検察庁法改正に託された陰謀と若手国家公務員の未来

⒈ はじめに

国家公務員の退職や再就職に関心を持っている私にとっては重要なマターであった国家公務員法等の改正。しかし、関係団体にとっては非常に、非常に重要なテーマであるが、この改正は国民生活には直接的な影響を持たない。目の前の生活が重要である今、より関心は薄れるはずである。

去る5月10日、キャッチーな一枚の相関図を発端に、こんなある種ニッチな改正が国民的なマターとなった。自分は、上のような認識を持っていたので驚くと同時に、色々なラベリングがなされていく様子を体感することができた。自分が認識した意見の流れと定年延長自体に思う示唆をまとめたい。私も確証バイアスがかかっていると思う。間違っていたら教えて欲しい。

⒉ 私の認識

黒川検事長の勤務延長の閣議決定

2月に誕生日で定年を迎え、退官するはずだった黒川検事長が国家公務員法81条3項(定年による退職の特例)を適用して半年勤務延長と1月31日に閣議決定
→これまでは国家公務員法ではなく、検察庁法が優先的に適用されるとされていたところ(昭和56年の人事院の答弁)を1月に解釈変更したと説明
→そんな重大な法解釈変更の手続きが口頭決裁でなされたと説明
→国家公務員法を適用するにしても勤務延長の理由の説明が雑

決裁の手続きがまずまずい、そして適用したところでその事由が要件を満たしているとは言い難い。閣議決定関しては違法の疑いが極めて高いといえるのではないか。

検察庁法改正

「国家公務員法等の一部を改正する法律案」の中の検察庁法改正部分を指す
そもそも、年金開始年齢が引き上げ、雇用と年金の接続の問題を受けて、国家公務員等の定年延長は十年以上の議論がある
→議論を受け、国家公務員法等の〜は定年引き上げ、役職定年などなどを定めたもの
→それを受け、検察庁法も改正(国家公務員法の定年制度が軸にあり、特例を定めてきた種々の法律も改正しよう)
って流れであり、施行も令和4年なので
→黒川検事長を守るための法改正!はあたらない、違法な意思決定を追認するための事後措置でもない 守れない
→むしろ、検察官全員の定年が65歳になり役職定年後は勤務延長してもその後は検事に役落としするとあるので今回のような半年延長して抜擢するなんていうおかしい人事を回避するための法律となっている(これあってますか?)

もっとも、
・そもそも一般職の国家公務員、検察官の定年を延長すべきか、って批判
・個別の人事批判ではなく、解釈変更を受けて国家公務員法が適用
内閣の指示で
定年後の勤務延長ができる
役職定年の延長ができる
となっていること(検察庁法22条)
検察の独立=是ではないことは前提だけど介入しすぎ!って批判
(もとから検事総長・検事長の任命権は内閣、その他は法務大臣にあるのだけど…)
この辺りは批判としてありうるのではないか

⒊ 検察庁法に託された陰謀

政権に対するスタンスを背景に大きく分けて二種類があると思う。かつ、条文の理解(自分もそうかもしれないが)の程度によって以下のような認識になっているだけで陰謀といった過激なタイトルにそぐわないこともあると思う。一面的な極端な理解を啓蒙することを批判しようと思っているのに極端なタイトルをつけているダサい記事となっている。申し訳ない。

・黒川検事長を守るための法改正である(×政権)

これは政権を批判する側が用意したラベリングである。発端となった相関図もこの理解を狙ったものであると思う。上述のように、実際は黒川検事長を守るためのものではないのだが、閣議決定に対する疑惑が晴れていないタイミングであり、検察庁法の資料も非常にわかりにくいのでこうした理解が広まってしまうことは無理がない状況だったと思う。勤務延長と定年延長も混ぜやすい。勤務延長は実際のところ定年の先のばしなわけで。森友や統計不正などを理由とする慢性的な政権に対する不信感、コロナ対応での支持率低下もあっただろう。#検察庁法改正案に抗議します が芸能人の間で盛り上がったのはコロナでおうち時間を過ごしていることも大きかったのではないか。批判すべきは後述する改正部分と、閣議決定のまずさである。検事長と絡めた批判は筋が悪かったと思う。

・検察官の定年を延長するだけ、なんの問題もない法改正(○政権)

これは政権を肯定する側が用意したラベリングである。最初、上のラベリングが盛り上がりを見せたあと、登場したラベリングであったように思う。確かに、一見このラベリングは正しいように思える。しかし、なんの問題もない、というところは問題である。上で説明したように、黒川検事長の勤務延長をするために、国家公務員法の勤務延長の規定が適用されるという解釈変更がなされている。そのため、検察庁法の22条に国家公務員法の81条の7(現行の同法81条の3)の適用にあたっての規定が追加されている。それにより、検事長などに対しても勤務延長ができるようになっている。検事総長就任を狙う今回のような使い方ができるわけではないが、内閣の支持で留任できるわけで、重大な理由の説明が雑で押し切った今回のような留任が繰り返されるという懸念を持った方もいるだろう。この点は問題になりうる。

