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カセットテレコにまつわるお話


今でこそ創作系の仕事に従事させていただいてますが、こう見えて、物書きになりたての頃は記者として口に糊をしていました。
一口に記者と言ってもまあ色々ではありますけど、そのなかでも私はいわゆる“取材”をして記事を作るのが得意といいますか、まあ好きでした。
今ならネットで検索すれば数秒で結論が出るようなことでも、わざわざ人に電話を掛け、アポをとって顔を合わせて一度は話を聞く。――という馬鹿馬鹿しいようなことを、文字通り睡眠時間を削ってやっていたんですね。
「記事とは、どんな小さなことでも、自分が対面してみて初めて感じられたことを文章で表すものだ」
――なんてこだわりが当時あったわけではなく(いや少しはあったかな?)、単にそうするのが好きだからしていたにすぎませんけど。
アホですね。

さて、そんなふうに人に話を聞いて記事を作る私にとって、大事な道具の一つに携帯型のテープレコーダー、通称“テレコ”ってやつがありました。
写真にある通り、いわゆるウォークマンタイプの録音機器で、発売当時の値段で確か15,000円くらいだったと思います。
購入に至った理由は単純で、安くて機能的でってことで、当時最新の機種だったこれを先輩に薦められたから。
そもそも取材内容を録音しておいて後で繰り返し聞きながら考えをまとめるってことを教えられたのも、同じ先輩からでした。
当時は録音と言えばそろそろデジタルなものが出ていた頃で、周りには同じSONYのデジタルレコーダーを使っている記者もかなりいました。
なにしろ記者なんて人種は、大抵は新しい物が好きですからね。
そういうものが出たら飛びつく人は多いわけです。
かくいう私だって、スマホが普及する遙か以前からPDAという名の謎端末を使い、まだまだ使い物になるとは言い難かったデジカメを持ち歩いているような人種でしたから、当然、ピッカピカでサイズもカセットテレコに比べれば遙かに小さいデジタルレコーダーには惹かれました。
けど、数回“取材”を経験して、先輩が強硬なくらいにカセットテープ式のこれを推す理由が理解できてからは、これ以外を使う気になれなくなったんですねえ。
で、結果として写真に撮った予備機(仕事で使ってたものは汚らしくてお見せできるような状態ではありませんでした)も含めると、記者から創作系の物書きへと移行していく数年間のうちに、恐らく5台以上のこの機種を購入して、大変便利に使っておりました。

ちなみにカセット式のこのテレコを使う最大の理由は何かというと、テープが回っているのが一目で見えるからでした。
テーブルの上にドンと置くにせよ、或いは手で持って録音するにせよ、録音ボタンをガチャッと押したときに確実に回っているのを確認できることは、必殺取材ヤロウとしては大事だったんです。
何故って、なにしろ録音の準備は大抵相手と話しながらします。
で、ただでさえ睡眠不足な八割頭のおバカ脳な人としては、話すことに気を取られていると確認作業が疎かになりがちです。
そういう人には、やっぱりテープが回っているのが見えるという極めてアナログな表示が絶大な安心感をもたらすわけです。
更にアナログであるおかげで、“取材”される側もインジケーターランプのチカチカで無駄に緊張してしまうなんてことを減らせてましたしね(特に夜の街路なんかでは、インジケーターランプの点灯は非常に目立つので、世間的に後ろめたいことのありがちな方への取材なんかの場合は色々よろしくないんです)。

他にもこのテレコを使う理由は色々あって、↓の写真のように大きなプッシュ式の専用ボタンのおかげで話ながら手探りで操作できたり、ボタンに程よいテンションがあるので誤押下を防げる、聴き直しや倍速での再生が手早く行えて便利等々、見た目のチープさからは想像できないくらい多機能かつ実用的ではありました。

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私は基本的に最近のSONYの製品は嫌いなことが多いんですが、この機種に関しては、道具としての機能美満載な感じだったんですよね。
あまり使わない派手な機能を削る代わりに、使いこなしていくと便利な機能が満載している。
そんなところが、気に入ったポイントだったと思います。
※機能の詳細については、↓あたりをご参照ください。
https://www.sony.jp/ServiceArea/impdf/pdf/3856977042.pdf

今も昔も、私が取材する相手は基本的に話すことに関しては素人です。
ですから、その人が本当に伝えたかった内容をきちんと口で表せるとは限りません。
むしろ、話すうちに主たる部分から話の軸が逸れてしまうことも多いのです。
だから、取材した相手の声を何度もよく聞き、小さな抑揚の変化や間などからその人が話したかった部分をきちんと見つけ出そうとする習慣は、記者として、いや既に記者仕事をしなくなった私にとっても大事なことです。
――そいうことを知らないうちに当たり前にするようになっていというのは、この小さくてチープなレコーダーで取材対象者の声を何度も何度も繰り返し聞いていたお陰なのかなあなどと、久しぶりに引っ張り出してきたテレコを見て思ったのでした。

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