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日本にはインティマシーコーディネーターは圧倒的に足りない

監督へのインタビュー記事が発端になった

炎上したのはこの部分です。

「奈緒さん側からは『インティマシー・コーディネーター(性描写などの身体的な接触シーンで演者の心をケアするスタッフ)を入れて欲しい』と言われました。すごく考えた末に、入れない方法論を考えました。間に人を入れたくなかったんです。ただ、理解しあってやりたかったので、奈緒さんには、女性として傷つく部分があったら、すぐに言って欲しいとお願いしましたし、描写にも細かく提案させてもらいました。性描写をえぐいものにしたくなかったし、もう少し深い部分が大事だと思っていました」

ENCOUNT記事より

「主演女優から要望があったにも関わらずなぜインティマシーコーディネーターを入れなかったのか?」「映画監督と主演女優というある意味上下関係がありしかも監督が男性、主演キャストが女性のため監督やプロディーサーの意向に逆らえなかったことが考えられる」
などなどの批判がSNS上に溢れました。ごもっともです。

インティマシーコーディネーターとは

インティマシー・コーディネーターの仕事は、受け取った台本を読み込み、物語の中の「インティマシー(親密な)シーン」を抜粋していくところから始まる。
台本を丁寧に読み、ヌードや性的な描写を中心に気になるシーンを抜粋します。ト書きだけでは分からない状況や動きなどを監督に聞いて、どのような描写のシーンなのかを確認します。
その後、俳優の皆さんに描写を細かく説明して、できるかどうかを確認して同意を得る。この確認を丁寧に行なって、シーンに関してしっかり理解していただくことが、スムーズな現場につながるので、時間をかけてお話をするようにしています。

woman-typeの記事から引用

このお仕事のポイントは単に映像や舞台の台本の性的描写がある部分にダメ出しをして無くさせる、のではなく、製作側と出演側が双方対等な立場で納得して良い作品創りに臨めるようにお互いの要望を統合していく役割になります。とても難しい仕事です。

https://www.blanket-inc.jp/file/entry.pdf

どんなスキルや資格が必要か?は上のリンク先を読んでいただければわかりますが、もしインティマシーコーディネーターになりたいと思っていてもその資格を習得するまでにはお金も時間もかかります。

2024年の現時点では日本にはインティマシーコーディネーターは2人しか居ない

こちらのブログに詳しく書かれていますが、現時点ではたった2人しかいらっしゃいません。2024年3月から日本での第一期生の養成が始っているものの、今稼働出来るのは2人だけ。
またインティマシーコーディネーターの養成プログラムの受講料は88万円です。

現時点ではインティマシーコーディネーターを導入したくても出来ない現実もある

日本にたった2人のインティマシーコーディネーターの方々は年間40本程度のお仕事があるそうですが、映画撮影の期間が数か月~大作になると1年くらいかかることを考えると”年間40本”は膨大な数です。そして、今回の【先生の白い嘘】がこれだけ話題になっていて、舞台挨拶で制作プロデューサーと監督が、インティマシーコーコーディネーターを導入しなかったことを謝罪することになった中、今後は【導入していない】ことで批判を受け興行収入に影響が出ることを避けるために多くの撮影現場から仕事依頼も殺到することでしょう。
しかしながら2人しかコーディネーターが今は居ない現実、そしてすでに各人が年間40本もの制作現場に関わっていることを考えると、導入したくても導入出来ない現場も増えて来るのは必須です。
2024年に養成は始まって居ますが”若干名”となっており(なぜならば養成が出来る人が恐らく現役の2人しか居ないからです)圧倒的に数が足りません。
確かに【先生の白い嘘】の監督発言は問題であり、残念でもありますがもしかしたらこの”数が足りていない問題”もあって導入しないことにしたのかもしれないとも思いました。

今後インティマシーコーディネーターを導入したくても導入できない問題がすぐに起きて来る

出演者(俳優)がインティマシーコーディネーターを要望しても数が足りない問題で導入出来ない、ということが恐らく既に起こっていてこれからもしばらく起こり続けるでしょう。そうなった時に「インティマシーコーディネーターが居なければ役を降りる」という現象も当然起こります。
またこの「数が足りない問題」が制作サイド側の”導入しない口実”になってしまうことを私は一番懸念しています。

うがった見方をすれば【先生の白い嘘】の映画監督が話していたように、「監督と役者の間に誰かを入れたくない」というのはホンネだと思います。自身がイメージしているものが監督側からすると”潰されてしまう”という思い込みも当然ありますし、インティマシーコーディネーターが入ることで台本や演出の変更、納期の延期、コストがさらにかかる・・・・制作サイドからするとネガティブ要素しか無いように思えるからです。

今後、「出演者から導入の要望がある」→「数が足りない問題で導入出来ない」→「出演者を説得?して制作を進める」→「問題は起こらなかった(なぜならが出演者が我慢したから)」→「だから導入しなくても今までの製作現場でも大丈夫である」この理論に展開することを私は一番懸念します。

奈緒さんは「わたしは大丈夫」と語った。

【先生の白い嘘】舞台あいさつ

この難しい作品に心から誠実に取り組んだ奈緒さんが舞台挨拶で言った言葉は重いです。
奈緒さんが「わたしは大丈夫」と言った言葉には嘘は無いと私は考えます。
しかしながらまたもし同じ状況で違う出演者の方が撮影を全て終えてから同じことを言えるか?は分かりません。

インティマシーコーディネーターの数を芸能界(映像・舞台)の現場でも適性な人数にするために制作サイドの大規模な支援が必要であると考える

今までのように自ら意思決定をしてインティマシーコーディネーターになったお二人だけに普及を任せていてはダメで、興行側や制作主催者が積極的にインティマシーコーディネーターの養成に金銭的な支援も含めて乗り出さないといけないと私は考えます。
①養成側の人数をなるべく早く増やすこと
②養成プログラムの受講料を”適性があってなりたい人”が受講しやすいような価格設定にすること→現在の受講料88万円は分割払いも出来るようですがそれでもかなりの高額になっています。せめて半額の40万円台くらいになれば、と考えます。そのために興行側や制作主催者側がこの養成プログラムの受講料も負担するなどの方法も取り入れることです。

風間俊介さんの舞台挨拶にも心が痛んだ

「本来こういう舞台挨拶、公開挨拶で言うことではないのかもしれませんが」と前置きしつつ「今ここの映画館にいるのではなくて、これから映画館に行く、行こうかどうか迷っていらっしゃる方、中にはいると思うんですね。そして、今じゃないかもしれないと思ってらっしゃる方がいたら、その言葉に従っていただきたいなと個人的には思っております」

Yahoo!ニュースより引用

【先生の白い嘘】の中で風間さんが演じる役は、奈緒さん演じる主人公を性的な暴力や身体を大きく傷つける暴力で支配する役です。
今回の監督発言を発端とする問題が起こってから、原作を読んでいる私は、奈緒さんだけでは無く、あの役を演じた風間さんの心のことを考えると本当に胸が痛くなりました。
風間さんの舞台挨拶の言葉もとても重いです。

だからこそもしこの作品にインティマシーコーディネーターが導入されていたら、と心から残念に思わざるを得ません。


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