このようにどう理解するかによって見え方は大きく異なる。時間があり、かつ政権の対応にも関心が高まっている今、政治に対する関心は高まっていた。このような状況で、政治の裾野が広がっていることは国民主権の我が国では非常に好ましいことだと思う。

しかし、新たに流入する方の政治や法律に対する基礎知識の不足、一次情報のわかりにくさなどを逆手にとって、このようなラベリングをすることは大きな問題ではないか。きゃりーさんの謝罪にしたってなんとも後味の悪い結末となってしまった。若者の意見がただでさえ届きにくいこの国家において、きゃりーさんのような存在は貴重なのに。アーティストとしてのきゃりーさんと、一人の主権者としてのきゃりーさん、分けて理解する素養が日本人には必要なのだろう。両面の理解をした上で、また発信をしてほしいと思っている。

⒋ 若手国家公務員の未来

この法律は期せずして周縁部分が盛りあがったと認識している。しかし、もっとも重大なのは、国家公務員の定年が60から65になることではないか。私は、いかに述べる重大な問題にしっかり配慮がなされるなら総論としては定年延長に関しては賛成である。

現在、国家公務員は60までに再就職する、60以降はフルタイム再任用で対応するということになっている(閣議決定)。再任用は一度退職した上でまた雇用されるというものである。しかし、現在、再任用希望者を全員フルタイムで任用することはできておらず、短時間勤務での再任用が中心となっている。すでに再任用で対応するという打ち手は破綻しているというべきである。そして、再任用される職員は、一度キャリアが終わっているという認識であり、士気が低いといった傾向がある。また賃金の水準も大幅に下がる。そして60歳定年自体も寿命が伸びた現在より何十年も前に設定された水準である。

こうしたことをふまえると、定年延長は妥当なのではないか。人生100年時代なんて言われる今、定年を伸ばすことは一定の合理性がある。また現在、民間企業も再任用で対応している。給与は七割水準である。しかし、会社が全額負担しているわけではなく、高齢者雇用継続給付金という国からの補助金で一部をまかなっている企業がほとんどであり、それは国の税金である。ある種いびつな状況となっている。これをふまえれば、定年延長も妥当ではないか。

しかし、最大の問題点は若手・現役世代にしわ寄せがいくということである。2年に1度ではあるが、本来役所を去る人間が滞留するわけで、その分新規採用者を縮小する必要があったり、賃金カーブを寝せて若手の給与を減らす必要がある。その対処として、役職定年の導入や賃金水準七割(同一労働同一賃金には矛盾)が導入されているわけだが、しわ寄せは必至だろう。ただでさえ、人手が足りず、長時間労働を強いられている国家公務員の労働環境のさらなる悪化やさらなる人材流出を招く恐れがある。これこそ今回の改正がはらむ重要な問題ではなかろうか。また、トヨタも終身雇用は無理だと行っている今、同じ組織に滞留する期間を伸ばすなど、全くの不合理だ、そんな意見もあるだろう。

総定員法の柔軟化を図ること。民間でも活躍できるような人材を育成できるようなキャリアプランを人事も各自も考えること。などなど今般の改正を提出した内閣人事局でできることは数多くあるのではないか。そもそも、検察官の独立性がこれほどに盛り上がり、未来を描いた方も多かったのに、国家公務員の人事を一元的に管理する内閣人事局の設置にあたってはここまでの議論になっただろうか。自戒の念も込めて、反省している。

また、役所の発信力の弱さを痛感した。検察庁法も改正案を調べることすら大変である。衆議院のページは非常に見にくく、内閣官房のページからしか新旧対照表も見れない。要綱も非常にわかりにくい。ただ、こうした問題の背景に、国民に知ってもらうための配慮がきいた資料作りをする暇すらない、という過酷な労働環境があるということも忘れてはならないと思う。かといってやらなくてもいいという言い訳にはならないが。

国民の多くを陰謀が巻き込んだことからわかる示唆は、わかりやすい資料があれば国民は政治に関心を持つということであり、それをデマに任せるのではなく、本来の形、政府発信で実現するためには、国家公務員に余裕が必要なのだと思う。そして今回の改正はさらに国家公務員の余裕をなくしてしまう恐れがあるということ。こうした皮肉な事態を招いているのである。

追記
法的には関係がなくても政治的には追及をかわしやすくなるという効果、そういう面で閣議決定と関わってくる 法的効果ではなく、政治的効果として関連してくる
そう考えると事実上の事後措置という言い方は可能か

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