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古ノルド語・スカルド詩・北欧古典

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古ノルド語(古アイスランド語)の学習メモ、スカルド詩の和訳、北欧古典に関する話題など
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中世北欧のルーン文字と言葉(古ノルド語)

最初に、北欧5か国の国名を古ノルド語と、その国の現代語表記にしたものを紹介します。 Nóregr Norge / Noreg ノルウェー Svíþjóð Sverige スウェーデン Danmǫrk Danmark デンマーク Ísland Ísland アイスランド ǫ (o の下に鬚が付く文字)は現代アイスランド語のキーボードにないので、ö で代用することが多いです。 ノルウェー語の Norge はブークモール(bokmål デンマーク語に近いといわれる)、Nor

ヴァイキングの父称についてのメモ書き

ヴァイキング時代にはまだ姓がなかったので、当時の人々は自分の名前(ファーストネーム)の後に「父称」をつけていました。 男子には〇〇ソン(― son)、女子には〇〇ドーティル(― dóttir)が付きます。 ※〇〇は父の名前(属格) ヴァイキング時代を舞台にした歴史創作などをする時に気を付けたいのは、古ノルド語では個人の名前も格変化すること。 エイリーク(Eiríkr)の息子はエイリークスソン(Eiríksson)になりますが、ビョルン(Bjǫrn)の息子はビャルナルソン(

イェリングのルーン石碑を読む

デンマークのユラン半島、ヴァイレ近郊にあるイェリングは、ヴァイキング時代には王都が置かれていました。 今はそんな面影も感じられない小さな町ですが、王の墓と思われる墳墓群とルーン石碑が残されています。 ルーン石碑2つのうち大きい方(上記画像、左)は、デジタル機器用の近距離無線通信規格の一つ Bluetooth の名の由来となったデンマークのハラルド(ハーラル)青歯王(ca. 958-987)が両親(父ゴルム老王と母テュリ王妃)を記念して建立したものです。 ルーン解読 Sid

アイスランド・サガの翻訳書案内

1970年代以降、大変ありがたいことに数多くのサガが北欧中世史や北欧古典の研究者によって日本語に翻訳されている。 最近では、北欧神話を題材にしたゲームや、アニメ化もされている人気漫画『ヴィンランド・サガ』(幸村誠著)、海外ドラマ『VIKINGS 海の勇者たち』などから北欧の古典であるエッダ・サガに興味を持たれた方も多くいらっしゃることと思う。 散文作品である〈サガ〉は、主にノルウェー王の事績を扱う〈王のサガ〉、アイスランド移住者たちを主人公にした〈アイスランド人のサガ〉、伝

古アイスランド語で書かれたノルウェー王朝史

古アイスランド語で書かれたノルウェー王朝史といえば、もっともよく知られているのがスノッリ・ストゥルルソンの著書 『ヘイムスクリングラ』。 そのスノッリが『ヘイムスクリングラ』 を書く際に資料として使った本があります。 それが 『ファグルスキンナ』 (Fagrskinna)。 美しい羊皮紙という意味です。 地元ノルウェーの研究者の間では、おそらく1220年代にホーコン・ホーコンソン王の為に書かれたと推測されています。 ノルウェー映画 『ラスト・キング』 でビルケバイネルに

『スカンジナビヤ伝承文学の研究』を読む

5月に古書店で購入した、松下正雄著『スカンジナビヤ伝承文学の研究』。 北欧古典の翻訳や著作で有名な谷口幸男氏の幾つかの著書で参考文献に挙げられていた本で、以前から気になっていました。 1965年発行ということで内容に古さはあるだろうと思いつつ、目次を見たところ、スカルド詩人好きとしては嬉しすぎる内容。 北欧の神々は(おそらくギリシアやローマ、エジプトなどの神々と比較して)あまりにも人間に近く、生贄を捧げて怒りを和らげなければならなかったり、神々を冒涜する者には復讐を辞さず、

古ノルド(アイスランド)語 学習メモ① lendr maðr の和訳について

ヴァイキング時代の北欧人が話していた古ノルド語(古アイスランド語)を学習していて、ふと気になったことや腑に落ちたことなどをメモ代わりに綴っていきます。 主に自分用ですが、間違いなどありましたらご教示いただけると幸いです。 最初に、古ノルド語と古アイスランド語の違いについて。 9世紀後半、ハラルド美髪王の時代にノルウェーからアイスランドに移住した人々が新天地にノルド語を持ち込んだので、ヴァイキング時代に話されていた古ノルド語と古アイスランド語はほぼ同じと考えてよいと思います。

Eiríksmál ー エイリーク(血斧王)の歌

古アイスランド語で記されたノルウェー王朝史 『ファグルスキンナ』 に全文が収録されているエイリークの歌 を訳してみました。 原文も参考にしていますが、まだまだ勉強中の為、英訳から日本語に訳したものになります。 エイリーク (885頃~954)は、ハラルド美髪王の後継者で、ホーコン善王 の異母兄にあたります。 彼は勇敢な戦士でしたが、自分が父王から与えられた跡継ぎとしての特権に難癖をつけて従わない兄弟を襲撃して殺し、その土地を掠奪したので、〈血斧王〉 と綽名され、恐れられて