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絵画と小説<小説と貞操帯>

先生は絵を描く。私は絵がからっきし下手だから先生の秘書とか弟子とかそんな風情でいつも隣にいるけれど何もできない。

昔から物語を書くことが好きだった。絵を文章化してしまうような性分で、ただし、その絵は誰かにあてがわれたものでは何も言葉が出てこない。わがままだと笑ったのは道房だったけれど、先生はそのことについて二度と話し合うことはしなかったし、その話題をことのほか嫌った。

先生は芸術肌だ。すべてを絵に捧げている。私を選んだのはそんなことが関係している。例えば先生が大企業のサラリーマンだったり、公務員だったり、医者だったり、誰かからサラリーをいただくような職業についていたら私は絶対に選ばれなかった。選ばれたとしても愛人という枠組みに組み込まれたくらいだろう。

先生が芸術家でよかった。私はセックスの度にそう感じている。

先生は私に何度も何度も教え込ませる。3回目に同じ間違いをしてしまうと、二度と甘美なお仕置きはしてくれなくなる。予告さえしてくれないから、私は行為の中から学んだ。口惜しい、もったいないお仕置きがたくさんあったことは言うまでもない。もう二度としてもらえないわけだけれど。

この間、私が書き溜めた小説を偶然にも先生に見られてしまったことがあった。先生の形相は鬼のようだった。先生の絵画からインスパイアしたわけでもない完全なるオリジナル小説なのに、先生はどうしてあんな顔をしたのだろう。何日も考えても答えが見当たらない。

上着の下は何も着てきてはいけないよ。

これは先生とデートするときの唯一絶対のお約束だ。

9月の初旬、先生は珍しく場所と時間を明確に指定した。そればかりでなく、お衣装も事細かに指定してきた。

赤い口紅、右の薬指と、左の人差し指に指輪を。眼鏡はスクエア型、アンダーヘアはそり落とし、短いスカートを履いてきなさい。それから、下着をつけてきてもいけない。君がいつも持ち歩いているPCも持ってきなさい。いいね?

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なんだか嫌な予感がした。でも指示に従わなければ先生は私に意地悪をする。2週間は抱いてくれない。

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