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社長交代 ①

    2024年2月末日、勤めている会社の社長が退任した。

                       シンプルに「さみしい」と思った。

 社長交代なんてそんなに珍しい話でもないし、これまで属してきた企業でも経験をしてきた。経営陣の交代に「不安」という気持ちを抱いたことはあったけれど、「さみしい」なんて思ったことはこれまで一度もなかった。そんな自分の心の動きには戸惑いと驚きと、なんとなく嬉しさがあった。

  2020年11月、今の会社に誘われる形で転職をした。ようやく組織にも馴染みはじめた2022年夏、定例の全社オフサイトイーティングに見知らぬスーツの男性が登壇した。 同時に前方のスクリーンに映し出されてた自社のロゴが一瞬で見知らぬロゴに切り替わった。そこから15分以上続いたスピーチが終わる頃、ようやくM&Aで会社が買収されたことに理解が追いついた。晴天の霹靂というフレーズの使い時を実感するような出来事だった。

 不安だらけの日々を過ごし、季節が冬に変わる頃に経営体制が一新された。新社長は親会社からやってきた元銀行マンで、金融時代にも製薬事業には全く関わったことがないという門外漢。しかも、若い。前社長よりふた回り以上、そして全部門長の誰よりも若い。それらの全てを体現するようにこの業界では画期的なデニムにパーカーというラフなスタイルで社長室に座っていた。
 社会人経験30年の中でもこれほどの不安な環境で働いたことはなく、あまりにも不安すぎてそれを突き抜けたら何だか興味が湧いていた。そこでちょど履修予定だった大学の「インタビューをして書く」という課題を社長にお願いしてみた。すると二つ返事で快諾いただき、就任から3ヶ月とうタイミングでたっぷり1時間、新社長と向き合う時間を得ることができた。

 インタビューでは想像以上のことを話てもらえた。学生時代から銀行勤務時代を経て親会社への移籍、そこから社長を引き受けるに至った経緯まで。基本的にはNG質問なしとのお言葉に甘え、「門外漢の業界で初めての社長業に就くことについてどう考えているのか」といったかなり失礼な質問もしてみた。我ながら大胆というか、怖いもの知らずというか…今思い返すと変な汗が出る。しかし、最後まで丁寧に、そして誠実に答えて下さった。

 インタビューを終えるころには、一緒に働くことにワクワクしている自分がいた。これもまた久々の感覚だった。

  どの業界にもあると思うけれど、私の属する製薬業界にもやはり「色」というものがある。それ自体はそれぞれの専門性の表れだったりもするので悪いことでもないとは思っている。一方でその専門性が高くなればなるほどに、他業界からの人材登用が難しくなる。そして何か新しいことをしようとしても既存の枠に囚われてしまうというか、どこか新鮮さに欠けてしまう面がある。

  今回は図らずもM&Aによって、新しい風が吹いたのだ。
  しかも結構な熱風が。

                       つづく 


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