見出し画像

金を盗んだ雀荘メンバーのお話

これはちょっと前の出来事。

雀荘の仕事をこなしていたある日、店長から一本の電話があった。

「今店で働いてもらってるAというスタッフなんですが、過去に某大手チェーン店で窃盗を働いてたらしいんですよ。俺の知人からリークがあって。どうしたらいいですか?」

こうした報告に驚くことはない。雀荘メンバーには手癖の悪いやつも多く、自分の店に入ってから過去に窃盗や横領を働いていたことが判明することはたびたびあった。

自分「とりあえず事実確認からだね。そのチェーン店はうちと仲よくしてもらっているから俺から連絡してみるよ」

早速お店に電話を入れる。本当にそうしたことがあったのか、こちらの聞いている情報と違いがないか確認をする。

相手の店長「それは事実ですね…アウトオーバーがあったほかにも他のスタッフの本走カゴからお金を抜き取ったことがカメラにも映っていて、それを証拠にクビにしました。あと、そのお金を退職後に返済していく約束だったんですが、それも今は音沙汰なしで」

 それを聞いて溜息をつく。Aはまだ20歳そこそこと若く、そんなことをして世間を狭くしなくてもよいのにと思った。

 彼をクビにするということも考えた。ただ彼は人柄自体は悪くなく(金を盗むメンバーは優しい性格の子が多い)、できることなら罪を償って人生を真っ当に送ってほしいという思いはあった。正直甘いのかもしれないが、数か月一緒に働いた彼を過去の過ちで責めるようなことはしたくなかった。

 仕事中だった彼を外の階段まで呼び出し、話をする。

自分「君が某店で過去にしたことを人伝いで聞いたよ。事実で間違いない?」

A「…!は、はい。事実です」

自分「それが働くうえで許されないことだっていうのはわかるよね?」

彼は無言でうなづいた。

自分「もし、君にやり直したいっていう気持ちがあるなら、今から俺と一緒にお店に謝りに行こう。幸い明日は給料日だから今の君ならお金を返すことはできる。この業界で君が生きていくならそうした過去は清算しておいたほうがいいと思う。もちろん、そんなことしたくないって君が言うなら俺から強く言うことはできないけど」

向こうのメンバーがうちのお店に遊びに来ることもあるので、筋を通さないままうちで働き続けることはできない。それがあった上での提案だった。

A「行きたいです。行かせてください」

それから向こうの店長にアポを取った上でタクシーを使って二人で店に向かう。向こうの店までのタクシー代は俺負担だ。オーナーはつらい。

お店に到着し責任者の人とお店の外で会う。まず、自分からAも反省していて謝罪できるなら謝罪したい、お金も今日返金すると説明する。そしてAに振ると

A「本当にすみませんでした。〇〇さんたちには本当にお世話になったのに、その恩を仇で返すようなことをしてしまって…」

Aは涙を流しながら謝っていた。それを見て自分は

(安い涙だな)

と思ったのを覚えている。

本当に泣くほどの感情があったならお金は盗まないし音信不通になったりしないだろう。

自分もAが反省していると伝えたが、本当に反省しているならそもそも自分に言われる前にお金を返している。今働いている店に悪く思われたくないからポーズで謝っているのは明白だった。

謝罪と返金が終わり、自分からは今後こうしたことがないようにうちでしっかり教育しますと相手の店長に伝えて店を出た。

Aにも心を入れかえて働くようにと伝えた。ただ、自分で言いながらもそれは本当に難しいことだとは感じていた。

今まで窃盗癖のあるやつを何人も雀荘で見てきたが、それが治ることは難しい。これはもはや生まれもった心の病気のようなもので、盗むやつはいつまでたっても盗む。彼らの精神構造は自分たちとは違うのだ。

 オーナーとして働くうえで彼らの反省を期待するということはできない。店のカメラの数を増やし、Aにはお店で現金の類や責任者が行う業務はさせないように店長には徹底させた。

 それからしばらくしてAが定職に就くことが決まったらしく店を辞めることになった。うちのお店とはお金の面でもきれいに辞めることができ、

(Aは更生できたのかな。窃盗癖は治らないと思っていたけど、人によるのかもしれない)

 とそんなことを思っていた。

 しかし数か月経ったある日、彼を意外なところで見ることになる。それは他店のTwitterでそこにはAの写真とともにこう書かれていた。

「このスタッフが同僚の財布を盗んで逃げた。警察に届ける」

 それを見てなんとも言えない気持ちになる。

 窃盗壁は治らない、そんなことはわかっていたつもりだったが、彼にはその自分の考えを変えてほしかった。せっかく一度リセットした過ちを、また自分の手で繰り返すようなことをしてほしくなかった。
 
 人は変われる、そのことを自分に気づかせる存在であってほしかった。

 そんな願いもむなしく、自分の考えは変わらないままとなってしまった。

 各店の責任者には彼が店に来ても遊戯させないようにしてくれと電話で伝える。これで彼と会うことも二度とないだろう。

 まだ9月だというのに外は寒く感じた。

                      終わり

「Mリーグについて思うこと」

https://note.mu/jangorok/n/na382d301dde9

「素晴らしい麻雀プロ、どうしようもない麻雀プロ」
https://note.mu/jangorok/n/n9f195af179fe

「麻雀プロの解説・実況を聞いていて不満に思うこと~結果論に左右された実況・解説~」
https://note.mu/jangorok/n/n66cf3e9e285e

「だから僕は麻雀プロを辞めた」
https://note.mu/jangorok/n/n215d8e87cfc4

「マンション麻雀、高レートフリー、無許可雀荘、インカジ、裏カジノなど今もあるアングラな場所について」
https://note.mu/jangorok/n/n8724ab739d9a

「麻雀負け過ぎて給料が無くなって飛んだメンバーが「これは給料未払いですから給料を全額支払ってくれないと訴えます」と言ってきた件」
https://note.mu/jangorok/n/n1406cbbacbf5

「雀ゴロ上京物語」
https://note.mu/jangorok/n/n0d6e74608060

いただいたサポートは記事を充実させるのに使っていきます!