見出し画像

シンクに流したミルクの量だけ強くなった

自閉症の子の特徴として真っ先に挙げられるのは「こだわりの強さ」だろう。
あらゆるこだわりの中で私が最も手を焼いているのが「偏食」である。自閉症の子で偏食じゃない子の方がおそらく少ない。ただその中でも度合いがある。肉は食べられる、とか野菜は一切食べない、ポテトしか食べない、等。
もし偏食レベルを5段階に分けて5が1番ヤバいのであれば、うちの子は多分4.5くらいだと思う。しかも年々そのレベルが上がってきている。

遡ればもう遥か昔のような、4年前。
私は深いため息と共にシンクにミルクを流していた。哺乳瓶の中で飲まれないまま冷え切り、行き場を失ったそれは何度も何度も排水溝へと吸い込まれていった。シンクには乳臭い匂いがこびりついていた。
娘が産まれ、満足な量の母乳を与えることのできなかった私はミルクと母乳の混合という方法で日々授乳をしていた。産まれてすぐから病院で粉ミルクを飲んでいた娘だったが、いつしか哺乳瓶を近づけると顔を背けるようになった。そしてそのうち泣いて仰け反るようになった。

きっと母乳が足りてるんですね、とマニュアル通りのアドバイスをされたが、私の母乳は雀の涙ほどしか出ていなかった。その証拠に娘の体重は停滞した。母子手帳の体重曲線ページには細かい点が間隔を空けずにいくつも打たれ、それはゆるやかに下降していった。
健診では保健師に脳の成長の心配をされた。体重が増えないと脳の成長も止まってしまうのだそうだ。取り乱した私を見て、お母さんは少し1人になる時間が必要ですね。お仕事をされてはどうでしょう??と斜め上のアドバイスをされた。なんだこの地獄は、と思った。

結局ミルクはどうしたって飲まないのでヤケクソ気味に完母になった。離乳食はそこそこ食べてくれたので成長曲線は1歳ごろには少し上向きに持ち直したので安心していた。

そして現在。
私はゴミ箱に残飯を棄てている。
シンクにミルクを流していた日々と何も変わっていないじゃないか!
離乳食が順調に進んでいったと思いきや幼児食になるなり徐々に食べなくなっていき、今ではほぼ白米だけで生きていておかずの類いは全く食べない。
以前は納豆が大好きで毎日食べていたのだが今春頃から急に食べなくなり、今ではご飯に載せるのは特定のメーカーのふりかけと幼児用レトルトカレーしか許されない。
あとは数種類のフルーツと、海苔と、特定のメーカーのヨーグルト。あ、大好きだったアンパンマンのスティックパンも今は食べない。パン、麺類、全滅。あと良いのか悪いのかわからないがお菓子にも興味がない。欲するのはラムネかゼリーくらい。(一時期チョコブームがあったが)
偏食児の味方と言われているポテトも食べない。(2歳までは食べれたのに!)

それもこれも、自閉症の「こだわり」という特性のせいなのだ。ワガママで好き嫌いをしているわけではない。工夫すれば食べると言う域ではない。自分が許したもの以外は食べ物と認識すらしていない、したくないのだ。
結局本人がいちばん苦しいのかもしれない。
(一体前世で食べ物でどんな嫌な思いをしたの?と思いを馳せずにはいられない。毒でも盛られたんか?)

まぁでもそのこだわりとやらも急にパタッとなくなることもあるらしい。知らんけど。
大人になってもさすがに白米とふりかけとレトルトカレーしか食べないなんてないよなぁ?ないよなぁ?
そうやって私は時が過ぎるのをただ待つ。少しの希望を未来に持つ。そうでないとやってられない。やってられないのだ。
そんな私のささやかな夢は、いつか娘と一緒に美味しい料理を食べて、「おいしいね」と笑い合うこと。
もしくは私の作った料理を美味しいと言ってもらえること。
ね、なんか健気で泣けてくるね。

はっきり言えば偏食の悩みが私の育児の悩みの半分を占めているといっても過言ではない。それだけ食というのは日々に密接であるし、生きることそのものと言える。少なくとも私にとっては。娘にとってはそうでもないのかもしれないけど。
光合成とかで大きくなれればいいのにね。

娘が今いちばん好きなのは「味付け海苔」で、療育園から帰ると「のりちょうだい」のエンドレス攻撃が始まる。そりゃそうだよ海苔なんかほぼ空気みたいなもんだよ何枚食べても腹が満たされるわけがない。
ちなみに今通っている療育園は毎日弁当なのだが、メニューは勿論固定である。わかめご飯or鶏そぼろご飯にフルーツ(ほぼキウイ)、カップゼリーを2つ。あと大好きなふりかけを袋ごと持たせる。(※弁当だと何故か混ぜご飯を食べてくれる。今の所。この2種類だけだけど。助かる)
毎日同じメニューだから5分で作れる。
完食してきてくれるのが救いだ。

子供にご飯を作る。
いちばんわかりやすい親の愛のかたちなのかもしれない。どんなものを食べるのであれ子供が元気に笑って日々を過ごしてくれるエネルギーにさえなればいい。ああそうだ。だから毎日泣きながらでも私はふりかけご飯を食卓に出すさ。
いつか、の逆襲を夢見て。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?