信用したのは自分なんで」

俳優先輩「とりあえず、返済額いくら?」

私「8万円です。」

俳優先輩「分かった、それは俺が払うよ。俺が巻き込んじゃったから。」

私「え、でも、俳優先輩もお金…」

俳優先輩「持ち合わせがいくらかあるから、心配しないで。…とにかく紹介して、巻き込んじゃって申し訳ない。」

俳優先輩は責任を感じていた。

そして、俳優先輩の名前で私の口座に20万円が振り込まれた。

2ヶ月分の返済額。

…この2ヶ月でなんとかしないと。

借金、330万円の返済方法を考えないと…。

海外旅行に行ったわけでも、車を買ったわけでもない。

ただ世間知らずで教養がなく、知識がないだけで、330万円の借金を背負ってしまった。

良い思いなんてしてないのにぃ…

バカだった。

愚かな自分が嫌になった。

それでもロト7を買う自分が惨めだった。

こんなんじゃダメだ…。

…死ぬべきか?

…生きるべきか?

ハムレットのセリフが頭をよぎる。

…なにが俳優だ。

ただの借金抱えた馬鹿じゃねぇか。

どうする…。

どうすれば…。


次の記事に続きます…。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?