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なんちゃって先生〜その2〜

 「先生、先生、せ ん せ いーーーー」と結構大きめな声で言われて、それが自分のことだと認識した。50年弱の人生、社会人になって30年近くになるけれど「先生」なんて呼ばれたことがないので全く気がつかなかった。学生から呼ばれるのは、3回目の講義あたりでだいぶ慣れた。しかし、かつて自分が「先生」と呼んでいた人たちにある種の同僚として「先生」と話しかけられることには最後まで慣れないままで終わりそう。

 そんななんちゃって先生である私の授業の始まりは、医療最新トピックスから始めることにしている。自分の学生時代を思い返しても、外部講師は先生であって先生ではない特別感があった。「学校」という閉ざされた空間に外の空気を入れてくれる存在だからだ。なので、教科書以外のリアルに今、社会で起きていることをあえて授業に取り入れている。ある授業のときに医療における不正行為についてのトピックを取り上げた。

 どの業界であっても不正行為はあってはならない。しかし、こと医療に関連する不正は命に直結し、社会に与える不安と衝撃は計り知れない。ただ、覚えていてほしいのは、誰もが初めから不正に自分が関わるだなんて思ってもいなかったであろうということ。何かのきっかけでそうなってしまう、又はそうなってしまった瞬間があったということ。

  命を目の前にした現場でかかるプレッシャーは計り知れない。彼女達は、二十歳そこそこという若さで再来年には看護師として現場に立つことになる。当時の自分もそうであったのだけれど、今考えると我ながらよくやってたなと心底思う。プレッシャーに押しつぶされそうになった時にはどんなに怖くても「声をあげる、助けを求める」耐えるだけが強さではないことを知って、それを身につけて社会に出てほしい。

  コロナ禍では、多くの医療従事者が理不尽な差別にあったり、より一層過酷な労働環境であったこと(今もその余波は続いている部分もある)が報道をはじめとして彼女たちの耳にも入ってきているはずだ。それでも彼女たちは、「看護師になりたい」、「誰かの役に立ちたい」と思っている。彼女達のこの純粋な思いや志を一日でも長く持ち続けられるようにと願うばかりだ。

  午後イチの一番眠いはずの授業の始まりに、少々重いトピックスではあったけれど、とても真剣な眼差しで聞いている学生を見ると「日本の未来って明るいな」なんて感動してしまい、その後の自分の仕事もなんだか捗った。プラスのエネルギーに触れることの素晴らしさと大切さをなんちゃって先生も教えてもらった。さて、残りの授業も頑張ろう!

  



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