第31回 「資産運用業高度化プログレスレポート2023」について

株式会社日本資産運用基盤グループのJAMPビジネス・イノベーションは、金融商品取引業者様及びその登録を目指しておられる方々向けに、当局の動向などをまとめた「JAMPコンプラ・メルマガ」を発信しています。

今回は、令和5年4月21 日(金)に金融庁から公表された「資産運用業高度化プログレスレポート2023」(以下、「プログレスレポート」)に関する情報です。
こちらは、金融庁が、資産運用業に関係する多くの有識者から意見を聴取し、日本の資産運用業が、国際的な動向も踏まえて、経営とサービスの専門性と透明性を高め、国民の信頼を得て、日本の重要産業として成長するために必要と考える事項を「信頼」と「透明性」の向上に向けて、取りまとめたものです。
今年のプログレスレポートでは大きく分けて、以下の3つのテーマについて言及しています。
1 資産運用業の高度化に向けた課題
2 アセットオーナーの運用高度化に向けた課題
3 確定拠出年金(DC)を活用した資産形成の課題
なかでも、このメルマガの読者に関係する「1 資産運用業の高度化に向けた課題」として取り上げられた以下の中項目のうち「1-4 資産運用業界の効率性を改善するために」で取り上げられた「1-4-1 公販ネットワークの互換性確保への対応」と「1-4-2 投資信託の計理事務(基準価額計算)と運用の分離」から抜粋し紹介させていただきたいと思います。
1-1 資産運用会社の信頼向上のために.
1-2 販売会社の信頼向上のために
1-3 運用の付加価値の向上のために
1-4 資産運用業界の効率性を改善するために

・公販ネットワークの互換性確保への対応
〇現状の問題点・課題点
販売会社と資産運用会社の間では、投資信託の日々の基準価額や設定・解約、決算時の分配金、 手数料等の情報交換を、公開販売ネットワーク(以下、「公販ネットワーク」という。)というネッ トワークインフラを通じて行っている。公販ネットワークは、資産運用業界の共通インフラとして、非常に重要な役割を果たしているが、数少ないシステムベンダーによって、各々の仕様により運営されている。(中略)
公販ネットワークの端末と投資信託の基準価額を計算する投信計理システムについては、同一の システムベンダーが一つのパッケージとして提供する場合があり、その場合には、自動接続・STP (Straight-Through Processing)化により、人手を介さずに一連の作業をシームレスに行うことが 可能である。一方で、投信計理システムを提供するシステムベンダーと公販ネットワークを提供す るシステムベンダーが異なる場合には、資産運用会社は、追加的に公販ネットワーク接続料を支払 う必要がある上、投信計理システムとの自動接続が確保されていない。このため、資産運用会社に おいては、公販ネットワークと投信計理システムへの必要な情報のデータアップロードやダウン ロードを手作業などにより対応しているが、特に投資信託の取扱い本数の多い資産運用会社の業務 の効率性及び安全性の観点、また、資産運用業界への新規参入促進の観点から、何らかの改善が必 要である。こうした非効率な状況が長年放置されてきたことで、多くの資産運用会社は、多くの販売会社が利用する公販ネットワークの端末やそれと同一のシステムベンダーが提供する投信計理システムを導入しており、投信計理システムの提供においても寡占化が進んでいる。この結果、システムベンダー間の不十分な競争による資産運用業のコスト高となっている可能性が指摘されている。

〇互換性確保の必要性について
公販ネットワークの互換性の問題については、2018年に投資信託協会が間に入り、データ連携が可能となるよう、システムベンダー間の話し合いが行われたが、現在のところ、具体的な進展はない。その後、2020年にも、日本取引所グループや証券保管振替機構等を中心に、一部の銀行、証券会社、信託銀行及びシステムベンダーが参加して、公販ネットワークの一部を分散技術を使った共通基盤に置き換える実証実験を実施しているが、実用化には至っていない。 公販ネットワークの仕様の標準化等による、資産運用業界全体の効率性改善に向けて、自主規制団体が、当局や関係機関とも連携し、必要な調整を行うことが期待される。(以下、略)

・投資信託の計理事務(基準価額計算)と運用の分離
〇現状の問題点・課題点
わが国には、資産運用会社と信託銀行がそれぞれ投資信託の基準価額を計算(二重計算)し、毎日照合するという、独自の慣行がある。二重計算の実務は、①投資信託及び投資法人に関する法律(以下、「投信法」という。)及び信託法にそれぞれ帳簿書類の作成義務の定めがあること、②投信法に資産運用会社の任務懈怠時の損害賠償規定があり、資産運用会社に基準価額算出の最終的責任があり、一円の相違も許容できないと考えられていること等を背景としているようだが、照合事務は法令で求められているものではない。(中略)
欧米においては、顧客と資産運用会社との間の利益相反や不正防止の観点から、ファンドの計理をカストディアンやアドミニストレーターといった計算の作業責任者に一元化し、資産運用会社が 基準価額変動の妥当性を検証する方法(一者計算)が採用され、運用と計算が分離している。この ため、欧米の資産運用会社は、運用機能に特化することができる。他方、わが国独自の二重計算の実務では、資産運用会社が自ら投信計理システムや計理人材を調達し、システムのメンテナンスのためにも人員を配置しなければならず、外資系の資産運用会社等からは、わが国における資産運用業のコスト高や参入障壁の要因として指摘されることが多い。

〇計理事務(基準価額計算)と運用の分離にむけて
国際金融センターの推進に取り組む中、金融庁は、業界に対し、わが国における一者計算の実現 に向けた検討を求めてきた。平成 30 年以降、投資信託協会において各種報告書が取りまとめられ、 基準価額の計算責任が資産運用会社にあることの確認や海外の事例調査等が行われ、一部の大手資産運用会社において一者計算のパイロットプロジェクトが実施されたが、未だ、本格的に導入した事例はない。(中略)
一部の資産運用会社及び信託銀行が連携し、私募投資信託を提供する資産運用会社向けに一者計算の導入を支援する具体的な動きもある。また、資産運用会社の中には、本格的な一者計算への移行を検討しているところも出てきている。牽制機能や基準価額の正確性の確保、資産の実在性確保、将来的なファンド運営コストの低減等の観点から、信託銀行による一者計算が望ましいと考えられ、今後、そうした一者計算の取組みが公募投資信託にも拡大することで、わが国の資産運用業においても、運用と計算が分離し、資産運用会社は、より多くのリソースを運用機能の強化に割くことができるようになる。これにより、信託銀行の計算結果を採用する投資一任業から、投資信託委託業への移行が容易になる等、資産運用業への新規参入障壁が低下し、資産運用会社間の競争による運用サービスの質の向上とコスト低減がともに実現する可能性がある。(以下、省略)

当社は、国際金融都市を目指している東京都に協力して、金融商品取引業に関する登録申請手続き及び金融商品取引業者等の内部管理体制強化等に関する国内外の方々のご相談に対応させていただいております。ご心配な点等ございましたら、是非当社までお問合せ下さい。

以上

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